日本水文科学会誌
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46 巻 , 3 号
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研究ノート
  • 田瀬 則雄
    2016 年 46 巻 3 号 p. 175-184
    発行日: 2016/12/28
    公開日: 2016/12/26
    ジャーナル フリー

    環境基本法に基づき,人の健康を保護し,生活環境を保全する上で維持されることが望ましい基準として環境基準が定められ,この環境基準の達成率で環境の状況や対策が通常は評価されている。河川など公共水域の生活環境項目は利用目的などにより類型別に基準値が定められているので,異なる基準を単純に達成で評価するのは必ずしも生活環境の改善となっていない。筆者は,河川の水質環境基準の生活環境項目であるBODを取り上げ,環境ファクターを導入することにより,厳しい(緩い)環境基準の達成により高い(低い)係数を与える加重達成率(Factored Achievement Rate)を提案し,見かけでない,環境の実情を反映した達成率を考えた。さらに達成している類型へ格上げして可能加重達成率(Possible Achievement Rate)を計算した。また,これに関連して,水域類型の分布から,環境の状況を示す環境指数(Environmental Index),すなわち現状の設定環境指数(Present Environmental Index)と格上げと格下げにより現実の水域類型に調整した調整環境指数(Adjusted Environmental Index)なども提示した。これらの達成率と環境指数を47都道府県について計算した結果,環境の状況を示す指標として利用できること,そして自治体が目標とすべく,環境の質と達成率の両方の向上を評価できることを示した。

  • 肥田 登
    2016 年 46 巻 3 号 p. 185-195
    発行日: 2016/12/28
    公開日: 2016/12/26
    ジャーナル フリー

    筆者は天明三年六郷髙野村絵図に出あった。この絵図は秋田県六郷扇状地の扇央に「堤」が存在していたことを示す。「堤」の跡は今も現地に残っている。関連する古文書類を分析した結果,まず,この「堤」は江戸中期に造られたものと推定された。次に,「堤」は水田の灌漑用水を補給するために造られたが,浸透能の大きい扇央の砂礫層の位置に在ったことから,「堤」には水は溜らなかった。その結果,「堤」は図らずも地下水人工涵養池と同類の役割を果たしていたものと推察される。

論文
  • 黄 琳, 沈 彦俊, 楊 偉, 近藤 昭彦
    2016 年 46 巻 3 号 p. 197-211
    発行日: 2016/12/28
    公開日: 2016/12/26
    ジャーナル フリー

    都市化が進む中国華北平原に位置する閉鎖性水域である白洋淀の水質には流域の人間活動の影響が反映されている。この様な水域を “環境湖”と定義し,その水質,特に栄養塩類に関する水質の時空間分布の特徴と,人間活動の指標としての土地利用との関係から,白洋淀の水質形成の人間要因と,水域の持つレジリエンスでもある生態系サービス機能を明らかにすることを試みた。

    人間要因として白洋淀流域の土地利用変化を地図化し,拡大する都市域と農地からの排水による汚染について記述した。さらに,白洋淀流入河川のダムによる断流,地下水位低下による白洋淀からの水損失も水質悪化をもたらす要因と考えられた。

    自然要因としては,降水量の経年的な減少傾向が水質の悪化の要因のひとつとなっている。一方,水域における生態系サービスとしての水質浄化機能の存在を,上流から下流に向かい減少する栄養塩類の流下に伴う変化と,葦の成長期後の9月に栄養塩類の濃度が低下する季節変化から明らかにした。白洋淀では,流域の人間活動による水質悪化と同時に,生態系サービスによる水質浄化機能が作用し,水質の時空間分布を形成しているといえる。

  • 井手 淨, 利部 慎, 細野 高啓, 嶋田 純
    2016 年 46 巻 3 号 p. 213-231
    発行日: 2016/12/28
    公開日: 2016/12/26
    ジャーナル フリー

    霧島火山群湧水の滞留時間を見積もるため,2007年から2013年の7 年間に渡って繰り返し採水を実施し,CFCsを測定した。湧水のCFC-11とCFC-12の濃度関係(Tracer plot)とCFC-11濃度の年変動より,湧水の大部分は異なる涵養年代の地下水が混合して流出していると判断された。平均滞留時間推定に必要な地下水流動モデルには,CFC-12濃度の変動と各種地下水流動モデルの出力値の関係および水文地質特性に基づき,指数関数+ピストン流を選択した。Lumped parameter modelを用い,指数関数+ピストン流モデルの条件で見積もられた湧水の滞留時間は,1~58年であった。また,山体上部の湧水の滞留時間は10年未満だが,山麓の主要な湧水は概ね10年以上40年未満の滞留時間であった。また,地域南部の火山麓において,ピストン流成分の卓越した長い滞留時間(50~60年)をもつ湧水が認められた。この湧水は新規の溶岩流末端部から湧出しており,溶岩流の基部を選択的に流れる地下水流動系の存在が示唆される。

特集「流域スケールでの地下水および窒素の再利用に関するプロジェクト研究(1)」
序文
論文
  • 高橋 英博, 松森 堅治, 渡邊 修一, 清水 裕太, 小野寺 真一
    2016 年 46 巻 3 号 p. 235-247
    発行日: 2016/12/28
    公開日: 2016/12/26
    ジャーナル フリー

    これまで多くの農業地域において化学肥料の多投入の影響による地下水の窒素汚染が報告されている。そこで本研究では,温州ミカンを対象として,地下水に含まれる窒素を農業生産に再利用し,肥料の節減と環境影響の低減を図る栽培体系の検討を目的とした。具体的には,高品質果実の安定生産技術として普及が進む周年マルチ点滴灌水同時施肥法(マルドリ方式)と地下水利用を組み合わせた温州ミカン栽培法の現地試験結果を元に,ライフサイクルアセスメント(LCA: Life Cycle Assessment)手法を適用し,窒素の排出による富栄養化への影響を定量的に評価した。その結果,標準的な栽培体系では生産段階で生じる水系への窒素排出量は富栄養化インパクト全体の90%前後と極めて高いが,マルドリ方式の栽培体系では水系への窒素排出量が大幅に低減し,富栄養化インパクトは標準的な栽培体系の15%前後の低い値となった。水源井戸を末端とする流域としての窒素収支は,マルドリ方式の栽培体系で利用した地下水中の窒素量が生産段階で生じる水系への窒素排出量を上回り,富栄養化インパクトで評価した場合でも浄化型となることが明らかになった。

  • 渡邊 修一, 笠原 賢明, 松森 堅治, 清水 裕太, 向井 章恵, 小野寺 真一
    2016 年 46 巻 3 号 p. 249-262
    発行日: 2016/12/28
    公開日: 2016/12/26
    ジャーナル フリー

    「周年マルチ点滴灌水同時施肥法」(マルドリ方式)とは,透湿性マルチシート下に設置した点滴チューブによって灌水と施肥を行う栽培方式である。本研究では,マルドリ方式が窒素溶脱に及ぼす影響を明らかにするために,温州ミカンの圃場において現地施肥基準をもとに固形肥料を表面散布した対照区と,対照区の60%の窒素を灌水同時施肥したマルドリ区を設け,土壌無機態窒素の変化を調査した。点滴チューブとの位置関係を考慮して,樹幹から30–60 cm離れた位置で採取した土壌を分析した結果,栽培後の土壌無機態窒素量は対照区よりもマルドリ区の方が低い傾向を示した。さらに,試験前後の土壌無機態窒素量,施肥量,果実収穫量から推定した窒素溶脱量はマルドリ区の方が対照区よりも少なかった。マルドリ区の推定窒素溶脱量と灌漑水から圃場に還元された窒素との差し引きはほぼ一致しており,正味の溶脱はほとんど生じなかったと考えられる。以上より,マルドリ方式の導入がカンキツ園での窒素溶脱を低減する効果があることが明らかとなった。

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