日本水文科学会誌
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46 巻 , 2 号
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巻頭言
特集 シンポジウム「同位体マッピング研究の最前線」
序文
総説
  • 山中 勤, 鈴木 啓助, 脇山 義史, 岸 和央, 牧野 裕紀, 丸山 浩輔, 加納 正也, 馬 文超, 正木 大祐, 杉山 昌典, 山川 ...
    2016 年 46 巻 2 号 p. 73-86
    発行日: 2016/08/28
    公開日: 2016/09/05
    ジャーナル フリー

    降水アイソスケイプ研究の進展とその基礎及び応用について,特に山岳地域に焦点を当ててレビューした。中部山岳地域の降水アイソスケイプは,高度効果と内陸効果を考慮した比較的単純なモデルで地図化可能であることが最近の研究で示されている。しかしながら,定常的なアイソスケイプの正確なモデリングには降水同位体比の年々変動に伴う誤差を減少させるため,少なくとも数年以上のモニタリングが必要である。また,既往文献で報告されている(高度変化に対する)同位体逓減率の値は,雪氷圏のデータが偏重されてきたことや内陸効果との重複によって過大評価されている可能性があることに注意が必要である。山岳域の降水同位体マップはこれまでに,地下水・湧水涵養標高の広域推定,ハイドログラフ分離の空間的拡張,大流域における滞留時間推定や河川流出・地下水流動モデルの高度化,ならびに流域規模の蒸発散分離などに応用されてきた。これらの進歩は,高山環境変化の検出や流域管理のための科学基盤の提供といった点において特に有望と考えられる。今後,同位体マッピングの時間解像度向上や生態学・人類学・法科学研究への応用における技術革新が,継続的な長期モニタリングとともに重要となるだろう。

  • 芳村 圭
    2016 年 46 巻 2 号 p. 87-99
    発行日: 2016/08/28
    公開日: 2016/09/05
    ジャーナル フリー

    水の水素・酸素同位体比の分析技術と同位体大循環モデリングの革新的な進展によって,水の同位体についても観測とモデルを結びつけるデータ同化が現実的になってきた。人工衛星搭載の分光計等による水蒸気同位体比をデータ同化することで,風や気温・気圧などの大気循環場を拘束することが可能である。この技術は,水文学や気象学で扱っている大気中の水循環過程や大気陸面相互作用の詳細解明に役立つ。一方,気候学・古気候学で重要な過去気候の復元研究ではデータ同化研究はこれまで多数行われてきた。その中で,計算量を大幅に少なくするために開発されたオフラインデータ同化技術は着目に値する。しかし,いずれの研究でも同位体情報を気候情報に換算したのちにデータ同化している。したがって,同位体情報から気候情報との関係が時空間的に一定ではないことも考慮可能な,同位体情報を直接用いたデータ同化手法を検討・開発していく必要がある。

  • 田上 雅浩, 一柳 錦平
    2016 年 46 巻 2 号 p. 101-115
    発行日: 2016/08/28
    公開日: 2016/09/05
    ジャーナル フリー

    d-excess(=δD-8×δ18O)は,主に水蒸気が蒸発する時の相対湿度,水温,風速によって変化し,大気水蒸気輸送過程では保存されるため,水蒸気の起源(どこで水蒸気が蒸発したか)の推定に有用である。本総説では,日本における降水のd-excessの観測研究と水蒸気の起源の推定に関するモデル研究をまとめ,大気水循環トレーサーとしての降水のd-excessの可能性について議論した。その結果,降水のd-excessが20‰以上,または冬季の値が夏季の値より高ければ,日本海側以外の地域の降水に日本海起源の水蒸気が卓越すると推定するのは妥当でないということを確認した。その一方,冬季において,観測された降水のd-excessと降水に占める日本海を起源とする水蒸気の割合との間に正の相関があることがわかった。これは,日本における降水のd-excessは,日本海起源水蒸気の寄与率を推定できる可能性を示唆している。降水の安定同位体比のマッピングと組み合わせることで,古気候や水資源管理に有用な基礎情報として提供できる可能性がある。

講演再録
論文
  • 一柳 錦平, 田上 雅浩
    2016 年 46 巻 2 号 p. 123-138
    発行日: 2016/08/28
    公開日: 2016/09/05
    ジャーナル フリー

    日本全域における降水の安定同位体比の空間分布と季節変動を明らかにするため,日本水文科学会同位体マッピングワーキンググループでは,2013年に年間を通した集中観測(IOP2013)を実施した。本研究では,熊本大学で同位体比を分析した56地点のデータを用いた。その結果,各観測地点における降水のδ18Oやd-excessは短期的な変動が非常に大きく,冬型と南岸低気圧との違いや梅雨の影響などが認められた。また,日本全域を6地域に分けて平均した降水のδ18Oの月平均値について, 観測地点や期間が異なるデータを地域平均した田上ほか(2013)とIOP2013とを比較した。その結果,降水のδ18Oの月平均値は年平均値からの偏差として計算しても,観測地点が少ない地域では観測期間の違いは無視できない。しかし,d-excessの月平均値は絶対値を用いて地域平均すれば,季節変動を適切に表現できる。さらに,各観測地点における短期間の採水データから解析したδ18O の気温効果は北緯35°より北しか認められず,降水量効果は北緯37°より南の地点が多いという空間分布が,はじめて明らかとなった。今後は,2013年に他地点で観測した結果をできるだけ多く収集して,さらに空間解像度を上げて再解析を行う必要がある。

  • 藪崎 志穂, 島野 安雄, 鈴木 裕一
    2016 年 46 巻 2 号 p. 139-155
    発行日: 2016/08/28
    公開日: 2016/09/05
    ジャーナル フリー

    埼玉県小川町,栃木県宇都宮市,埼玉県熊谷市,千葉県柏市,茨城県つくば市,福島県福島市,長野県松本市および京都府京都市の8地点において月降水の採取を行い,それらの酸素・水素安定同位体比の長期変動の特徴について考察した。同位体比(観測期間中の加重平均値)と,年平均気温,年降水量,標高,海岸からの距離との相関を求めたところ,降水同位体比には標高の影響が最も強く及んでおり,各地点の降水同位体比は上に挙げた4つの説明変数を用いた重回帰式により近似することが可能であると示せた。各地点の月降水の同位体比は概ね同様の変動を示しており,関東地方,南東北,中部地域の広範囲で降水をもたらす水蒸気の起源は同一である場合が多いと推測された。関東地方に位置する小川町,宇都宮市,熊谷市,柏市の4地点では,2013年1月の同位体比は観測期間中で最も低い値を示しており,これは南岸低気圧による多量の降雪が関東地方で生じたことに起因すると考えられる。しかし,福島市や松本市では降雪がそれほど多く生じておらず,また同位体比も相対的に低い値ではなく,関東地方の傾向と異なっていた。各地点の降水同位体比の年加重平均値の変動をみると,小川町の同位体比は徐々に低下する傾向が認められたが,松本市では上昇傾向にある。気象データを解析すると,降雨強度の強い降水イベントが近年増えてきており,降水の同位体比はこの影響を受けて減少していることが想定されるが,松本市のように同位体比が上昇する要因については現段階では把握できておらず,今後の検討課題である。現在懸念されている地球規模での気候変化に伴い,降水同位体比も変化する可能性があるため,今後も降水同位体比観測を継続することは重要であると考えられる。

研究ノート
  • 鈴木 彌生子
    2016 年 46 巻 2 号 p. 157-166
    発行日: 2016/08/28
    公開日: 2016/09/05
    ジャーナル フリー

    キャビティリングダウン分光分析法(CRDS)を用いて,果物(柑橘類)および野菜(ショウガ)中の水分の酸素・水素安定同位体比(δ18OおよびδD)を分析し,果物や野菜の信頼性評価を行った。柑橘類の果実およびストレート果汁中の水分のδ18OおよびδDは,濃縮還元果汁に比べて高い値を示した。また,国産の柑橘類の果実中の水分のδ18OおよびδDは,オーストラリア産,南アフリカ共和国産,アメリカ産に比べて比較的低い傾向が得られた。ショウガ中の水分では,国産のδDおよびd値は,中国産よりも比較的高い傾向が得られた。果実や野菜中の水分のδ18OおよびδDは,その植物が育った際に得た水のδ18OおよびδDの特徴を反映していると考えられ,その水は,緯度や高度といった地理的要因に依存するため,地域による差が見られると考えられる。以上の結果から,CRDSによる果物や野菜中の水分のδ18OおよびδDは,果物や野菜の信頼性評価を行うための有効な手法になると考えられる。

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