本研究では,瀬戸内海沿岸の岡山平野における地下水位,一般水質,酸素・水素安定同位体比の8年間に及ぶ観測結果に基づき,特に大出水時における河川水による非定常な涵養機構が地下水環境に及ぼす影響について明らかにすることを目的とした。
平野における深部地下水(深度10~20 m)の水理水頭はほぼゼロからマイナスの値を示し,人為的な揚水などにともなう水位低下が示唆された。また,定常時における地下水の涵養源は沖積平野上流側では主に河川水で,下流側では降水及び海水と推定された。一方,観測期間中最大の洪水後に,平野中央部の深部地下水では酸素安定同位体比(δ18O)が約2年間にわたり顕著に低い値を示し,沿岸の深部地下水では電気伝導度が最高値を示した。これらの結果から,平野中央部では水理水頭の低下した深部地下水に対して洪水時に上昇した河川水位との動水勾配が期間中で最大となり,河川水が優先的に地下水を涵養したこと,また下流側では感潮河川からの海水の侵入の影響が示唆された。さらに,洪水時における河川水の平野中央部深部地下水への到達時間は,洪水後1年間の動水勾配で推定すると169~405日と見積もられ,洪水時から深部地下水におけるδ18Oの最低値が出現するまでの時間(約300日)の範囲内にあり,洪水時の河川水による非定常な地下水涵養が支持された。