国際ビジネス研究
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10 巻, 2 号
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巻頭言
統一論題
  • 中国に焦点をあてて
    蒋 瑜潔
    2018 年 10 巻 2 号 p. 1-18
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/10/12
    ジャーナル フリー

    近年、中国ではIoTなどの新技術と関連した第四次産業革命が急速に広まり、世界から注目されている。ただし、中国における第四次産業革命の進展と世界との関係を捉えるためには、製造業に代表される第2次産業分野の発展が遅れる一方、サービス産業に代表される第3次産業分野が速く発展しているという分野による違いを考察する必要がある。
    本研究では、中国の経済発展が直面する重要課題を検討するうえで、中独設備製造産業パークとシェアリング自転車ofoの事例を取り上げ、(1)規模は大きいが強くない製造業を「大」から「強」へ変えるために、ドイツとの提携を通じて、中国は政府主導で「スマート」製造業に突き進んでいる、(2)サービス産業は労働集約型と資本集約型から世界最先端技術を駆使した技術集約型への産業構造の転換を加速するために、製造業企業を含め、企業主導で多数の新興企業や伝統企業と短期間でエコシステムを共創して拡大することがわかった。
    これらを踏まえ、スマート製造分野の国際標準化などに関する中独連携が緊密になると、手作業スキルの弱体化と大量失業の可能性が高まり、「ものづくり」の競争優位に依拠している日系企業は、中国市場への参入が困難になる可能性があると考えられる。一方、環境変化が速い時代において、中国のような新興国後発企業は、開放的なプラットフォームを築き、極めて短期間で国際展開し、また経営資源を自社内部で構築する先進国先発企業とは異質な競争相手が出現する可能性があると示唆する。

研究論文
  • 安藤 研一
    2018 年 10 巻 2 号 p. 19-37
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/10/12
    ジャーナル フリー

    本稿は、EU機関のEurofoundが提供するRestructuring events database(RED)から抽出した欧州系巨大多国籍企業による欧州での撤退事例を分析した。従来の撤退事例の研究では、個別の撤退事例をそれぞれ1件として、その要因を計量的に分析し、「何故、撤退するのか?」という問いへの回答を探ってきていた。リストラの影響を受ける雇用者数を報じるREDのデータに基づく本稿では、同じ1件の撤退であっても、撤退がもたらす雇用喪失数で見れば、相互に大きな違いがあることを示した。即ち「どの程度、撤退は雇用に影響するのか?」という問題に答えた。更に、多国籍企業は国外のみならず、出自国における子会社の撤退も確認したが、これは従来の研究に欠けていた視点でもある。また、REDで報告されている撤退の背景や経緯から、三つの撤退理由を明らかにした。第一は、多国籍企業が投資前に十分な事前調査を怠っていた場合、「異邦性の負債」ならぬ「準備不足の負債」に拠るものである。第二は、多国籍企業を取り巻く諸条件が変化したことに拠るものであり、具体的には新たな競争相手の登場などによる競争条件の変化、景気循環や構造変化による需要の悪化といった「企業外要因」であり、「受動的撤退」に結びつく。第三は、「企業内要因」であるが、これは環境変化に直面した多国籍企業が競争力を改善するための「能動的撤退」につながる。撤退以外の雇用削減のみならず、雇用増を含むリストラ全体像の中で、「企業内要因」を更に検討した。撤退は、多国籍企業によるリストラ全体において比較的小さな割合を示すこと、多国籍企業は撤退と同時に雇用創出型のリストラも行うこと、そして、そのような撤退を含む雇用削減と雇用創出のリストラは、景気循環への対応というだけでなく、新規分野への参入という多国籍企業の進化の一部を形成していることが示された。国際ビジネス研究では、多国籍企業の進化的性質を分析するという流れがあるが、「撤退」の観点からは十分研究されてきておらず、その点にも本稿の意義がある。

  • 制度の隙間の視点から
    今川 智美
    2018 年 10 巻 2 号 p. 39-58
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/10/12
    ジャーナル フリー

    本研究は、ヤクルトグループの営業手法「ヤクルトレディシステム」が、なぜ新興国市場の開拓に有効であるのかを、事例による探索から検討した。ヤクルトは戦後日本でヤクルトレディシステムと呼ばれる独自のマーケティング手法を確立し、その手法を活用することにより、世界十数か国で安定的な市場を獲得している。しかしながら、その理念的な適合性が注目されている一方で、ヤクルトレディシステムが「なぜ新興国市場で安定的に成功を収められるのか」という競争合理的側面は必ずしも明らかとなっているわけではない。ヤクルトグループが世界十数か国の新興国市場で成功を収めているのであれば、ヤクルトレディシステムという世界的にもユニークなマーケティング手法には、新興国固有の競争環境に適合する何らかの競争合理的な仕組みが存在していると考えるのが妥当であろう。本稿はこうした特殊な一事例を学術的な態度で分析することを通じて、その背後にある論理性を明らかにしようとするのである。

    本研究の分析は、新興国市場を特徴づける「制度の隙間(institutional voids)」がもたらす様々な問題を解決する手段としてヤクルトレディシステムを位置づけられることを明らかにした。これまで、制度の隙間が新興国の経済や企業の行動にどのような影響を与えているかはよく議論されてきたし、またその一つ一つの隙間に対してどのような策が有効であるのかも検討されてきた。しかし、様々な制度の隙間が総体として織りなすものとして各新興国市場をとらえたとき、そこで機能するものとしての事業システムがどのようなものであるのかは、必ずしも明瞭にはなっていないのが現状である。本研究ではその一つの解としてヤクルトレディシステムを提案し、「制度の隙間の諸条件によらず、安定的に運用可能なシステムであること」を分析の中からその理由として提案した。

  • 中国中小企業の実証研究
    祁 岩
    2018 年 10 巻 2 号 p. 59-73
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/10/12
    ジャーナル フリー

    HRMは従業員のコミットメント、コンピテンシーなどを高め、従業員の成果の向上を助けることになる(Koch & McGrath, 1996)。80年代から多くの研究者はHRMが組織成果に影響を及ぼすと主張してきた(Beer et al., 1984; Fombrun et al., 1984; Guest, 1997 など)。理論形成の進展と統計学の進歩に伴い、90年代からHRMと企業業績(Firm Performance)(以下“HRM-FP”という)の実証研究は多文化、多地域、多産業、多業種において確認されている(e.g. Arthur, 1994; Huselid, 1995; Kaman et al., 2001; MacDuffie, 1995; Ngo et al., 1998; Stavrou and Brewster, 2005; Wright et al., 2005; Youndt et al., 1996; 竹内, 2005など)。しかし、これらの研究は大企業を対象としており、世界の経済発展に必要不可欠となっている中小企業の研究に注目する必要が出てきた。特に、世界経済発展に大きく貢献しているインド、中国などの発展途上国における中小企業の実証研究は非常に意義がある(Kasturi et al., 2006: 178)。

    そこで、本研究は中国東北地域遼寧省朝陽市にある393社の製造会社を取り上げ、HRM-FPの分析を行なった。まず、HRM施策/システムはHRM成果やFPに有意な正の影響を与えることを発見した。また、現行のHRM施策/システムは最近3年のHRM成果より今後3年のHRM成果により大きく影響することがわかった。次に、最近3年のHRM成果は今後のFPに有意な正の影響を及ぼすことも発見出来た。最後に、HRM成果はHRM-FPにおいて部分的媒介を果たす効果を検証出来た。

研究ノート
  • 日本企業アジア子会社における比較事例研究
    林 尚志
    2018 年 10 巻 2 号 p. 75-89
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/10/12
    ジャーナル フリー

    日本企業の海外子会社における“人材の現地化”に関しては、従来、多くの研究において、「ヒトを通じた“直接的コントロール”」という日本企業の特徴ゆえにその進展が遅れ気味となる傾向が確認されるとともに、この“現地化の遅れ”が、現地における優秀な人材の定着、現地市場や現地知識を活かしたイノベーション等の各面で悪影響をもたらす点が指摘されてきた。その一方、近年いくつかの研究において、「人材の現地化を“早めること”から問題が生じる可能性」が併せて指摘されるとともに、数量統計的な分析においても、現地化の進展が必ずしも当該企業のパフォーマンスの改善をもたらす訳ではない点が確認されてきた。

    本研究は、筆者によるアジア子会社への聞き取り調査において、上述の「現地化を早めることから生じる問題点」の“1つの具体的なあり方”として、登用された現地人幹部による“知の専有”(知の囲い込み)の問題が確認された点をふまえ、3つの事例の比較考察を通じ、「なぜ&どのように“知の専有”の問題が生じるのか」という疑問を考察する。

    すなわち、筆者が2007年と2013年に行った調査において、いくつかの事例では、現地人材の幹部職への登用に伴い、彼らによる“知の専有”が生じる傾向が指摘される一方、別のいくつかの事例では、彼らの幹部職への登用に伴い、彼らを含むメンバー間の“知の共有”が一層促される傾向が指摘されたが、これらの事例で“知の専有”、“知の共有”の各々が生じた状況を考察してみると、両者のいずれもが、石田(1994等)が論じた「職務の分担が不明確な境界領域(グレーゾーン)への対応」と深く関わる形で生じた点が確認された。この点をふまえ、本研究では、石田の分析枠組に若干の変更を加えた「グレーゾーンに関わる“対応型vs.放置型”モデル」を用いて“知の専有”、“知の共有”の双方が生じる具体的な状況を説明するとともに、「知の専有vs.知の共有」の違いをもたらす誘因に関して比較的詳細な回答が得られた3つの事例に注目し、これら事例間の相違点を考察する。そして、「(i)“個人的技量への依存度”の大きさ」が、当該幹部にとっての「“知の専有”に伴い“更迭されるリスク”」、および「“知の専有”に関わる“魅力”」の両者と関わり、「“知の専有”を促す(“知の共有”を妨げる)要因」となる一方、「(ii)“グレーゾーン対応能力”の育成を通じて実感される“成長機会”の大きさ」が「“知の共有”を促す(“知の専有”を防ぐ)要因」となると推察される点を確認する。

  • 中田 寛
    2018 年 10 巻 2 号 p. 91-103
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/10/12
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は、企業がオンライン上のプラットフォームに不特定多数の消費者の参加を促し世界共通の製品に関わる新たな価値を探索し調整するメカニズムを探ることにある。

    グローバル化に伴い、潜在的な需要の大きな伸びが期待される中国やインドはじめ新興国の現地に適応しつつ、既存市場を含め標準化された製品をいかに効率的に販売するかが企業のさらなる成長に欠かせない状況になってきている。一方で、世界各地の消費者が企業の価値提案をどのように知覚し評価しているかを探るのは容易でない。また、製品を使用する文脈を捕捉するのも、消費者それぞれの深層で育まれる主観的で状況依存的な製品に対する想いや意味づけをバイアスを挟まず読み解くのも企業にとり簡単でない。結果として、企業主導による消費財に関わる価値の創造と提案が従来通り受け入れられる可能性は低くならざるを得ない。さらに、消費財はその製品に求める特性や嗜好が国を超えて異なり、かつ市場の複雑性は産業財に比べ高いことから消費財の標準化の効率は低いといわれる。

    しかし、本研究では消費財だからこそ、たとえ標準化された製品であっても消費者による提案と評価を通じ次第に標準化する価値と現地適応する価値を同時に備えることになる仕組みを考察する。そこでは、企業がグローバルな規模で消費者から特定のテーマに対する提案を募集して消費者間でブランドらしさを評価し新たな価値の発見を試みる。

    情報通信技術が進展しグローバル化が進む中で、企業と消費者の協働による価値の探索に新たな視点を提起し、最後に実務的インプリケーションを論じる。

  • 山内 利夫, 立本 博文
    2018 年 10 巻 2 号 p. 105-118
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/10/12
    ジャーナル フリー

    本研究は多国籍企業における内部化理論を軸として、2つのコントロール・メカニズムと海外事業の業績との関係を考察した探索型研究である。2つのコントロール・メカニズムとは、出資比率などの公的コントロール・メカニズムと価値観の共有などの組織的コントロール・メカニズムのことである。

    日系企業の海外投資額は年々増加しているが、その収益性は高いとは言い難い状況にある。一方、海外事業の拡大により、企業が事業運営で考慮すべき外部要因が多様化して経営が複雑化するため、組織マネジメントの特性が業績により影響すると考えられる。

    本研究では日系上場電機・機械・精密機器企業106社を対象として、海外拠点の公的なコントロール・メカニズムである「経営権の確保」の状況を確認するとともに、組織的コントロール・メカニズムに影響を及ぼすと考えられている「経営者の特性」を調査し、業績との関連性を分析した。

    その結果、ほとんどの企業が海外投資先を子会社化して経営権を確保し、グループ支配を強化する方向にあった。しかし、グループ支配の強弱と収益性および海外事業の成長性の高低との間には一定の傾向は見受けられなかった。また、経営者の特性について、創業者一族が所有と経営の双方に関与する場合、収益性と海外事業の成長性が高い傾向にあった。但し、低業績のファミリー企業および高業績の非ファミリー企業も存在していた。

    本研究の貢献は、日系企業の海外事業の成否について、マネジメントの視座から分析するアプローチとその結果を提示したことにある。今後の課題として、データの充実、高業績企業と低業績企業の比較事例研究、株主や取締役会の多様性など調査設計の拡充などが挙げられる。

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