国際ビジネス研究
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11 巻, 2 号
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巻頭言
統一論題
  • 池上 重輔
    2019 年 11 巻 2 号 p. 1-13
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/11/06
    ジャーナル フリー

    日本企業にとってクロスボーダーM&A とクロスボーダー・アライアンスの戦略的重要性が増してきている中、その統合マネジメントに関しては必ずしも研究の蓄積は多くない。本稿は2018 年度の国際ビジネス研究学会の全国大会の基調講演をベースに、クロスボーダーM&A においては買収後統合(Post-Merger Integration: PMI)、クロスボーダー・アライアンスにおいてはアライアンス・ガバナンスと呼ばれる“統合マネジメント”が国際ビジネス研究のフロンティになりうる可能性、そしてこの2つの研究が相互補完的な関係になりうる可能性を基調講演のゲスト企業2社の事例も紹介しながら問いかける。

    企業がアライアンス管理に関する知識を収集、共有、保存し、この知識を現在および将来のアライアンスに適用する能力を指すアライアンスマネジメント能力に関しては相応の研究蓄積があるが、今後はトラスト、資源の相互補完、アライアンス・ガバナンス(パートナーの機会主義的行動管理)の研究が重要となってこよう。M&A 研究においては「どのような( 事前の) 条件で、企業買収するのか?」から「どのように買収企業を選択し、統合するのか?」 へと重点がシフトしてきた。PMI 手法は、戦略的相互依存性と組織的自立性という2軸で分類しうるが、相互依存が高く、組織的自立性も高いことによってシナジーが期待できる場合は“共生型”のPMI が適切な場合があり、今後は共生型をどうマネージするかの研究が必要になるだろう。

    日産(とルノー)の事例は、2社の戦略的アライアンスという側面とルノーによるPMI という2つの側面で見ることにより多様な示唆を得る可能性があること、時間をかけてシナジーを実現してゆくプラスとマイナスがあることなどが見えてこよう。リクルートの事例はクロスボーダーM&A における共生型の先進事例であり、その背景として明確な経営戦略を持つことの重要性を示している。

研究論文
  • 日本と韓国の大学生を対象に
    金 炯中
    2019 年 11 巻 2 号 p. 15-29
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/11/06
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は、国際的視点からSNS広告に対する消費者の反応を解明することである。具体的には、関連領域の先行研究からSNSの利用動機、SNS広告に対する態度、SNS広告に対する行動意向といった概念を取り上げ、各構成概念間の関係を実証分析によって明らかにする。同時に、これらの消費者反応における国籍の影響についても検討を行う。分析に当たっては、日本と韓国の大学生を対象に実施したアンケート調査結果を元に、共分散構造分析を用いた。

    その結果、まず、SNS広告に対する態度とSNS広告の利用意向との間には正の関係があることが判明した。また、社交的動機はSNS 広告に対する態度に影響を与えるだけでなく、SNS広告の利用意向にも直接影響を及ぼすことが明確になった。さらに、日本と韓国の大学生を比較した場合、各構成概念の関係において高い類似性が確認された。これらの分析結果から、SNS広告の国際展開に関する理論的・実践的インプリケーションを提示する。

  • 日立地域中小企業のDOI(Degree of Internationalization)と自立化の測定
    菅田 浩一郎
    2019 年 11 巻 2 号 p. 31-47
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/11/06
    ジャーナル フリー

    本稿は日本の地域における中小企業がいかにして国際化を進めるのか、その特徴につき自立化の観点を絡ませつつ、日立地域の中小企業に焦点をあてて考察する。企業城下町的産業集積地において中核企業を頂点とするピラミッド型取引構造の中で従来は下請外注として位置づいてきた中小企業が国際化するためには、独自技術や営業力に裏打ちされた自立性を後ろ盾とする必要がある。そのため、本稿はDOIと自立性の二軸よりなる測定指標を策定し、理想プロフィール手法による分析を行う。

    中小企業の国際化については、ニッチ市場向け特殊技術ゆえの海外進出希求、専門性を用いた規模の経済の追求等がその契機として論じられる一方、その形態論としてはUppsalaモデルが援用されるなどしてきた。また中小企業の自立化をめぐっては独自技術の獲得が価格交渉力を引き出し、自立化をもたらすとされてきた。さらに国際化と自立化は相互補完的に進むとも論じられてきた。しかし、日立地域のような企業城下町における中小企業の国際化と自立化につき、測定指標を設定して定量的な分析を試みた研究はない。長年、下請企業とされてきた類の日本の中小企業は国際化することが稀有であったためか、本稿のような二軸の測定分析は重要であるにも関わらず行われてこなかった。本稿の分析枠組みは、従来下請と呼ばれた中小企業の自立化をテコとした国際化を説明する点が理論的貢献となる。

    本稿は、日立地域の中小企業49社に対してヒヤリングを行うとともに、41社より左記の測定指標をベースとしたアンケート調査への回答を得て、分析する。DOI測定指標は当該企業の国際化段階、国際化の成果、対外能力、国際化に向けた経営者の認識を問う。その際、欧米の先行研究にみられるDOI測定指標を援用しつつも、日本の地域の中小企業の現実を説明できる指標となるよう修正した。

    アンケート調査の結果、多数の企業が自立性を確保していること、国内志向の企業が多数とはいえ、20%近くの企業は国際化を進めていること、中核企業に追従して海外進出している企業は皆無であること等が判明した。

    分析から日立地域の中小企業はもはや護送船団方式の下請企業ではないこと、実務的に各企業は業種毎に独特の個性を示しながら、技術力をテコに自立化を進め、各々の持ち味、得意技を磨きながら、国際化、自立化、もしくはその両方を追求していることが判明した。

研究ノート
  • TSMCと日系装置メーカーJ社の取引関係の事例分析
    楊 英賢, 阿部 嘉隆
    2019 年 11 巻 2 号 p. 49-65
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/11/06
    ジャーナル フリー

    本研究は、台湾半導体産業における組織間関係の構築のプロセスを明らかにする。特に、TSMCと日系装置メーカーJ社に注目する。本研究はインタビュー調査内容や既存研究に基づき、定性分析を行う。主な研究結果は次のように示す。第一に、TSMCとJ社との取引過程について最も重要なことは、販売価格やサービスより、技術そのものである。第二に、両社の組織間関係は初期の単純な市場取引関係から、次第に顧客工場の現場のデモを通じて、後期まで緊密な信頼関係を構築することができる。第三に、両社の初期と後期における組織間関係の変化で鍵となるのは、デモによる相互信頼の強化である。このように、両社の協調的な行動に基づいて、相互の技術能力向上により、結果としては、両社共に高い競争優位をもたらしているのである。

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