国際ビジネス実務における異文化マネジメントニーズは、近年非常に高まってきている。しかしながら、実務家が参照し得る異文化マネジメントのスキームや指針を議論したものは少ない。本論文では、異文化マネジメント研究の経緯と現状をレビューし、国際ビジネス実務において異文化マネジメントを展開する上で指針となり得るフレームワークの提示を試みたい。異文化マネジメントの学問領域は1950年代からアメリカを起源として発生し、ビジネスのグローバル化と共に発展してきた。そもそも文化人類学、心理学、コミュニケーション学から派生した研究領域であることから、従来の異文化マネジメント研究における最大の関心は、「文化」を客観的、普遍的に定義していくことにあった。Hall(1976)のコンテクスト高低論が画期的な一歩であり、Hofstede(1980)が大規模な実証研究を伴って国民文化の文化的相違の様相を可視化した。Hofstedeの研究は、国民文化の違いを社会科学的に示し、国際ビジネス研究分野での文化の影響に関する研究を増やすことに大きく寄与した。しかし、Hofstedeの理論および方法論には賛否両論があり、国民文化の文化的相違を示す研究精度を更に高めるべくSchwartz、Inglehart、GLOBEプロジェクトが続いた。こうした文化的相違の実証研究は理論的進展を遂げてはいるものの、その議論は複雑さを極めながらも唯一絶対の回答に行きつくところに至ってはいない。他方、グローバル競争環境そのものが単純グローバル化から複雑系グローバル化へと大きなパラダイムシフトを見せている。IT技術の進化に伴う高度情報化社会の到来、様々な規制緩和と共に人、モノ、カネのモビリティが格段に向上、かつ新興国市場の台頭等、現在のグローバル化社会は20世紀とは比較にならないほど複雑さを増している。グローバル化がより複雑化する中で、文化に関する議論も国民レベルが果たして妥当であるのか、サブユニットである社会的グループや組織レベルでの文化への関心も高まってきている。また、文化的相違のみならず、知識移転における様々な距離の影響等、異文化マネジメント研究における関心領域は拡張しているが、「異文化マネジメント」を端的に定義する議論は展開されていない。本論文では、これまでの異文化マネジメント研究で別々に議論されてきたコンテクスト、距離、埋め込みの概念を組み合わせて、CDEスキーマとして異文化マネジメントの指針となる考え方を提議し議論を行うものである。
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