日系メーカーの新興国市場への参入後のボリュームゾーン獲得について、90 年代後半から国際マーケティング論やものづくり論、BOP (Base of the Pyramid) の視角から多くの研究がなされてきた。日系メーカーの製品は高機能・高品質の技術優位にあるが販売に弱いと言われる中、国際ビジネスにおいて新興国市場での成功の可否が多国籍企業の成長を担う重要なビジネス機会とされてきた。
これらの研究に於いて日系メーカーが新興国市場に参入して成功を得る為に、現地市場の要求に理解を深め、顧客ニーズに適応する製品開発と生産が重要であることが論じられてきた。
しかし今でも多くの日系メーカーは製品の技術的な品質の適合以外の要因で、なかなか新興国市場への販売チャネルを太く出来ずにいる。多くの産学官関係者に捉えきれない大きな壁として認識されている。
本論では日系メーカーの新興国市場へのボリュームゾーン拡大の困難に直面している事実を踏まえ、事例研究から販売戦略について考察を行う。事例研究は高機能・高品質帯の生産を主とする日系大手電子材料メーカー A 社が新興国市場の代表格である中国市場のボリュームゾーン獲得するための事業戦略を取り上げた。
A 社は中国市場で大きな販売網を持つ、汎用品の生産を主とする中国国内大手電子材料メーカー B 社との業務提携通じて販売網の獲得を希望した。業務提携はA社の技術力とB社の販売網のトレードであり、A 社と B 社との業務提携交渉と締結後を事例研究として中国市場のボリュームゾーン獲得の成功の成否について検討する。
しかし両社の業務提携交渉が 2009 年春から4年、業務提携契約締結後から2年を経た 2014 年現在において、A 社が期待する中国市場でのボリュームゾーンの獲得の成果はあがっていない。その理由を考察した結果、交渉の以前や最中に A 社と B 社の間に信頼関係構築に両社が最も力を注ぐべきだったと指摘できる。一方で A 社は業務提携から得た経験を踏まえ、中国国内の新規顧客の獲得と今後の売り上げ増を期待できる展望が持つ事が出来た。言い換えれば中国企業との業務提携単体では失敗の事例研究であったが、中長期的には中国市場のボリュームゾーン獲得の大きな引き金になったといえる。
この指摘は新興国市場獲得に苦戦している多くの日系メーカー、とくに高機能・高価格品帯のメーカーの一助になる含意である。
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