日本企業の国際人的資源管理 (International Human Resource management: IHRM) の先行研究では、本国籍人材(Parent Country Nationals: PCN)が海外子会社の運営を主導するという特徴が指摘されてきたが、その背景には、日本企業が輸出型から海外生産型へシフトした「オペレーションの国際化」があった。しかし、新興国の台頭が著しい近年においては、現地の市場に密着した機動的な運営を目的とする「マネジメントの国際化」が必要となってきている。そこで本研究では、9つの企業を対象にケーススタディを行い、(1)日本本社で行われている人的資源管理方法の現地への移植度合い、(2)海外拠点における現地国籍人材(Home Country Nationals: HCN)の活躍状況、および(3)本社の人事部門の問題認識の状況の3つのリサーチ・クエスチョンに答えることによって、日本企業の IHRM の今後の方向性についての新たな視点を提示することを主たる目的とする。
調査の結果、1)については、製造部門でのジョブ・ローテーションや多能工化が海外子会社でも重視されており、それ以外の人的資源管理システムの多くは、現地で行われているものを採用していることが分かった。2)については、調査対象の企業経営方針の違いによって HCN の登用度合いに差が見られたため、調査対象企業を「急進的 HCN 活用グループ」と「漸進的 HCN 活用グループ」に分類した。HCN の登用のあり方は本社の国際化と連動していた。なお、HCN の活動を支えるコミュニケーションや意思決定への参加状況については、調査企業すべてにおいて改善されていた。3)については、人的資源管理の国際化の志向に応じて本社人事部門の問題意識も異なることが分かった。以上の結果から、「マネジメントの国際化」を志向する日本企業の IHRM は、日本的な人的資源管理システムの特徴をある程度維持しつつ HCN を急進的もしくは漸進的に登用し、かつ本社の国際化も同時に推進していくことで、本社-海外子会社間の双方向的連携を強化していくことが予想される。
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