国際保健医療
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22 巻, 2 号
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原著
  • 庄野 あい子, 大前 比呂思, 増田 美砂
    2007 年 22 巻 2 号 p. 79-87
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/08/10
    ジャーナル フリー
    1997/1998年のアジア通貨危機の影響により、インドネシアにおける貧困人口は急増した。その後、状況は改善に向かいつつあるが、今後は、固定化した貧困層に対して多面的かつ長期的な取り組みが必要とされる。本研究では農村地域に焦点をあて、1998年に開始されたソーシャルセーフティネット・プログラムの保健医療分野から、無料診療カードを取り上げ、特にその運用面から有用性と限界を検討した。
    調査対象村2村における実際の無料診療カードの配布状況を見ると、地域住民自身によるウェルスランキングから抽出した「相対的貧困世帯」は、各々30%、56%しかカバーされていなかった。また利用歴をみると、2村ともに調査対象世帯のうちの約半分の世帯しか利用した経験がなく、カードを紛失してしまっている世帯も半数にのぼった。関心が低く、利用回数が少なかった理由として、無料診療カードに対する医療関係者の無知と無関心、さらに、それらが利用者のスティグマを生む状況が指摘された。
    以上のことから、無料診療カードは、実際の運用に関しても問題の多いプログラムと判断された。受益者選定の改善に関しては、対象者と非対象者との間に共通の認識が得られるように、今回の調査でも用いた、住民参加型のウェルスランキングの手法を利用することが考えられる。また、関係する医療関係者に対して、情報を的確に伝えるとともに、対象者の定期的な見直しなど、柔軟な運用が行われることが望ましい。さらに、対象者の選定に参加できる人材として、助産師や教員といった外部村出身で、相対的に高学歴ながら村に常駐する人々が、第3者的視点も持ちえる点で候補となると考えられる。無料診療カードのような裨益者が限定されるプログラムの場合は、対象者がサービスを受けやすい制度を考えるとともに、裨益者の妥当な選択に参加できる人材についても、その選択と育成を強化することが望まれる。
  • 内海 孝子, 中澤 港, 川端 眞人
    2007 年 22 巻 2 号 p. 89-94
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/08/10
    ジャーナル フリー
    目的
    災害体験はそれ自身による心理的影響のみならず、慣れ親しんできた環境の喪失等による二次的な影響ももたらす。特に青少年では、心的外傷後、高頻度でPTSD(Post-traumatic Stress Disorder)を起こし、その影響がより長期化することも知られている。本研究では、ソロモン諸島の民族紛争の終結後5年経過した時点の青少年において、PTSDの遷延化がどの程度認められるかを把握し、その要因について検討することを目的とした。
    方法
    2006年、ガダルカナル島の2地域とマライタ島において高校生等199名を対象に半構造的インタビューを行った。質問項目は対象者の基本的属性、紛争の被害状況、紛争に関連する感情であり、調査時点でのPTSD症状に関してはIES-R(Impact of Event Scale Revised)を使用した。更に対象者を、「紛争発生時住んでいた場所」により3地域(A、B、C)に分類し、IES-R成績とその要因について検討した。Aは紛争の被害が甚大であった地域、BはAに準ずる被害を受けた地域、Cはガダルカナル島から多数の避難民が流入したマライタ島である。
    結果
    物理的被害が甚大であった2地域(A、B)では、紛争に関連する感情が有意に認められた。特にAでは、男女間における被害の程度に差はないが、紛争に関連する感情は男子に有意に出現し、IES-R得点も男子に有意に高値であった。IES-R得点はそれぞれ33.4点(A)、30.0点(B)、34.5点(C)であり地域差は認められないが、他の災害時における得点と比較し高値を示した。
    結論
    民族紛争後5年経過した時点におけるIES-R得点は3地域共高値を示し、ソロモン諸島の青少年におけるPTSDの遷延化が示唆された。PTSDの遷延化に影響を及ぼす要因として、紛争に対する感情の強さ、家族及び知人との別離と長期的な避難所生活の経験、及び性差が考えられた。
活動報告
  • -LED ライトボックスによる顕微鏡マラリア診断術向上と啓発活動プログラム-
    大橋 眞, 川端 眞人
    2007 年 22 巻 2 号 p. 95-98
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/08/10
    ジャーナル フリー
    マラリアは、年間150-270万人の死者を出している重要な寄生虫疾患である。最近敏速なimmunochromatographic test(ICT)が開発されたものの、開発途上国においては、依然としてギムザ染色した厚層、および薄層塗末標本の顕微鏡診断が標準的な方法である。今回の研究において、我々は、マラリア流行地で使用可能な発光ダイオード(LED)を用いたライトボックスを開発し、その有用性をマラリア流行地のソロモン諸島マライタ州の数カ所の診療所で調べた。その結果、このライトボックスを試用した検査技師のすべてが、「マラリア診断に有用なツールとして期待できる」。と回答した。
資料
  • 李 錦純
    2007 年 22 巻 2 号 p. 99-105
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/08/10
    ジャーナル フリー
    本研究は、在日コリアン高齢者の介護保険サービス利用意向に関連する要因分析を行い、介護保険サービスに対する認識とニーズを明らかにすることを目的とした。
    東京都A区の在日コリアン高齢者民族団体所属会員のうち、65歳以上の会員全員に調査票による訪問面接調査を行った。調査項目は介護保険サービスの利用意向の有無と(1)素因(基本属性・日本語のコミュニケーション能力・家族介護指向)(2)利用促進・阻害要因(サービス周知度・経済状況・公的年金受給の有無・サービス利用実績)(3)ニード要因(主観的健康感・ADL・IADL)とした。χ2検定により、利用意向の有無とすべての項目との関連を検討した。
    分析対象者78名の特徴として、在日2世高齢者が35.9%含まれていたこと、家族介護指向が強いこと、識字能力に幅があること、無年金者が26.3%存在したことが挙げられた。69.2%が利用意向を示し、家族介護指向と経済状況との関連において有意差が認められた。介護の社会化を肯定的に受け入れており、自宅において家族中心で外部のサービスも取り入れるという介護を望む者が多かった。年金受給の有無と経済状況・年齢に有意な関連があり、高齢で無年金の在日コリアンにとって、介護保険料・利用料の負担は日本人高齢者以上に大きく、必要なサービスを抑制する可能性が示唆された。サービスへのアクセスを容易にできるような支援体制の整備、個々人の介護ニーズに対応した包括的な援助が望まれる。
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