目的
日本に居住する外国人の自然災害への準備(自助、共助)とその関連要因を明らかにすることを目的とした。
方法
日本滞在歴3か月以上で、中国語、英語、ベトナム語、やさしい日本語のいずれかの言語での回答が可能な18歳以上の外国人を対象に、無記名の自記式質問紙調査を実施した。調査内容は、個人要因(基本属性、日本での生活満足度等)、災害準備の関連要因(災害へのリスク認知、災害準備の実行可能性、防災意識、命令的規範、居住地域や人々とのつながり)、災害準備(自助・共助)であった。災害準備の自助として指定避難場所の把握、ハザードマップの確認、家族等との災害準備に関する話し合い、家庭内備蓄、共助として災害時の救助活動への協力意思を尋ねた。記述統計後、単変量解析にて有意な関連が見られた変数及び調整変数(年齢、性別)を独立変数、各災害準備を従属変数とした二項ロジスティック回帰分析を行った。
結果
回答数は215件であり、有効回答数は207件であった。回答者の平均年齢は33.8(SD=10.4)歳、男性が51.7%、出身は中国(48.8%)を含む全27カ国・地域が含まれ、日本滞在歴は3〜5年未満(27.1%)、職業は学生(37.7%)が最も多くを占めた。災害準備(自助)のうち最も実施割合が高かったのは指定避難場所の把握(67.6%)、次いで家族等との災害準備に関する話し合い(56.5%)であった。災害時の救助活動への協力意思がある者は93.3%を占めた。多変量解析の結果、男性、40歳以上、同居者がいる、経済的余裕がある、被災経験がない、地域活動の参加経験が自助と日本人との付き合いがあることが共助と有意に関連していた。
結論
在住外国人にとって家族や仲間とのつながりだけでなく、日本人を含む居住地域の人々との交流や防災訓練を含む地域活動に参加することが外国人の災害準備を促す上で重要であることが示唆された。
目的
外国人患者の宗教・文化的障壁に関する量的研究は数少なく、日本の医療機関における関連の検討は未だ限定的である。日本語が母語でない外国人患者の宗教・文化的背景と医療機関における困難な経験との関連を明らかにする。
方法
日本の医療機関に受診経験のある日本語を母語としない者を対象に、日本語、英語、中国語、ベトナム語の4言語でGoogle Formsによる質問紙調査を実施した。回答の得られた376人(回収率19.7%)のうち、無効回答を除く350人を解析対象とした。医療機関における困難な経験の有無を目的変数、回答者の性別、年齢、宗教、日本語能力、受診目的、診察室でのコミュニケーション方法を説明変数として、ロジスティック回帰分析を用いて検討した。
結果
解析対象者のうち無宗教が237人(67.7%)、キリスト教が29人(8.3%)、イスラム教が12人(3.4%)、ヒンドゥー教が22人(6.3%)、仏教が50人(14.3%)であった。困難な経験ありのオッズ比は、無宗教と比較してヒンドゥー教(オッズ比[95%信頼区間]=6.35[1.51-26.77])とキリスト教(3.67[1.27-10.61])が有意に高かった。困難さとしては、ヒンドゥー教は「食」(50%)が半数を占め宗教・文化的背景が認められた一方で、キリスト教は「宗教」(22%)、「文化」(22%)、「医療費」(22%)と様々な困難さが認められた。
結論
本研究では外来患者が多い割合を占める外国人患者の、宗教と日本の医療機関における困難な経験との関連が示された。特にキリスト教とヒンドゥー教の対象者において日本の医療機関で困難な経験を抱える傾向にあることが認められた。本研究結果から、外来における宗教・文化的配慮のニーズが示唆され、医療通訳者の活用や医療者による国際看護の実践といった対応が望まれる。
背景
ケニア中央医学研究所(Kenya Medical Research Institute: KEMRI)は、ケニアにおける人の健康に関する研究を行う政府系保健医療研究機関である。さらに、東アフリカ周辺国等の感染症病原体の検査・同定を行うなど、東アフリカ地域での重要な保健医療研究機関でもある。COVID-19パンデミックの際には、KEMRIはケニア国内の約半数のPCR検査を実施し、大きな役割を果たした。
COVID-19パンデミックの際に、研究者(Researcher)に過度の負担がかかったことから、組織全体で研究者を支えるために、事務部門の職員の能力を強化し、研究者との連携を高める必要性が認識された。その結果、KEMRIは主に事務部門の職員を対象とし、リサーチ・マネジメント・アンド・アドミニストレーション(Research Management and Administration: RMA)人材として研修により能力を高め、組織内で研究者とRMA人材の協働を促進する方針をとった。
RMA内部研修の計画・実施・評価
2023年7月から2024年1月まで、京都大学からの協力を受け、国際協力機構(Japan International Cooperation Agency: JICA)技術協力事業の一部として、30名のKEMRI職員にRMAの基礎を学ぶ内部研修が提供された。一連の研修では、遠隔及び対面でのRMA関連知識の講義に加え、京都大学での実践を参考に、研究に関わる複雑な事務作業や規則等を研究者にわかりやすく可視化する資料を作成するグループワーク「KEMRI RMAプロセスマッピング」が実施された。
本稿は、アフリカの保健医療研究機関であるKEMRIが、同組織として初めてRMAシステムを導入するための組織内研修を実施した際の計画、実施及び研修終了後にグループインタビューで実施した研修評価の結果を報告する。
結果
KEMRIでは、組織全体で研究者を支えることを目指し、講義とグループワーク及び集合ワークショップを組み合わせたRMA分野の内部研修を初めて実施した。RMA内部研修への評価から、研修参加者はRMA関連業務の全体像を把握し、研究業務への理解が進んだ。RMA関連専門業務や、それを支える組織運営マネジメント関連知識への学びは、研修参加者によって、研究支援業務に取入れられ始めた。異なるRMA関連部署の間やRMA人材と研究者との間で、コミュニケーションが改善し、部門を超えた協働への行動に繋がった。
KEMRIではRMAの強化のため、人事関連規定の改定及びRMA内部研修の継続を計画している。