国際保健医療
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原著
  • 濱井 妙子, 永田 文子, 大野 直子, 西川 浩昭, 東野 定律
    2023 年 38 巻 4 号 p. 179-192
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/21
    ジャーナル フリー

    目的

      訓練をうけた医療通訳者による通訳変更の実態とその特徴を明らかにすることを目的とした。

    方法

      外国人患者受入れ拠点病院の外来診療で、ブラジル人患者、医師、病院提供の医療通訳者を対象に録音調査した。分析は逐語録上で逐次通訳の元となった発言を一つのセグメントとし、「通訳変更なし(正確な通訳)」と通訳者が元の発言を変更して訳出した単語やフレーズ「通訳変更あり」を特定してコーディングし、その種類と発生頻度を算出した。「通訳変更あり」は臨床的に「ネガティブ」と「ポジティブ」に分類し、それぞれ「省略」「付加」「言い換え」「自発的発言」の4種類に細分類した。ネガティブのうち「臨床上重大な影響の可能性がある通訳変更」つまりインシデントの可能性が否定できない通訳変更を特定して検討した。無作為抽出した診療20件を、3名のコーダーが独立してコーディングし、コーダー間信頼性を検討した。

    結果

      分析対象は111診療で、診療一件あたりのセグメント数は平均67.9、14~186の範囲であった。100セグメントあたりの通訳変更数の平均値(標準偏差)は、正確な通訳は46.7(14.3)セグメント、ネガティブまたは影響なしの合計は46.1(17.9)個、種類別では「省略」27.2(10.3)個、「言い換え」10.4(6.9)個、「付加」6.0(5.0)個、「自発的発言」2.5(2.7)個、「インシデントにつながる可能性が否定できない」が<0.0(0.2)個であった。ポジティブの合計は26.2(11.9)個、種類別では「自発的発言」8.8(5.2)個、「言い換え」7.8(6.3)個、「付加」7.7(4.7)個、「省略」1.8(2.6)個であった。一分あたりのセグメント数とネガティブ通訳変更数には負の相関(r=-0.339)が認められた。

    結論

      本研究では臨床上インシデントにつながる可能性のある通訳変更が極めて少なく、訓練をうけた医療通訳者の有効性が確認できた。医療者は医療通訳者のポジティブ通訳変更を含めた役割の重要性を認識し、外国人患者中心のチーム医療の一員として医療通訳者との協働方法を模索することが安全な医療提供につながることが示唆された。将来、日本の医療者が適切な文化的・言語的サービスを提供するためには、医療者の学部基礎教育に医療通訳者と外国人患者との協働方法について学べるカリキュラムを提供することが有効と考える。

活動報告
  • 宮﨑 一起, 宮城 あゆみ, 唐木 瞳, 守山 有由美, 藤本 雅史, 江上 由里子, 藤谷 順子, 原 徹男
    2023 年 38 巻 4 号 p. 193-201
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/21
    ジャーナル フリー

    背景と目的

      2015年度からNCGMが実施している医療技術等国際展開推進事業では、現地研修および本邦研修による人材育成を行ってきたが、2020年度からはCOVID-19の影響によりオンライン研修が主流となった。本事業においてNCGMとベトナムバクマイ病院のリハビリテーション科は、2022年度、手指の機能障害がある患者のリハビリテーションを用途とするスプリント装具製作のための技術指導を目的とした、双方向性オンラインハンズオンセミナーをベトナム人作業療法士等に対して実施した。本稿では、セミナーの準備および実施過程とその成果を報告する。

    セミナー準備と実施過程

      セミナーの準備はNCGMとバクマイ病院の定期オンライン会議を通じて行った。プログラム作成、必要物品の確認、セミナー参加者の選定、ベトナム保健省への承認手続きなどを通して、研修受講側のバクマイ病院のオーナーシップの醸成も図った。セミナーでは技術指導の質を担保するため、指導側のNCGMと実習を行うバクマイ病院双方の会場をZoomで接続し、スプリント装具製作の手技のライブ撮影と共に説明と質疑応答も含めた演習を行った。研修評価は事後アンケートによるセミナー参加者の知識、技術習得の自己評価とした。

    成果と考察

      参加者の96%(27/28)が「臨床に役立たせることができる」と回答し、また双方向性オンラインハンズオンセミナーは、スプリント装具製作の技術指導で、現地研修と同等またはそれ以上の成果が示唆された。それら成果は、①定期的なオンライン会議体制が確立された中で準備段階から研修受講側のオーナーシップが醸成されたこと、②双方のライブ撮影により詳細な技術指導が可能となり研修の質が担保されたこと、③より綿密な準備で研修提供側のスキルアップに繋がったことで得られ、更にオンラインハンズオンセミナーは現地および本邦研修と比較し、④費用対効果が高かったこと、⑤研修資料および動画が教材として活用でき、現地への裨益と持続可能性で優位性が示唆された。オンライン研修における技術指導の創意工夫から得られた知見は、対面研修と併せた活用で、より効果的な研修実施が可能であり、同様の活動を他国で展開する際の有用な方法として応用可能であると考えられる。

  • 渡部 晃三
    2023 年 38 巻 4 号 p. 203-214
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/21
    ジャーナル フリー

    緒言

      現任研修は、保健医療人材が提供するサービスの質向上と、現場で働く人材のインセンティブとして役立つ。保健医療人材への現任研修には、政策を担う保健省、高等教育機関の医科大学、教育病院等の複数機関に跨る取組みが必要である。

      ブータン王国(以下ブータン)では、2020年以降のCOVID-19パンデミックの中で医科大学が約2年間にわたり情報通信技術(Information and Communication Technology、以下ICT)を活用する全国的な遠隔現任研修実施を可能にする体制整備を行った。先行研究によると、低中所得国の人材や財源等のリソース不足の環境下で現任研修へのICTの活用には利点があることが報告されている。

      2023年1月、保健省と医科大学等が、全国の保健医療人材の現任研修を協力・連携して行う覚書(Memorandum of Understanding, MOU)を締結した。保健医療人材への研修を、従来は保健省と医科大学の両者が実施していたが、保健省は人材政策、研修実施は医科大学と、役割が整理された。

      本稿では、まず、ブータンの保健システムを概観する。次いで、保健医療リソースに限りのある低中所得国において、保健医療人材への遠隔現任研修を、ICTを用いて中央と地方の保健医療機関を繋ぎ、全国的に行なう体制整備の事例として、ブータンの取組みを明らかにする。

    方法

      参与観察及び保健省、医科大学、JICA関係者へのオンラインインタビュー並びに関係機関の公式発表と報道記事の文献調査を実施した。調査期間は、2019年6月から2023年7月までである。

    結果

      医科大学及び国内2か所の地域レファラル病院(教育病院)のICT環境が整備され、医学教育シミュレーションセンターが開設された。医科大学での遠隔現任研修体制の整備として、教育設備やラーニング・マネジメント・システムの導入、指導者研修(TOT)、遠隔現任研修コンテンツ開発が行われた。加えて、保健省、医科大学等の間で現任研修のための覚書が締結された。

    結論

      ブータンでは、保健人材育成の専門機関である医科大学がICTを活用した遠隔教育体制を整備し、保健省等との覚書による全国的な遠隔現任研修の実施体制が形成された。低中所得国では限られたリソースで現任研修を実施する必要があり、今後現任研修体制を機能させるには、人材・予算・情報等に関し、保健省、医科大学、教育病院等関係機関の連携が欠かせない。

「国際保健医療」査読者一覧 2023年
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