本稿では,フェイス交渉理論の枠組みを精緻化する目的で,関係性,フェイス意識,対人葛藤スタイルの関連について検討した.場面想定法を使用して,相手の社会的地位および親密性が異なる状況を設定し,その状況におけるフェイス意識と対人葛藤スタイルがどう関連するのか,344名の日本人大学生に対して回答を求め,共分散構造分析を通して検討した.その結果,フェイス交渉理論の提唱する状況モデルの妥当性が確認されただけではなく,以下の2点が示唆された.第1に,状況モデルが示唆するように,関係性要因が直接的に,またフェイス意識を通して間接的に対人葛藤スタイルに影響を及ぼしていた.第2に,内容と対象者の側面に焦点をあてたフェイス意識尺度を使用したことによって,フェイス意識と対人葛藤スタイルの関連がより精緻化できた.最後に,対人トレーニングを行う際には,本研究結果を応用して関係性要因ならびにフェイス意識に着目することが重要であることを指摘した.
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