社会言語科学
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24 巻, 1 号
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特集「『共生』を問い直す社会言語科学」
巻頭言
展望論文
  • 有田 佳代子
    2021 年 24 巻 1 号 p. 5-20
    発行日: 2021/09/30
    公開日: 2021/11/16
    ジャーナル フリー

    本稿は,日本語教師が日本社会のマジョリティ≒日本語母語話者への日本語教育にかかわろうとする,その理由と方法について論じるものである.まず,その理由を三点に整理した.①日常的に非母語話者と場を共有している者として,母語話者に,非母語話者とのコミュニケーション方略を伝えるためである.②日本社会の大言語の教師として,少数言語の価値とその話者の権利を守る,すなわち「ことばの平等」を社会に根付かせる一翼を担うためである.③コミュニケーションの教師として,価値観の違いによる分断と対立を解消するための対話を生み,人と人をつなぐ役割を果たすためである.そして,その方法論として,日本語教師養成プログラムの枠組み転換,市民の一般教養としての日本語教育の位置付け,責任あるステークホルダーへの働きかけ,企業研修への関与をあげ,その一例として大学学部での一般教養科目としての日本人学生向け日本語教育コースの実践概要を報告した.

  • 神吉 宇一
    2021 年 24 巻 1 号 p. 21-36
    発行日: 2021/09/30
    公開日: 2021/11/16
    ジャーナル フリー

    本稿は,近年の外国人労働者受け入れ増加に伴う制度・政策変更を踏まえ,改めて共生社会を実現するために必要とされる日本語教育について論じたものである.まず,政策的に共生という概念がどのように位置づけられているかを概観したあと,共生社会を目指す日本語教育がどのように展開しているかを整理した.そして今後,共生社会を目指す日本語教育のあり方として,制度的な位置づけの明確化,言語保障を実現する学習のモデル化,介入的研究活動の必要性という三点が重要であることを述べた.

研究論文
  • 原田 大介
    2021 年 24 巻 1 号 p. 37-51
    発行日: 2021/09/30
    公開日: 2021/11/16
    ジャーナル フリー

    本稿の目的は,「共生」の観点から国語科教育の問題を考察することにより,その教科の可能性と課題を模索することにある.本稿ではまず,(1)文部科学省が考える「共生」の概念について,文部科学省が作成した報告資料等を検討する.次に,(2)学習指導要領における国語科教育の位置づけについて,特に小学校段階における「国語科の目標」に焦点を当てて確認する.その上で,(3)「共生」の観点から見た国語科教育の可能性として,包摂と再包摂をめぐる国語科授業の方向性と,「我が国の言語文化に関する事項」の「伝統的な言語文化」に関する国語科授業の方向性を提案する.最後に,(4)国語科に残された課題として,「社会や文化を批判的に読む力」を育成する観点を小学校国語科カリキュラムに導入する必要性を述べる.

  • 平高 史也
    2021 年 24 巻 1 号 p. 52-66
    発行日: 2021/09/30
    公開日: 2021/11/16
    ジャーナル フリー

    国内に定住する外国人に対する日本語教育が推進されている.また,圧倒的多数の小学校,中学校,高等学校では英語の教育だけが行われている.私たちはこのどちらも普通のこと,当然のことと考えてはいないだろうか.本稿では,言語教育における「共生」は日本語教育の推進と英語一辺倒の外国語教育だけでは実現できず,母語継承語教育や英語以外の言語の教育にまで視野を拡大し,言語教育全体の課題としてとらえなくてはならないことを主張する.そのうえで,真の共生社会の実現に向けて,日本における母語継承語教育と外国語教育の改革に向けた観点を提示する.

  • 落合 哉人, 坊農 真弓
    2021 年 24 巻 1 号 p. 67-82
    発行日: 2021/09/30
    公開日: 2021/11/16
    ジャーナル フリー

    本稿では,指点字というコミュニケーション手段を用いる盲ろう者の会話において「揺さぶり」という動作が使用されることに着目し,基本的特徴の記述と会話の中での現れ方の検討の二点から使用実態の把握に取り組んだ.基本的特徴の記述に関しては,「揺さぶり」が,(a)長音記号とともに産出される傾向がある,(b)笑いを伴う,(c)直後に順番交替が生じる,という三つの特徴を持つことを示した.このことから当該の動作は,自らの発話に何かを面白く思う気持ちが伴うという感情的態度を示す方法となっていることを指摘した.一方,現れ方の検討に関しては「揺さぶり」を伴う発話が(1)先行する相手の発話の捉え方を示す側面と,(2)何らかの事柄に対する関心の高さを示す側面を持つことを取り上げた.特に事例分析を通して「揺さぶり」の使用が,言語形式とは独立して発話の捉え方を示したり,新たに言及された事柄に対する関心をもとに会話を展開させる余地を作ったりする実践となることを示した.

  • 藤本 航平
    2021 年 24 巻 1 号 p. 83-92
    発行日: 2021/09/30
    公開日: 2021/11/16
    ジャーナル フリー

    本研究は,言語連想法の反応語として表れる人間の言語的傾向が,E-Sモデルにおける認知スタイル傾向と関連するか否かについて統計的に調べることを目的とした.また,同様の認知スタイルと言語的傾向をもつ傾向が高いと予測されるASD者の事例の検討も含め,言語的傾向と対話の問題との関係について考察することも目的とした.結果として,認知スタイルが特定の言語的傾向と関連することが意味的側面から統計的に示唆された.またASD者の事例的な検討から,言語的傾向の差により生じる対話上の難しさが,自身の言語的傾向を意識的に抑制し変えようとするほどの努力を,ASD者側の主体に生じさせる可能性があることが考えられた.共生という観点からは,対話場面において一方的にASD側の「欠陥」が問題視されうる社会の現状は再考されるべきものであり,対話の問題は言語的傾向の違いによっても発生しうること,その解決は互いに直感的な対話を手放す必要があること,そしてそれぞれの言語的傾向は,それぞれの強みともなりうる認知的傾向にも関連している可能性があることについて認識することが求められるべきではないかと考えられた.

  • 合﨑 京子
    2021 年 24 巻 1 号 p. 93-108
    発行日: 2021/09/30
    公開日: 2021/11/16
    ジャーナル フリー

    現代の日本社会の中で,自閉症スペクトラムを持つ人(以下,ASD者)は,ややもすれば対人コミュニケーション上にトラブルを引き起こす人物として,他者から排他的に扱われることも多くある.本研究では彼らASD者の言語使用及び,非言語行為の使用について,会話分析の手法とコミュニケーションイデオロギーの概念を用い,分析を行った.会話のトランスクリプトと,会話参与者たちの社会的立場や文化的背景といったコンテクストやフォローアップインタビューも参照し検討した結果,1)会話に参与したASD者が対話者の呈示した行為に志向することなくやりとりに従事することにより,相互行為にぎこちなさがもたらされており,それには当該ASD者の過去のコミュニケーション経験の質や量がかかわっている可能性が示唆された.その一方,2)ASDの症状の有無にかかわらず,参与者間に共通の社会文化を基盤とするコミュニケーションイデオロギーを媒介し相互行為に参与することにより,特定の事象に対する共通の理解が達成され,それが強化されていくことも描出された.この結果からは,ASD者の参与する相互行為についての微視的な分析とともに,会話参与者を取り巻く社会文化的環境や,ASD者及び,他の会話参与者の社会的立場や過去の経験といったコンテクスト要素も精緻に描出していくことが,ASD者も含む社会文化的マイノリティとされる人々のコミュニケーションを分析していくうえで肝要であることが考察される.

  • 中島 武史
    2021 年 24 巻 1 号 p. 109-124
    発行日: 2021/09/30
    公開日: 2021/11/16
    ジャーナル フリー

    少数派のみに注目し多数派と切り離された研究は,人々の分断を生み出す危険性がある.このような認識のもと,本論文では分断や二極化を回避する共生のあり方を模索する.最初に,言語面でのサポートとして存在感を増している〈やさしい日本語〉と言語権を批判的に検討し,共生を実現するために不足している論点をまとめる.次に,言語権のもつ二種類の権利保障について確認したうえで,言語権と〈やさしい日本語〉の関係についても検討する.後半部では,言語権を情報保障やコミュニケーションへの権利を含むより普遍的な枠組みに拡張し,障害学的言語権として組み直す.そして,人の多様性にも対応可能な障害学的言語権をもとに,多数派を共生にまきこむことを試みる.最後に,これからの社会言語学は具体的な「場」で起こる相互行為の過程を分析することで,上から与えられた共生ではなく,草の根の小さな共生に目を向ける必要があると主張する.

資料
研究論文
  • 井上 史雄, 半沢 康
    2021 年 24 巻 1 号 p. 144-156
    発行日: 2021/09/30
    公開日: 2021/11/16
    ジャーナル フリー

    本稿では山形県庄内地方の方言調査データを分析し,地域差の大きい時期から世代差の大きい時期に移行したことを元に交通の役割の変化を論じる.出発点は,明和4(1767)年に編集された鶴岡の方言集『浜荻』である.1950年の第1次調査,2018年の第2次調査により140年にわたる語彙残存率の世代差が分かった.データは,406項目×27地点の約370人からなる.周圏分布による地域差を,中心都市からの徒歩距離によって1次元で表現した.全員の語形データに適用したあと,7世代を3グループに分けて適用した.その結果第1グループの第1次調査では地域差が大きく表れ,徒歩距離が作用したと認められた.第2グループの第2次調査老壮の世代では年齢差が大きく表れ,鉄道開通による駅所在地点の急速な方言衰退が見られた.第3グループの第2次調査若少の世代では地域差が薄れたが,中心都市との距離は関連を示す.自動車交通によって,鉄道開通以前の徒歩距離が再び影響するようになったと考えられる.

    さらに406語を活力により4病状に分けて,同様の分析を施した.危篤,重病,不安定,安定の順が過去の方言衰退過程を反映・再現すると考えられ,徒歩距離と鉄道駅開設が共通語化に影響する過程が読み取れた.『浜荻』成立以来250年経ち,戦後の急速な共通語化・方言の衰退を経て,方言を囲む状況に変化が見られた.その際鉄道による交通環境の変化が影響した.

  • 佐藤 美奈子
    2021 年 24 巻 1 号 p. 157-172
    発行日: 2021/09/30
    公開日: 2021/11/16
    ジャーナル フリー

    本研究は,ブータンにおける成人識字教育を主題とする.ブータンでは1961年に学校教育が導入され,現在,就学年齢の児童の92.9% (PPD MoE 2018)が初等教育に就学する.その一方で,成人の半数以上(50.2%)が就学経験をもたず,教育経験のない農村部の女性たちの多くは,文字の読み書きのみならず,国語(ゾンカ語)の口語能力も不足している.本研究では学齢期に教育を受ける機会がなかった女性たちが成人して識字教育を受ける現在に着目する.母となり,農業の主要な担い手となった女性たちが全国共通語と文字の読み書き能力を習得することは,彼女たち個人のみならず,その家族と,若者の農業離れが進む農村の共同体社会においてどのような意味と可能性をもつのかを言語社会化論から考察する.本研究では中央ブータンの農村部の識字教育校を訪問し,28人の学生を対象に調査をおこなった.教育を受けたことで彼女たちは,民族語モノリンガルの祖父母世代と民族語・英語・ゾンカ語のトリリンガルとして育つ子ども世代の間を取りもち,農村の共同体社会をつなぐ「仲介者」の役割を担いつつある.調査からは,自己を語ることが自己肯定感を促す作用をもつことも明らかになり,成人識字教育におけるナラティブ・アプローチの有効性が示唆された.

  • 若松 史恵
    2021 年 24 巻 1 号 p. 173-188
    発行日: 2021/09/30
    公開日: 2021/11/16
    ジャーナル フリー

    Schiffrin (1978)は,談話標識をコンテクスト座標であるとし,参加者及びテクスト内容が関わっているとした.本稿はSchiffrin (1978)の定義に基づき,話題の開始部分に現れる「え,ええと,でも,なんか」の働きを発話領域と話題展開型という2つの観点から計量的に分析した.分析の結果,話題開始部冒頭に現れる「え,でも,なんか」には,それに続く発話が話者のどちらについて話されるかを示す発話領域に明確な違いが見られた.また先行文脈との繋がりを示す話題展開型は,先行文脈と関連性を持つ(前接型・前出型)か否か(新出型)が談話標識の形式の違いに影響していることがわかった.さらに話題開始部特有の特徴として,「え」には,相手の注意を高め,後続する質問により相手の語りを促して新しい話題を展開させていく際に用いられる標識としての働きが,「でも」には先行文脈における相手の語りの異なる面に光を当てて話題を展開していく際の標識としての働きが,「なんか」には先行文脈における自身の語りへ戻るという意味で談話構造そのものに関わり,自身の語りを進めていく際の標識としての働きがあることが示された一方で,「ええと」には明確な特徴は見られなかった.話題の開始部分という会話上の位置に注目し,複数の談話標識を同じ枠組みの下で比較・分析することで,談話標識の働きの新たな面を明らかにしたと言える.

  • 品川 なぎさ, 稲田 朋晃
    2021 年 24 巻 1 号 p. 189-203
    発行日: 2021/09/30
    公開日: 2021/11/16
    ジャーナル フリー

    医療面接場面の留学生と患者とのコミュニケーションにおける留学生のコミュニケーションの特徴を定量的に明らかにする.日本人学生と比較して,留学生にのみ見られる特徴はあるのか,あるとすればどのような特徴かを明らかにする.【方法】模擬患者との医療面接を実施し,The Roter Interaction Analysis System (RIAS)を用いて留学生と模擬患者,日本人学生と模擬患者のコミュニケーションについてそれぞれ分析した.【結果】留学生にみられる特徴として次の2点が明らかになった.①「開かれた質問」が少ないこと,②模擬患者の情報提供に対する「理解の確認」が少ないことである.【考察】①の理由は,「開かれた質問」の難しさが考えられる.留学生にとっては,患者からの情報を処理しながら,さらに患者の答えやすさを考慮しながら即時にいくつかの例示を挙げて「開かれた質問」をすることが難しいと考えられる.また②の理由は,留学生は医療面接の型通りに「質問」することを優先しており,患者の話しを聞き理解することに意識が向いていないと考えられる.【結論】日本語教育の観点から,医療面接の学修課程において単に面接の「型」を示すのみでは留学生には不十分であり,具体的な表現を例示する必要があると考えられる.

  • 柳 東汶
    2021 年 24 巻 1 号 p. 204-219
    発行日: 2021/09/30
    公開日: 2021/11/16
    ジャーナル フリー

    本稿は,eラーニングの学習場面における受講者のマルチモーダルな行為を分析,考察するものである.2つの調査を行った結果,うなずき,視線,メモという3つのマルチモーダルな行為が分析対象として見られた.うなずきは,(1)学習内容を解釈する途中,(2)解釈が困難な場合に見られ,その様相から,他者を想定せず,解釈の進捗状況に合わせて現れる行為であることがわかった.視線の場合,(1)主に活用する媒体に多く目を向ける,(2)新しい情報や,想定外の情報が現れた場合は映像に注目する,ということが見られた.(1)においては配布資料を主に見る場合はメモを積極的に行い,画面を主に見る場合はインプットを重視することがわかった.(2)の新しい情報に関しては,同じ情報源であっても自分の領域にない方を見ること,想定外の情報に関しては,驚きや緊張から,情報のモードに関係なく視覚的に追うことがわかった.メモの場合,(1)映像を操作しない場合,(2)一時停止してメモする場合,(3)メモした後に映像を巻き戻す場合が見られ,どちらも複数のマルチモーダルな行為を同時に行っている複雑な過程があった.

  • 朴 美貞, 横山 紀子
    2021 年 24 巻 1 号 p. 220-235
    発行日: 2021/09/30
    公開日: 2021/11/16
    ジャーナル フリー

    本稿では,「情報のなわ張り理論」の枠組みを用いて,話題を統制したインタビュー形式の自由会話コーパスにおける日本語母語話者と韓国人日本語学習者の発話を対象とし,レベル別の韓国人日本語学習者の終助詞「ね」の習得過程を調査した.まず,インタビューする側とされる側の発話を比べ,会話に参加する立場によって,インタビューする側は「必須の『ね』」を,される側は「任意の『ね』」を多く使用することを指摘した.次に,どちらもインタビューされる側の母語話者と学習者を対象とし,発話量を考慮した「ね」の使用頻度を分析し,上級-上の学習者は,母語話者と比べて「ね」の使用回数自体は少なくても,発話量を考慮すると使用頻度が高いことを示した.最後に,正用・欠落・不適切な「ね」の数から算出した正用率の分析では,上級-上では「任意の『ね』」,上級-下では同意表明・要求,確認要求の機能を持つ「必須の『ね』(共有)」の正用率が下のレベルより低いという後退現象を指摘した.こうした現象が生じる理由としては,上級-上・下の学習者は,必須要素と任意要素の「ね」に対して曖昧かつ不安定な認識を持っており,「ね」の使用に迷いが出る時期であることが考えられる.今後は,学習者が迷うと想定される必須要素と任意要素の区別および適切な「ね」と不適切な「ね」に焦点を当てたテストを試行するなどして,この現象の詳細を検証する必要がある.

  • 燕 興, 伝 康晴
    2021 年 24 巻 1 号 p. 236-248
    発行日: 2021/09/30
    公開日: 2021/11/16
    ジャーナル フリー

    日本語の日常会話において,接続助詞ケドで終わる表現(ケド節)がよく用いられる.本研究では,大規模な日本語日常会話コーパスを用いて,これまで示されていなかった語りにおけるケド節の談話機能を明らかにする.『日本語日常会話コーパス』から抽出した376事例のケド節の分析の結果,以下のことが明らかになった.(1)語り手はしばしばケド節を用いて語りを開始する(語り開始).(2)語りを開始した後,語り手はケド節を用いて語りを展開する(語り展開).(3)自ら望む展開が阻害されないように,語り手はケド節を用いて語りの主題を維持することがある(主題維持).それぞれの談話機能は,後続する発話連鎖を産出するための行為スペースの投射に結びついていた.接続助詞ケドは「先行要素と対比的な何かが直後に後続する」ことを予告する性質を備えているため,語りの展開のその都度の機会において,行為スペースの中の次の位置を投射する一つの資源としてケド節が繰り返し用いられる.

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