社会言語科学
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特集「新しい学習・教育が変えていく社会―「社会言語科学」からの貢献」
巻頭言
展望論文
  • 名嶋 義直
    2020 年 23 巻 1 号 p. 5-20
    発行日: 2020/09/30
    公開日: 2020/10/07
    ジャーナル 認証あり

    グローバル化という世界的な変化の流れを考えれば,日本社会の目指す方向は「多様性に寛容な,ゆるやかな結束性を持つ社会」であろう.そこでの「新しい学習・教育」を考えた時,言語研究者には何ができるだろうか.本稿ではドイツや欧州評議会で展開されている「民主的シティズンシップ教育」に「新しい学習・教育」としての可能性を見出す.その上で,それをただ模倣するのではなくローカライズすることが重要であり,それを行えば,民主的シティズンシップ教育はさまざまな場面や手法で実践が可能であることを述べる.そして,多様な他者と「対話」を通して主体的に関わる活動の例を挙げ,「民主的シティズンシップ教育」が有する「新しい学習・教育」としての可能性を論じる.

  • 義永 美央子
    2020 年 23 巻 1 号 p. 21-36
    発行日: 2020/09/30
    公開日: 2020/10/07
    ジャーナル 認証あり

    本論の目的は,これまで日本語教師の資質・能力はどのように規定されてきたかを理解し,今後の日本語教師教育の方向性を展望することである.具体的には,文化庁の報告書で記述された資質・能力の特徴とその成立背景を,文化庁の報告書本文および文化審議会国語分科会日本語教育小委員会での審議内容に基づき検討した.その結果,日本語教師の資質・能力が知識・技能・態度の3つに分けて整理され,養成・初任段階のみならず,中堅やそれ以降の段階まで「常に学び続ける態度」を持つことが重視されていることが確認された.また,これらの資質・能力観が提唱されるようになった根拠として,これまでの日本語教員養成・研修の現場の声とともに,「ポスト近代型能力」とも呼ばれる新しい能力(コンピテンシー)の考え方があることが明らかになった.さらに,今日の日本語教師教育の課題として,教師が経済的な人的資本として搾取され燃え尽きてしまう可能性,立場や役割の違いが対立や分断を生み出す可能性,資質・能力の捉え方や教育方法が要素主義に陥る可能性を指摘した.最後に,こうした可能性をできる限り排除し,教師の成長と日本語教育コミュニティの発展を両立させる方向性として,専門職資本の概念に基づく専門的な学習共同体の構築,および,越境的学習について検討した.

研究論文
  • 村田 和代, 水上 悦雄, 森本 郁代
    2020 年 23 巻 1 号 p. 37-52
    発行日: 2020/09/30
    公開日: 2020/10/07
    ジャーナル 認証あり

    本研究は,成人による課題解決をめざした話し合いにおける「異質な他者」との対話を通して,参加者にどのような変化が起きているのかを,実践のエスノグラフィと話し合い談話の分析を通して明らかにし,その変化を「学習」という観点から考察を試みる.生涯学習の領域では,子供の発達過程の学習が形成的学習であるのに対し,成人のそれは変容的学習であるとされている.本研究では,3つの話し合いの話し合いを対象に,それぞれ①1人の参加者を対象とした通時的な観点からの考察,②談話比較による考察,③1回の話し合いに対するミクロな考察の3つの観点から分析を行った.その結果,①については受動的な態度から積極的な態度への変化,②は,自分たちの組織や役割の再認識,③では,他者に対する想定や見方の変化を通した相互理解へと,いずれにおいても参加者のふるまいに変化が見られた.この結果は,話し合いの参加者の異質性が,参加者間の自他の関係性やコミュニティでの役割の再認識などの学びにつながっていることを示唆している.

  • 森 玲奈
    2020 年 23 巻 1 号 p. 53-68
    発行日: 2020/09/30
    公開日: 2020/10/07
    ジャーナル 認証あり

    本研究は東京都日野市にある百草団地ふれあいサロンを中心に行ったアクションリサーチである.本研究の目的は,百草団地住民である高齢者の学習ニーズを明らかにし,ノンフォーマル学習環境をデザインすることである.(1)対話による学習ニーズ探索のフェーズ,(2)学習ニーズ別のワークショップ企画のフェーズ,を通じ6年に渡る実践を行った結果,(1)サロンでのノンフォーマル学習環境デザインが達成された,(2)サロンのステイクホルダーが自主的に課題を発見しワークショップデザインできるようになった,(3)サロンのステイクホルダーが地域から大学にも来訪するようになった,という成果が得られた.

  • 榎本 美香, 伝 康晴
    2020 年 23 巻 1 号 p. 69-83
    発行日: 2020/09/30
    公開日: 2020/10/07
    ジャーナル 認証あり

    本研究では,祭りの支度をともに行うことで後継者世代が先達の世代から知識や技能だけでなく,間主観的価値観や風習・慣習・社会的規範など,成員の心がけを学んでいくやり方を明らかにする.分析資料として,長野県の野沢温泉村で行われる道祖神祭りの準備作業場面を収録したビデオデータを用い,相互行為分析の手法を援用する.分析1では,「化粧縛り」という縄結びの技能の本質が美しい形(なり)であるという心がけが学ばれるさまを例示する.分析2では,材木を保管する作業への共同参与によって,率先して作業に手を出したり,木の切り口を揃えるという形へこだわったりする心がけが,数時間のうちに学ばれるさまを例示する.これらの分析を通じて,「心」と「体」と「知」は三身一体として学ばれることを示す.最後に,「心」が学ばれれば,新たな活動においても共同体「心体知」の軌道上の振る舞いが可能になるという学習モデルを提示する.本研究は,たんなる文化の伝承というだけでなく,共同体を養成・結束させる民間装置の解明を行うものである.

  • 山本 敦, 古山 宣洋
    2020 年 23 巻 1 号 p. 84-99
    発行日: 2020/09/30
    公開日: 2020/10/07
    ジャーナル 認証あり

    演奏表現は,楽曲の解釈や表現意図に沿って,楽譜に示されていない細かな音のゆらぎを付与することで達成されるが,その指導において,このゆらぎの構造は学習者によって概念的・聴覚的に把握されるだけでなく,学習者の知覚–運動の調整を通して,実際の演奏として達成されなければならない.本稿では,音楽大学の学生と教授であるプロの演奏家による1対1のピアノレッスンを録画したデータを対象に,指導の相互行為におけるマルチモーダルな資源が組織化される過程を分析することで,演奏表現が学生と教師によって協働的に構築,産出されていることを明らかにした.教示においてゆらぎの構造は,発話や演奏,歌,ジェスチャなどの組み合わせによって知覚的に構造化され,音楽概念と結びつけられて呈示されていた.その結びつけの構造が維持されたまま,学生,教師双方によってジェスチャ–楽曲の組み合わせが実際の演奏の中で反復・同期されることで,理解の例証,調整の求め,確認の与えといった相互行為上の機能を果たしていた.さらに,このマルチモーダルな呈示の同期を通して,学生の演奏運動それ自体が同時的かつ即興的に調整を受けることで,演奏表現は協働的に達成されていた.これらの結果は,専門的な実践における知覚の相互行為的な調整および音楽教育の観点から考察された.

  • 名塩 征史
    2020 年 23 巻 1 号 p. 100-115
    発行日: 2020/09/30
    公開日: 2020/10/07
    ジャーナル 認証あり

    本稿では,年少者向け空手教室における身体的技術の指導–学習を目的とした相互行為に焦点を当てた.空手は本来,対戦相手と対峙した環境で行われる相互行為であるが,当該教室では相手がいない練習形式が大半を占める.したがって,相手がいない形式での練習中に,どのように練習生に相手を意識させ,その試技に実戦さながらの臨場感を付与するかが,主な指導者である師範にとっての指導上の課題となる.本稿ではまず,熟練した実践者の技能にかかる観察可能な身体的/外的要素だけでなく,それを支える認知的/内的要素にも触れることができる経験を,身体的技術の指導–学習が目指す重要な達成として位置付けた.その上で,当該教室での指導–学習が,師範の経験を反映し,練習生がその経験を多様に共有することを促す環境にあることを確認した.さらに,稽古中に師範が特に強調する「相手を意識した実践」を練習生に経験させるためのマルチモーダルな指導を微視的に分析した.その結果,師範は実際に練習生の身体を打ったり,逆に自己の身体を打たせたりしながら,練習生に対戦相手を想像させ,多様な認知的/内的要素を練習生の内に喚起し,熟練した師範の認知を練習生にも経験させようとする試みが確認された.本稿では,こうした経験へと練習生を導く試みが,相互行為の実践によってのみ直接獲得することができる間身体的な要素の指導–学習に有効な手続きであることを確認する.

  • 牧野 遼作, 坂井田 瑠衣, 居關 友里子, 坊農 真弓
    2020 年 23 巻 1 号 p. 116-131
    発行日: 2020/09/30
    公開日: 2020/10/07
    ジャーナル 認証あり

    本稿では,博物館(日本科学未来館)でなされる子供が参与する展示物解説活動を対象とした相互行為分析の結果を報告する.展示物解説において,保護者は子供に対して様々な援助を行う.断片において,保護者は,子供の発言機会や,展示物に対する理解・見えに関する問題に対する援助を,発話や身体的振る舞い,さらに子供の身体を操作することで行っていた.そして援助を行うとき,保護者は,回答者や質問者として参与していないことを示していた.このような保護者の援助は,単に当座の子供の問題を解決するだけではなく,展示物解説活動そのものの展開に貢献するものとなっている.解説を行う未来館の科学コミュニケーター(SC)と保護者は必ずしも教育の専門家ではないが,子供の展示物解説活動への参与を援助することで,彼らを「主役」として位置づけながら,子供を含む展示物解説活動を協働して行っていた.以上の分析結果は,博物館の目的である教育がいかに実践されているかを詳らかにするものであり,日常生活の中で起こりうる多様な教育・学習をより広く理解することの端緒を提供するものである.

  • 榎本 剛士
    2020 年 23 巻 1 号 p. 132-146
    発行日: 2020/09/30
    公開日: 2020/10/07
    ジャーナル 認証あり

    本稿の目的は,日本における多くの英語授業で観察される,「教師のあとについて英語を言う」活動,および,それに続く練習に,教育言語人類学の視点から光を当てることである.本稿では,上記のような活動を「メタ言語的な言語使用」として捉え,教室における相互行為の特に「詩的」な側面から,対象言語(学ぶ対象)としての英語がコミュニケーションの中で焦点化され,具体性を帯びるプロセスを明らかにする.また,そのようなメタ言語的言語使用に関与する他のメタ語用的統制をメタ・コミュニケーションの観点から同定することによって,英語授業の「創造性」を描出し,そのことを通じて,英語教育が結果としてもたらし得る「メタ言語社会化」を指摘する.

  • 森 篤嗣, 山口 昌也
    2020 年 23 巻 1 号 p. 147-161
    発行日: 2020/09/30
    公開日: 2020/10/07
    ジャーナル 認証あり

    「新しい学習・教育」を検討する際には,社会的要請や技術的進展に合わせ,自明視された概念を疑い,見直す必要がある.本稿では自明視された概念の例として,挙手行動を取り上げ,小学校社会科におけるプレゼンテーション活動を対象に,アノテーションツールFishWatchr Miniを利用した挙手行動に代わる意見表明方法の提案をおこなった.挙手行動は,3人以上による談話場面において,自らの発話ターンを主張する方法として,古典的でありながら現代でもなお用いられ続けている行動である.しかし,提案手法を含め,ICTを利用すれば,全児童が意見を表明し,お互いの意見を知ることができるという,挙手行動では実現できなかった利点が生じる.この利点は,現在の社会で求められている市民の積極的な社会参加や,インターネット上などに存在する多様な意見の扱いを学ぶ上で有用であり,教育現場で活用すべきである.その一方で,児童の大量の意見を迅速に把握し,整理して示すファシリテーターとしての教師の役割が重要になる.本稿では,その実例として,児童による「連打アノテーション」の扱いと,アノテーション結果を用いた指導方法について論じた.

研究論文
  • 佐藤 美奈子
    2020 年 23 巻 1 号 p. 162-177
    発行日: 2020/09/30
    公開日: 2020/10/07
    ジャーナル 認証あり

    本研究はブータン王国における教授言語に対する認識の変化を教育政策とその変遷との関連から読み解く.ブータンは19もの民族語を擁する多言語社会である.1960年代,学校教育の導入に際し英語を教授言語に選定した.現在英語は,国語(ゾンカ語)と並ぶ全国的な共通語として機能し,英語を第一言語とする世代も登場している.本研究では学校教育導入から今日までのブータンの教育政策を3つの時期にわけ,政府が教育目標として掲げる「教育の平等」(MoE, 2014) の概念がどのように変遷してきたかに着目した.教育への「アクセスの平等」を目標に,教育が平等な成功を導く(MoE, 2014) と謳われた第I期,「同じである」という認識の育成が教育の目的(RUB, 2013)とされ,国家アイデンティティの促進を国家目標とした(平山,2006)第II期,現在第III期は格差が広がる社会に対応し教育の多様化を新たな目標に掲げる (MoE, 2014).世代が異なる教師と学生を対象に教授言語に対する認識を調査した結果,教師は「平等性」を教授言語選択の重要な基準に挙げ将来の平等な成功を導く言語として英語を重視した.一方,学生は「アイデンティティ」を基準に全国民の国語による教育の重要性を強調した.両世代が抱く「望ましい教授言語」像は各世代が受けてきた教育政策の目的や社会における言語の位置づけを反映していることが明らかになった.

  • 小玉 安恵
    2020 年 23 巻 1 号 p. 178-193
    発行日: 2020/09/30
    公開日: 2020/10/07
    ジャーナル 認証あり

    従来の日本語の体験談研究では,否定(Yamada, 2000),(ソシ)タラ(加藤,2003),歴史的現在形(小玉,2011)など,話をより効果的なものにするための内在的評価装置の使用が,個別的にあるいはナラティブの一部分にフォーカスして取り上げられ分析されてきた.本稿では,日本語の体験談が本当に面白い話になるために,まずどのようなタイプの評価がどこでどの様に組み合わされて使用されているのか,ナラティブ全体として総合的に明らかにすべく,テレビのトーク番組で語られた芸能人の体験談をLabov (1972, 1997)のナラティブ構造と評価という概念を見直し,Longacre (1981)のナラティブ構造分析の枠組みを加えた上で,質的に分析した.その結果,芸能人の面白い体験談では語りをより面白く,効果的なものにするために1)話のクライマックスや重要な結末となる出来事及び周辺の出来事への意外性や臨場性を強調する様々なタイプの内在的評価装置の集中的使用や,2)外在的評価やオリエンテーション情報の挿入による聞き手に対する話の解釈の誘導及び登場人物のイメージや内言と実際の発話の明確な落差の生成,3)評価的行動や発話及び内言の詳述によるクライマックスや結末の延期ないしはピークの延長に加え,4)落ちとなるクライマックスや結末の短縮化など様々な評価が駆使されていることがわかった.

  • 須永 将史
    2020 年 23 巻 1 号 p. 194-209
    発行日: 2020/09/30
    公開日: 2020/10/07
    ジャーナル 認証あり

    本論文は,在宅マッサージの場面において,施術者と患者が「痛み」をどのように扱うのかを,会話分析の方法によって明らかにする.マッサージの活動手順の進行中に生じる患者の痛みを,施術者がどのように尋ねるのか,そのやりとりがマッサージの進行にどのように影響するのか.以上を問う.まずは,痛みについての質問を検討する.痛みについての質問のなかでも,とりわけ,患者の身体に触れながらなされる「施術進行のための質問」を検討する.そのとき,この質問が「否定疑問」で尋ねられるのか,「肯定疑問」で尋ねられるのか,に注目する.そして,同じ「施術進行のための質問」であっても,痛みが否定疑問で尋ねられる場合を最適化された質問デザインとして特徴づける(Boyd & Heritage, 2006).また,肯定疑問は患者による痛みの報告をしやすくするためのデザインとして特徴づける.続いて,このように質問を状況に依存しながらデザインするための資源として,患者の表情を検討する.施術者が,質問デザインする際におこなうプラクティスのひとつとして,患者の顔のモニタリングを挙げる.

  • 久屋 愛実
    2020 年 23 巻 1 号 p. 210-225
    発行日: 2020/09/30
    公開日: 2020/10/07
    ジャーナル 認証あり

    等位接続詞butのうち,節同士を文中で接続する用法(SV, but SV.)に対して,単独節の冒頭(文頭)に出現する用法(SV. But SV.),いわゆる「文頭But」(sentence-initial But, SIB)を特に書き言葉において使うことは,規範主義的立場からは好ましくないとされる.しかし,実際には,このSIBの用法は新聞,辞書,論文,英語学習用テキストなどのフォーマルな書き言葉においても多用されているように見受けられる.本稿は,社会言語学的視点から,SIBと文中butのゆれが,安定した変異なのか,もしくは進行中の言語変化に関わる変異なのかを論じる.辞書や文法書を概観するに,SIBが少なくとも18世紀の時点ですでに使用されており,それ以降今日に至るまである程度安定した変異として存在してきた可能性が示唆される.計量的手法に基づき,アメリカ英語の通時的コーパス(COHA)におけるSIBの運用実態を調査した結果,等位接続詞butのうちSIBが20~30%を占めることが判明した.SIBの使用率が200年間(1810~2000年代)で比較的ゆっくりではあるが概ね上昇を続けていることは,この変異が進行中の言語変化に関わっていることを支持する結果となった.この変化は,文頭に現れうるという点において,等位接続詞butが接続副詞的機能の一部を獲得しつつある可能性を示唆するものである.

  • 大江 元貴, 居關 友里子, 鈴木 彩香
    2020 年 23 巻 1 号 p. 226-241
    発行日: 2020/09/30
    公開日: 2020/10/07
    ジャーナル 認証あり

    日本語の左方転位構文は,情報構造上どのような働きをするか,話しことばか書きことばか,という問いのもとでその特徴が記述されてきたが,そのような抽象的なレベルでの記述では実際の使用を十分に捉えられていなかった.本稿は,具体的な言語使用環境(ジャンル)ごとに異なる文法の存在を想定する「多重文法モデル」の考え方を基盤として,コーパス横断的調査に基づいた左方転位構文の分析を行った.その結果,以下の二点が明らかになった.①日本語の左方転位構文は,情報構造のレベルよりも大きな談話展開のあり方に関わり,大きく〈予告・総括〉型と〈項目提示・注釈挿入〉型の二つのタイプに分けられる.②日本語の左方転位構文の特徴は,話しことばか書きことばかという対立では捉えられず,「独演調談話」とでも呼ぶべき,話し手と聞き手の不均衡な関係を前提としたジャンルと結びついている.多重文法で想定されている多様なジャンルの輪郭を明確にしていくためには本稿のような具体的な言語表現から出発してその言語表現のジャンル特性を特定していくというアプローチを取り入れていくことが重要になる.

  • 辻岡 咲子
    2020 年 23 巻 1 号 p. 242-257
    発行日: 2020/09/30
    公開日: 2020/10/07
    ジャーナル 認証あり

    本稿では,日本語と韓国語の授受動詞による依頼表現の使用動態に関する調査に基づき,両言語の配慮を必要とする言語形式の多様化の方向性について考察した.本調査では,上下関係,親疎関係,依頼内容の負担の大小という基準を分析に加え,若年層と中高年層にアンケート調査を行った.その結果,比較的新しく使用され始めた表現である日本語の許可求め表現と韓国語の可能肯定疑問の表現は,いずれも若年層が多用し,両世代とも依頼内容の負担の大きい場面で選択率が上がっていた.また,若年層特有に見られた結果としては,初対面の同世代や親しい目上という待遇表現の選択基準が揺れやすい相手へ選択する傾向にあったことから,中高年層よりも使用する範囲が拡がっているということが明らかになった.両言語の授受動詞による依頼表現の多様化の方向性の相違とその要因に関して述べると,モラウ/イタダクの補助動詞用法の有無に加え,それに後接する構文の違いと丁寧さの捉え方に違いがある.日本語の場合,「聞き手の私的領域」を言及しない表現を丁寧な表現だと捉えることがあるため婉曲的な表現が拡張するが,韓国語にはその制限が無いため「聞き手の私的領域」を直接言及する表現が多様になる.よって,日韓の依頼表現のバリエーションの多様化の方向性にも差異が現れると言える.

  • 小森 由里
    2020 年 23 巻 1 号 p. 258-273
    発行日: 2020/09/30
    公開日: 2020/10/07
    ジャーナル 認証あり

    親族間で他の親族に言及する場合,他称詞として親族語や名前などに加え,「この子」「あの人」などコ・ソ・アを用いた指示詞他称詞が用いられる.本稿の目的は,指示詞他称詞の運用上の利点と制約を探り,親族語や名前などの他称詞と指示詞他称詞との違いを明らかにすることである.実在する親族を対象に参与観察によって収集した146の指示詞他称詞のデータを分析した結果,指示詞他称詞には3つの利点があることが判明した.話し手と聞き手の間で呼び名の定まっていない親族に言及する場合,話し手が話題の人物を特定する必要がないと判断した場合,話題の人物について限られた親族間で内密に話をしたい場合には,指示詞他称詞が活用される.一方で,指示詞他称詞の運用には待遇上の制約が認められる.話題の人物が会話の場面に同席する場合,指示詞で指し示すことができる対象は話し手より年下・世代下の人物で血縁者に限られる点である.さらに,親族語や名前と指示詞他称詞との違いとして,親族語や名前は特定の人物を指し示すために用いられるのに対し,指示詞他称詞の指示対象は定まっておらず,会話の展開や場面に応じて指示対象が変わり,柔軟に使用されることが明らかになった.親族語や名前は,話し手・聞き手・話題の人物との世代差や血縁関係に基づき用いられるが,指示詞他称詞の運用には,話題の人物が会話の場面に同席するか否かが大きな影響を及ぼしていることも判明した.

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