産業ストレス研究
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特集 第32回日本産業ストレス学会大会特集
【大会長講演】
  • -これまでの30年間の振り返りと今後への提言-
    太田 充彦
    2025 年32 巻4 号 p. 249-255
    発行日: 2025/11/30
    公開日: 2026/02/07
    ジャーナル フリー

    過去 30 年間,日本は大きな社会経済的変容を経験し,それが労働文化や労働者の思考に影響を及ぼしてきた。従来の終身雇用モデルは大きく変化し,長期的な雇用の安定から,仕事の内容,職場の柔軟性,キャリアアップの機会といった側面に労働者の関心が移りつつある。職場における心理社会的ストレスに関する研究は,このような変化を反映して更新される必要がある。筆者は要求度-コントロール-サポートモデルおよび努力-報酬不均衡モデルを用いて,職場の心理社会的ストレッサーが精神的および身体的健康にどのような影響を及ぼすかについて研究を行ってきた。その結果,喫煙,不眠,腰痛などとの関連があることを明らかにした。笑い療法などのポジティブな介入についても研究を行い,笑いがコルチゾールの分泌低下と関連することを示した。ウェアラブル技術や人工知能の進歩は,個人に合わせたストレス管理戦略を可能にする精密医療の開発を後押ししている。社会経済的状況・労働環境が変化していることを考えると,今後の研究では,技術革新と行動的洞察を組み合わせて,より健康的な職場環境を促進する適応的な解決策を生み出していく必要がある。

  • ―看護基礎教育の現状と今後の期待―
    後藤 由紀
    2025 年32 巻4 号 p. 257-265
    発行日: 2025/11/30
    公開日: 2026/02/07
    ジャーナル フリー

     働く人の多くがストレスを感じている現在,産業ストレス分野の対策は喫緊の課題である。

     産業保健活動を展開するには,多職種がチームとなって活動する必要がある。産業看護職は,「働く人に最も近い専門職」と言われており看護の専門性を生かし,きめ細やかな対人支援と集団・組織全体の組織診断,コーディネーションカを駆使して幅広い活動を展開している。

     労働安全衛生法が制定された当時は,今のような「看護」の専門性に関して世間で十分な認知がされていたとは言い難かった。しかし,この50年間に看護教育の在り方も様変わりし看護は専門性を確立した。一方で,看護基礎教育において「産業保健・産業看護」の教授は未だ不十分と考えられる。実践では,産業ストレス分野をはじめ看護職の果たす役割は大きく,産業保健活動において看護の貢献は欠かせない。

     これからの看護基礎教育の在り方,実践活動に求められること,産業看護研究を通して,産業看護の専門性発揮が産業ストレスの解決に繋がることについて言及した。

【教育鼎談】
  • -ポジティブ・ディビアンスと参加型職場環境改善、2つの参加型アプローチの邂逅-
    小林 由佳, 小田切 優子, 吉川 悦子, 河村 洋子
    2025 年32 巻4 号 p. 267-272
    発行日: 2025/11/30
    公開日: 2026/02/07
    ジャーナル フリー

    現場での困りごとや課題に対して、好事例をどのように活用できるだろうか。また、解決につながる一歩を踏み出し、好事例にしていくためには何が必要なのだろうか。本企画では、好事例を活用してより良い環境づくりに活かすアプローチとして、「参加型職場環境改善」と「ポジティブ・ディビアンス」を題材として、本学会初の試みである鼎談を開催した。最初の一歩の踏み出し方、専門家の関与と役割、実践哲学などについて、お互いに質問し合いながら議論を深めた。そして、小さなこと、出来ることからから着手すること、現場の人が中心となる参加型アプローチを取ること、専門職は全体の動きを促しながら見守る姿勢をとること、という共通点が見出された。さらに、事例の積み重ねにより環境を作る、行動をよく観察して小さな逸脱に気づく、などの各アプローチ特有の工夫についても知見を共有した。

【教育講演】
  • AI・SNS活用の課題と展望
    坂本 昌彦
    2025 年32 巻4 号 p. 273-278
    発行日: 2025/11/30
    公開日: 2026/02/07
    ジャーナル フリー

    現代社会において,職業上のメンタルヘルスは重要な公衆衛生問題となっている。ストレス関連障害の増加は,雇用構造の変化や新型コロナウイルスのパンデミックによって悪化し,欠勤の増加,生産性の低下,メンタルヘルス介入の必要性の高まりにつながっている。同時に,デジタル化が職場を変革し,効率性とともにコミュニケーションの断絶や情報過多といった新たなストレス要因をもたらしている。SNS(Social Networking Service)や AI(Artificial Intelligence)によって生成された健康に関する誤情報の拡散は,健康情報リテラシーの重要性と意思決定における認知バイアスへの意識を強調している。AI や健康アプリのようなツールは,情報に基づいた行動を支援し得るが,慎重な導入と評価が求められる。実証的な結果は,対話的な支援と組み合わせることで,デジタルツールがストレス管理の成果を高める可能性を示している。さらに,効果的な健康コミュニケーションは,明確さ,共感,タイミングを優先し,健康リスクが起こりうる可能性と,そのリスクの重大性の認識の両方に対応するべきである。産業保健を進展させるには,デジタル包摂,積極的な教育(例:プリバンキング),および人間と技術を統合したハイブリッドアプローチを統合し,平等で信頼でき,関与を促す情報提供を実現することが求められる。

  • 藤田 順之
    2025 年32 巻4 号 p. 279-285
    発行日: 2025/11/30
    公開日: 2026/02/07
    ジャーナル フリー

    超高齢社会の中で,健康寿命の延伸が重要視されており,運動器変性疾患,とりわけ腰部脊柱管狭窄症(LSS)はその阻害因子の一つとされる。本総説では,LSS とロコモティブシンドローム(ロコモ),フレイル,ポリファーマシーの相互関係について,自験例を基に概説する。LSS 患者ではロコモやフレイルの合併が多く,特に術前のフレイルは,手術による機能改善を妨げる因子であることも示された。また,慢性疼痛や併存疾患により LSS 患者では多剤併用が多くみられるが,手術後には鎮痛薬を中心に有意な薬剤数の減少が認められ,心理的安定もその減薬に寄与していた。これらの知見は,LSS に対する手術が身体的改善だけでなく,薬剤負担の軽減や健康寿命の延伸にも寄与し得ることを示しており,高齢者診療における包括的な介入の重要性を示唆している。

  • 部活動改革から働き方改革まで
    内田 良
    2025 年32 巻4 号 p. 287-291
    発行日: 2025/11/30
    公開日: 2026/02/07
    ジャーナル フリー

     本稿は,学校管理下の多様なリスクに注目し,その低減の道筋を示す。リスクは理論上無限である一方,それを低減するためのリソースは常に有限であり,学校はどのリスクに優先的に対応するかを選択せざるを得ない。

     リスクが可視化されると,人びとはしばしば当の活動のプラス面を強調する「魅惑モデル」を採用するものの,これは実際のリスク低減には結びつかない。本稿では「魅惑モデル」に代わり,リスクに正面から向き合い,計画的に縮減していくことで,誰もが安心・安全を享受できる環境を目指す「持続可能モデル」を提起する。

     教員の長時間労働は,1971 年の「給特法」により労働時間と賃金の関係が切り離され,時間管理の弱体化を招いてきた。また,制度設計が不備なままに展開されてきた部活動は,教員の業務負担を増大させるだけでなく,生徒を熱中症などのリスクにもさらしている。こうして日本社会は,学校内部の見えない労働に依存する「学校依存社会」と化しており,その構造を認識し是正することが,持続可能で安全な学校を築くうえで不可欠である。

  • 北島 剛司
    2025 年32 巻4 号 p. 293-300
    発行日: 2025/11/30
    公開日: 2026/02/07
    ジャーナル フリー

    睡眠の不良ないし不足による心身への弊害は近年精力的に調査され,例えば高血圧,代謝性疾患,うつ病等の精神疾患へのリスク等が示されている。不眠については,従来一つの“ 症候” にすぎないと捉えられてきたが,心身の疾患と双方向性に影響を持つという認識より,近年は国際的に,「不眠障害」として一つの独立した疾患と捉えられる流れとなっている。不眠の対処としては,不眠の認知行動療法の有効性のエビデンスが急速に増加し第一選択治療として普及の過程にあることに加え,薬物療法は,ベンゾジアゼピン受容体作動薬からオレキシン受容体拮抗薬などの新規睡眠薬へのシフトが進みつつある。むずむず脚症候群,閉塞性睡眠時無呼吸,概日リズム睡眠・覚醒障害は,いずれもうつ病などの精神疾患との関連が明らかにされつつある。産業衛生において,日中の眠気とそれに伴うパフォーマンスの低下・労働災害,朝の起床困難,精神疾患による休業・復職等との関連から,勤労者に対し適切に睡眠の評価・治療・指導を行うことが重要である。睡眠の問題を考える際には概日リズムの視点を持つことが重要であり,人のクロノタイプ(朝型か夜型か),いわゆる「社会的ジェットラグ」,就寝前のメディア使用の弊害の理由等を理解しておくと,特に若い勤労者に対して健康指導が行いやすい。近年,自閉スペクトラム症もしくは注意欠如多動症などの神経発達症が職場での適応の観点からも注目されているが,睡眠の問題との関連が強い。特に気分症の回復期においては,睡眠・覚醒リズムの回復が重要であり,リハビリテーションと同時に,ここまで述べた睡眠評価と対処を総合して行う必要がある。

  • 岸 太郎
    2025 年32 巻4 号 p. 301-308
    発行日: 2025/11/30
    公開日: 2026/02/07
    ジャーナル フリー

    現代の医療現場では,医師は科学的根拠に基づいた医療(Evidence-Based Medicine, EBM)を実践することが求められている。特に精神科医療において,科学的根拠に基づいた精神科医療(Evidence-Based Mental Health; EBMH)が注目されており,個々の患者の病状や合併症,患者の価値観や社会的要因も取り入れ,患者と共に診療方針を決定することが求められている(Shared Decision Making; SDM)。本稿では薬物治療およびニューロモデュレーション治療に焦点を当てて最新の統合失調症治療に関する話題を述べる。

【シンポジウム】
【ワークショップ】
【カレントトピックス】
【原著論文】
  • 小森 國寿, 大塚 泰正
    2025 年32 巻4 号 p. 383-397
    発行日: 2025/11/30
    公開日: 2026/02/07
    ジャーナル フリー

    強度のトラウマ体験に対する精神的なもがきによって生じるポジティブな心理的変容を心的外傷後成長(Posttraumatic Growth: PTG)という。PTG は,トラウマ体験によるネガティブな影響を踏まえ,新たに見出されたポジティブな視点での意味づけが達成されることで獲得される。本研究では,複数の駐屯地に所属する自衛隊員 329 名を対象として任務または任務以外でのトラウマ経験を契機として PTG が達成されるまでのモデルおよび職業コミットメントの反すうへの調整効果を検討した。具体的には,自衛隊員のPTG モデルを共分散構造分析によって,職業コミットメントを調整要因として侵入的反すうが意図的反すうにもたらす影響を,階層的重回帰分析によって分析した。その結果,中核信念のゆらぎが侵入的反すう,意図的反すうおよび肯定的再解釈を媒介して PTG が達成され,QOL が高まることが明らかになった。また,任務トラウマ体験において情緒的職業コミットメントが意図的反すうを高める効果が認められたことから,組織とのつながりによって,任務関連のトラウマ体験に取り組もうとする対処力が促進される可能性が示唆された。一方,非任務トラウマの場合には侵入的反すうが高く,規範的職業コミットメントが高い場合に意図的反すうが高まる調整効果が認められたことから,個人的なトラウマ体験によって組織に迷惑をかけまいとする自衛隊員の責任感の強さが反映されている可能性が示唆された。

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