景観生態学
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12 巻, 2 号
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  • 小串 重治, 鎌田 磨人
    2008 年 12 巻 2 号 p. 1-15
    発行日: 2008/07/31
    公開日: 2011/08/17
    ジャーナル フリー
    ミヤマクマザサが優占するササ草地にウラジロモミが侵入しつつある徳島県の剣山国定公園内に位置する落合峠において, ササ草地への樹木侵入に係わる要因を空間的に把握・分析した.まず, 1954年, 1962年, 1975年, 1990年, 2000年の5年代の航空写真判読により作成したウラジロモミ定着図の比較を通じ, ウラジロモミ分布域の拡大傾向を把握した.ササ草地内でのウラジロモミの分布面積は経年的に増加し, また, その初期種子供給源 (1954年時のウラジロモミの分布位置) から遠くなるにつれて減少する傾向が認められた.次に, ミヤマクマザサの繁茂程度がウラジロモミの侵入に及ぼす影響を把握するため, ミヤマクマザサめ地上部体積指標を調査地域全域にわたって推定できるモデルを作成した.ミヤマクマザサの地上部体積指標は相対光量子密度との相関関係より4つに類型化することができた (Svi1>18.5%, 10.6%<SviII≦18.5%, 5.5%<SviIII≦10.6%, SviIV≦5.5%).対象地域全体における4つのササ繁茂型は, 5mDEMから算出可能な “地形指数” と “南からの風当たり指数” の2つの地形要因を説明変数とする樹形モデルにより推定可能であった.さらに, ウラジロモミ定着図と樹形モデルに基づき作成したササ繁茂型推定図とのオーバレイ解析の結果, SviIVにおけるウラジロモミの定着速度は顕著に抑制されていることが明らかになった.それは, SviIVの光条件が悪いことを反映していると考えられた.また, SviIの定着率はSviIIおよびSviIIIよりもやや低くなる傾向が認められたが, これは風当たりが強く, 乾燥しているSviIの立地条件が影響していると推定された.
  • 原田 悦子, 小川 誠, 三橋 弘宗, 鎌田 磨人
    2008 年 12 巻 2 号 p. 17-32
    発行日: 2008/07/31
    公開日: 2011/08/17
    ジャーナル フリー
    生態系の保全や再生・修復を効率的に行っていくためには, 限られた分布情報を用いて野生生物の潜在的生育・生息地を推定する手法を発展させる必要がある。本研究では, 複数種の湿生・水生希少植物の分布パターンから種をグループ化した上で, 種グループそれぞれについて潜在的生育地を推定する手法を提案し, その有効性について検討した。まず, 徳島県で絶滅の危機に瀕する湿性・水生の絶滅危惧植物のうち66種を対象として, その分布情報を, 3次メッシュを用いてGISに格納した.そして, メッシュ内の種の在・不在データと環境要因 (3次メッシュ内の温量指数, 降水量, 標高平均値, 傾斜角度平均値, TWI9以上の面積率, SPI平均値, 標高5m以下の面積率) から, CCAによって種を序列化した後に, クラスター分析でグループ化した.次に, それぞれの種グループが選好する環境要因を, 選好度によって求めた.そして, 環境要因別に, 同様の環境幅を持つメッシュを全メッシュから抽出し, それぞれにレイヤを作成した上で, 感度と特異度を求めた.さらに, 感度が高いレイヤ順にオーバーレイし, レイヤ間で重なり合うメッシュを順次抽出した.その際, 感度と特異度を毎回算出し, 感度が特異度を下回る直前のズテップで抽出されたメッシュを潜在的生育適地とした.結果は以下の通りである.種グループAの潜在的生育適地は, 山地内の緩斜面域の源流的環境に形成される湿地であると推察された.種グループBの潜在的生育適地は, 吉野川下流域の流路周辺であり, 洪水のたびに一時水域が形成されてきた領域と一致した.種グループCの潜在的生育適地は, 主に吉野川, 那賀川河口域の沖積低地であり, 縄文海進以降に陸地化した標高5m以下の領域とほぼ一致した.種グループDの潜在的生育適地は, 山地から低地に至る多様な類型を含んでおり, 特に, 砂礫台地や岩石台地といった扇状地性段丘の割合が高かった.このうち, グループD1の構成種は, 段丘や山麓地と低地との接合部に湧出する水によって酒養される湿地を主な生育地として, D2構成種は, 土砂浸食が盛んな河川沿いの崩壊地等に一時的に形成される湿地を主な生育の場としてきたと考えられた.種グループBやCの潜在的生育適地は, 水田や居住地としての土地利用率が高く, 土地利用の観点からは絶滅リスクが最も高い地域であると考えられた.
  • 佐藤 妙, 宗円 典久, 伊藤 哲, 山川 博美, 島田 正浩, 光田 靖
    2008 年 12 巻 2 号 p. 33-42
    発行日: 2008/07/31
    公開日: 2011/08/17
    ジャーナル フリー
    宮崎市の山城史跡穆佐城跡は国指定史跡であり, 現在その有効な管理方策の立案が望まれている.山城史跡の整備・保全においては, 史跡としての価値そのものである山体形状の保全, および史跡の公開・教育的利用を目的とした植生管理が必要とされる。そこで保全および利用の2軸から穆佐城跡の立地評価を行い, これに基づき管理方針設定モデルを作成し, その有効性を検討した.立地評価に用いる2軸は, 穆佐城跡を構成する複数の因子を階層的なスコアリングにより統合的に評価して作成した.その際史跡保全上改変出来ない地形要因および史跡そのものの展示利用価値に重みをおいた.立地区分の結果, 穆佐城跡の地形的な特徴および史跡としての特徴を反映して各区分が分布した.このように改変不可な要因に重みをおいた階層的なスコアリングにより, 史跡としての価値が高い部分を重視したゾーニング案が提示できた.また2軸直交座標系で評価したことにより, 管理の方向性と集約度を同時に提示することが可能であった.このモデルの妥当性および意思決定支援上の適用性を検討するため, 区分の閾値を変えた複数の代替案作成による感受性分析を行った結果, 閾値を変えても管理目的が変化しない場所や, 逆に閾値設定によって結果が大きく変動する地点が抽出された.このような分析により, 不変的に管理目的を設定できる場所や, 一定の制約を持たせるべき場所, さらに重点的に管理目的の是非を検討すべき場所など, 意思決定上の優先順位に関する有効な支援情報を提示することが可能であった.
  • 鈴木 重雄, 菊池 亜希良, 中越 信和
    2008 年 12 巻 2 号 p. 43-51
    発行日: 2008/07/31
    公開日: 2011/03/18
    ジャーナル フリー
    現在, 各地で放棄モウソウチク林対策としておこなわれている地上部の除去後の植生変化とモウソウチクの回復過程を明らかにするために, 島根県大田市三瓶町の竹林で実験的な調査をおこなった.各時期, 各プロットの植物種組成をDCAにより座標平面に展開したところ, 第1軸の値は大きいものから, 二次林, モウソウチク林, 伐採跡地の環境を示し, 稈の除去をおこなったプロットではモウソウチク林的種組成から伐採跡地的種組成へと変化がみられた.また, 直接伐採はしていないものの, 周囲の伐採によって, 林床の光条件が改善したプロットでも第1軸の値が小さくなり出現種数の増加がみられた.伐採をおこなったプロットでは, 新しい稈の本数の増加と綾小化が起こったものの, 伐採2年後には, 本数の減少と稈が大きくなることが認められた.これらより, 一度伐採した竹林においてもその後の管理をおこなわなかった場合には, 再度竹林となる可能性が高いとみられることから, 継続的な刈り取りが必要であった.また, 林床の光条件が多少改善されただけでも, 出現種数の増加がみられたことから, モウソウチクの稈密度を管理した上で, 下層の木本種を育成した後に伐採をおこなう手法も, 広葉樹林のスムーズな復元を図るためには有用であると考えられる
  • 玉置 仁, 中山 恭彦, 新井 章吾
    2008 年 12 巻 2 号 p. 53-58
    発行日: 2008/07/31
    公開日: 2011/03/18
    ジャーナル フリー
    2005年10月, 島根県隠岐諸島の神島地先の岩塊群に分布していたエビアマモ群落において, 葉上に観察された採食痕と流動環境との関係を調べて, 藻食性魚類の採食活動に及ぼす流動の影響を検討した.エビアマモは, D.L.-0.5mから-3.7mの水深に生育していた.草丈が短く, 葉上に藻食性魚類の採食痕が観察された草体は, 流速の低い場所に分布し, 一方, 流速の高い場所では, 伸長した食み痕のない草体が認められた.以上のことから, 本地先の流動の強い場所では, 藻食性魚類の採食活動が制限されている可能性があり, これらの場所では, 葉上に採食痕のないエビアマモが残存していたと推察された.
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