日本の個人住民税制は公的年金給付に対し寛大な控除を認める結果,課税ベースが侵食されている.これによって比較的担税力があると考えられる豊かな高齢者の税負担が軽減されるとともに,近い将来,都市部で高齢化が本格化すれば,その税収の減少も大きな問題となると考えられる.
一方で2006年度税制改正では,公的年金等控除の縮小や老年者控除の廃止による年金課税の強化が行われた.本稿では,この税制改正が各市区町村の住民一人当たり課税所得額に及ぼした影響を,税制改正前後の期間における全国市区町村のパネル・データを用いた計量手法で分析する.そしてこの年金課税強化がなければ,高齢化が進む地域の住民税課税ベースの侵食は今よりもっと進んでいたが,課税強化によりそれは一定程度,緩和されたことを示す.
公的年金等控除は2006年度税制改正以降も依然大きく,更なる改正の余地がある.高齢化による住民税の課税ベース侵食を緩和する点で,そうした改正は重要な政策課題であることを主張する.
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