日本地方財政学会研究叢書
Online ISSN : 2436-7125
26 巻
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研究論文
  • ——2006年度税制改正のケース——
    八塩 裕之
    2019 年 26 巻 p. 35-60
    発行日: 2019年
    公開日: 2024/06/05
    ジャーナル フリー

     日本の個人住民税制は公的年金給付に対し寛大な控除を認める結果,課税ベースが侵食されている.これによって比較的担税力があると考えられる豊かな高齢者の税負担が軽減されるとともに,近い将来,都市部で高齢化が本格化すれば,その税収の減少も大きな問題となると考えられる.

     一方で2006年度税制改正では,公的年金等控除の縮小や老年者控除の廃止による年金課税の強化が行われた.本稿では,この税制改正が各市区町村の住民一人当たり課税所得額に及ぼした影響を,税制改正前後の期間における全国市区町村のパネル・データを用いた計量手法で分析する.そしてこの年金課税強化がなければ,高齢化が進む地域の住民税課税ベースの侵食は今よりもっと進んでいたが,課税強化によりそれは一定程度,緩和されたことを示す.

     公的年金等控除は2006年度税制改正以降も依然大きく,更なる改正の余地がある.高齢化による住民税の課税ベース侵食を緩和する点で,そうした改正は重要な政策課題であることを主張する.

  • 宮下 量久
    2019 年 26 巻 p. 61-86
    発行日: 2019年
    公開日: 2024/06/05
    ジャーナル フリー

     本稿では,過疎地域がどのような要因で過疎債を発行するのかを定量的に明らかにした.過疎債の元利償還の7割が普通交付税の基準財政需要額に算入されるため,過疎債は過疎地域に対する財政支援という側面はあるものの,元利償還における負担を他の地域住民に転嫁させている恐れもある.分析の結果,過疎債の交付税措置の少なかった過疎地域ほど過疎債を発行していた.また,実質公債費比率は過疎債やその他地方債の発行に負の有意な影響を与えるものの,過疎地域は実質公債費比率に基づいて過疎債発行をその他の地方債よりも抑制していない傾向も確認された.さらに,過疎地域では高齢化が過疎地域の平均値よりも進むと,過疎債が顕著に発行されていることがわかった.具体的には,65歳以上人口比率が4割近くになると,過疎地域は過疎債を優先的に発行する傾向がみられた.今後,高齢化はさらに進展すると見込まれるため,過疎地域の多くが過疎債に依存した財政運営を強いられると予想される.

  • 竹本 亨, 赤井 伸郎, 沓澤 隆司
    2019 年 26 巻 p. 87-104
    発行日: 2019年
    公開日: 2024/06/05
    ジャーナル フリー

     本稿では,「基準化された標準距離」を都市のコンパクト化の度合いを示す指標として用いて,都市のコンパクト化が基礎自治体の歳出に与える影響を分析した.その結果,「基準化された標準距離」に関して一人当たり歳出総額はU字型となっており,一人当たり歳出総額が最小となる「基準化された標準距離」が存在することが示された.つまり,財政的に適度なコンパクト化の度合いが存在することが明らかとなった.そして,その最小となる「基準化された標準距離」よりもコンパクトでない市町村は全体の4分の3もあり,それらの市町村ではコンパクト化によって歳出が低下する可能性があることが示唆される.さらに,目的別歳出の衛生費と土木費,消防費,教育費,さらに細目の小学校費と中学校費の合計についても同様の結果となった.これらは一人当たり歳出が最小となる「基準化された標準距離」が歳出総額のそれよりも小さく,コンパクト化の効果が発揮される領域が広いことを示唆している.すなわち,コンパクト化の効果がより広範囲な市町村で発揮される費目と言える.

  • ―大阪府内の公立図書館を材料として―
    吉弘 憲介
    2019 年 26 巻 p. 105-122
    発行日: 2019年
    公開日: 2024/06/05
    ジャーナル フリー

     本稿の目的は,大阪府内の自治体立図書館サービスを題材に,公共施設の便益スピルオーバー(イン)を量的かつ直接的に推計することである.公共施設の便益スピルオーバー(イン)に関する研究は,①自治体の公的資本形成の水準が他の自治体の公共事業費支出に与える影響を計量的に分析しスピルオーバーの在否を実証するもの,②生産関数を用いて,自治体間のスピルオーバーの量的関係を実証するもの,③地価に対する影響によってスピルオーバーの効果を間接的に推計するヘドニック・アプローチを用いるものがあった.しかし,便益の及ぶ地理的な範囲を直接的・具体的に把握できないことに加え,生産に直接関連のない施設を扱えないなどの限界を有していた.

     本稿では,地理情報システム(GIS)を用いて得られた情報を下に,生活関連施設である図書館サービスのスピルオーバー(イン)を,GISによる面積按分法によって量的・具体的に明らかにした.また,公立図書館の利用実態を推計値と比較することで推計手法の蓋然性を確認した.

  • ―自治体類型・学歴別のコミューンの平均所得に注目して―
    古市 将人
    2019 年 26 巻 p. 123-142
    発行日: 2019年
    公開日: 2024/06/05
    ジャーナル フリー

     近年スウェーデンの格差は拡大しており,現金給付の削減も実施されてきた.2008年中道保守政権下で実施された,コミューンに在宅育児手当を導入する権利を付与する改革は,広範な議論を起こした.この制度はジェンダー平等,子供の就学前保育の利用の観点からは批判され,地方自治と在宅育児を支持する観点からは評価されていた.ただし,労働市場において相対的に弱い立場にいると想定できる層に,在宅育児手当の利用者が集中していた.そのため,この制度は,女性の就労のみならずコミューン間の所得格差に影響を与えることが考えられる.

     本稿では,自治体類型・性別・学歴を考慮に入れて,在宅育児手当を導入したコミューンと未導入のコミューンとの所得格差の実態を分析した.分析の結果,「都市」に分類されるコミューンにおいて,在宅育児手当を導入しているコミューンが未導入のコミューンよりも女性の平均所得が増加していた.「非都市」においては,在宅育児手当制度を導入しているコミューンと未導入とのコミューン間の所得差はほとんどみられなかった.他の学歴に比べて,初等教育相当の学歴の女性の平均所得が大きく低下していた.以上の作業を踏まえて,在宅育児手当制度の導入から廃止までの議会における議論を分析し,2000年代における各アクターの同制度の正当化論を検討した.

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