日本地方財政学会研究叢書
Online ISSN : 2436-7125
27 巻
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研究論文
  • 天羽 正継
    2020 年 27 巻 p. 59-86
    発行日: 2020年
    公開日: 2024/06/05
    ジャーナル フリー

     日本の本格的な地方債制度は1888年の市制・町村制によって創設されたが,従来の研究はそのことに言及するにとどまっているものが中心である.また,市制・町村制に至るまでに登場した地方債制度の諸構想に触れている研究も存在するが,紹介にとどまっており,それらの特徴や,実際に創設された地方債制度に与えた影響といった点については明らかにされていない.一方,それらの構想について一次史料を用いて明らかにしている歴史学者の研究が存在するが,実際に創設された地方債制度との関係についての視点が十分ではない.そこで本稿では,制度創設以前に登場した地方債制度の諸構想を検討することで,それらが実際に創設された制度にどのような影響を与えたのか,そして,創設された制度はそれらの構想と比較してどのような特徴を有しているのかについて明らかにすることを試みた.当初は地方制度一般に先んじて,それとは独立した地方債制度を定めようという構想が中心であったが,政府がそのような制度に否定的であったため,地方制度の内部で地方債制度を創設する方向で構想されることとなった.内容的に様々な特徴を有する構想が登場したが,実際に創設された地方債制度はプロイセンの制度の影響を強く受け,起債目的を具体的に明示せず,そのことによって監督官庁の起債許可が必要な範囲を広くすること等を主な特徴とするものであった.

  • ―標準距離を用いたパネル分析―
    沓澤 隆司, 竹本 亨, 赤井 伸郎
    2020 年 27 巻 p. 87-114
    発行日: 2020年
    公開日: 2024/06/05
    ジャーナル フリー

     都市の中心部に人口を集中させる「都市のコンパクト化」は市町村の行政コストを抑制し,財政の健全化に寄与することなどが期待されている.本稿では,1999年度から2009年度までの「平成の大合併」と呼ばれている市町村合併が,都市のコンパクト化にどのような影響を与えているかについて,都市のコンパクト化の指標である「標準距離」を使ってパネル分析を行った.この結果,①市町村合併が「都市のコンパクト化」を進めること,②特に,人口や財政力で旧市町村間の較差が大きい「較差型」の合併が「都市のコンパクト化」を進める傾向が強いこと,③合併が行われた年から年度が経過するにつれてよりコンパクト化が進行することが示された.これらの分析結果は,市町村合併が単に人口規模の確保となるだけでなく,都市のコンパクト化を促進し,その結果として財政の健全化に寄与する可能性を示唆している.

  • 吉弘 憲介
    2020 年 27 巻 p. 115-133
    発行日: 2020年
    公開日: 2024/06/05
    ジャーナル フリー

     本稿の目的は,市区町村の森林環境譲与税譲与率の試算値と,2014年度から2016年度までの林業費平均額との相関分析から,現行の譲与基準と譲与割合の「妥当性」を検討することである.分析の結果,森林環境税・環境譲与税が創設された主たる目的である私有林人工林の管理について,林業費の水準が上位20%の市区町村(第5五分位)では,その面積割合に見合うだけの譲与税収がもたらされていないこと.同時に,下位20%の市区町村では全国比わずか0.5%の私有林人工林面積を有するに過ぎないにもかかわらず,譲与税収の1割が配分されることを明らかにした.また,回帰分析により,その原因が各市区町村の人口数基準によって譲与割合の30%が決定されるためであることを明らかにした.同じく,仮に林業費の水準に近い形で譲与税収を配分するとすれば,人口数基準の譲与割合を4%まで縮めることが望ましいことを示した.

  • ―2013年改革の形成と影響―
    金 根三
    2020 年 27 巻 p. 135-158
    発行日: 2020年
    公開日: 2024/06/05
    ジャーナル フリー

     韓国では,2013年度から実施された無償保育改革により,0~5歳までの乳幼児の全所得階層へ保育料支援が行われている.この政策を実施するに至った背景は,世界で類を見ないほどに合計特殊出生率が低下したことにある.しかし,低出産対策として,保育料支援だけに大きく偏っている点からすると,出生率の回復よりも,経済の低成長と雇用の不安定による若年層への所得補填の意図が含まれているともいえる.なにより問題は財源の確保である.2000年代に財政分権改革が行われたにもかかわらず,自主財源の拡充が不十分である自治体財政では,既存の国庫補助金による保育料支援を急激に拡大することは難しい.結局,3~5歳の保育料支援を地方教育関連移転財源である地方教育財政交付金によって賄うことで,無償保育改革は完成した.しかし,地方教育財政交付金は内国税と連動しているため景気に左右されやすく,自治体によっては保育関連予算編成が難しいため地方債発行が急増する問題をもつ.長期的には財源圧迫により,無償保育予算編成の不安要素になりかねない.

     本稿では,まずは,韓国の保育財政改革の導入過程を説明する.その上で,国庫補助事業である「0~2歳保育料」「養育手当」の自治体間における国費比率の妥当性を確認し,地方教育財政交付金により財源が充てられる「3~5歳保育料」がもつ財政不安定の問題点を明らかにし,日本の無償保育化改革への示唆点を提示する.

  • ——課税ベースをめぐる議論を中心に——
    松井 克明
    2020 年 27 巻 p. 159-186
    発行日: 2020年
    公開日: 2024/06/05
    ジャーナル フリー

     本稿は,米国中西部インディアナ州の2000年以降,とくに2014年のペンス(Mike Pence)知事による企業課税改革における課税ベースをめぐる議論を分析対象とし,州企業課税改革の背景とその結果を明らかにする.

     2007年の固定資産税改革は資産評価方法の統一とともに居住用資産を中心に負担上限を設けたが,産業界から減税の要望が高まった.2014年企業課税改革では,州法人所得税の税率が引き下げられた.また,償却資産税に関しては,地方政府ごとの課税最低限として2万ドルまでの償却資産への課税除外を可能とし,さらに郡が設ける経済再生特区における新規設備への課税を行わない課税免除を20年間行う大型課税免除が導入された.しかし,課税免除の効果に関しては懐疑的な見方も多い.インディアナ州の確定申告データをもとに雇用及び賃金の変化をみると,ペンス知事の「雇用を促進することをより容易にした」という政策意図に対して十分な効果があったとはいえない.

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