沙漠研究
Online ISSN : 2189-1761
Print ISSN : 0917-6985
ISSN-L : 0917-6985
26 巻, 2 号
選択された号の論文の6件中1~6を表示しています
原著論文
  • Jing WU, 甲斐 憲次
    2016 年 26 巻 2 号 p. 51-57
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/07
    ジャーナル フリー

     ゴビ砂漠と中国北部に広がる乾燥・半乾燥地域は,アジアダストの主要な発生源のひとつである.本研究の目的は,1999年から2013年にかけて発生した春季ダストの空間的・時間的特徴を理解することである.空間分布を見ると,ダストの発生はゴビ沙漠が最も多く,ついで黄土高原である.これらの地域では,強風が頻繁に発生し,乾燥した地表面がまばらな植生と積雪面で特徴付けられている.

     しかしながら,内モンゴルの草地では,強風が頻繁に観測されているにもかかわらず,ダストはあまり多く発生していない.時系列を見ると,ダストの発生は2000-2002年に最も多く,次いで2006年である.そして,2007-2013年は有意な減少傾向がある.ダスト発生頻度は,強風発生頻度および正規化植生指数NDVIと統計的に有意な相関がある(前者はr=0.80, p<0.01,後者はr=-0.67, p<0.01).したがって,ダストの発生頻度は強風の発生頻度と共に増加し,春季の豊富な植生によって抑制される.植生の状態は土地の劣化と沙漠化に関わるので,人間活動が植生に及ぼす影響も議論した.利用可能なデータの制約により,研究対象地域は内モンゴルに限定する.フェンス付草原面積の拡大および農地と家畜頭数の安定化は,2007年から2013年におけるNDVIの増加に関係している.このことは,内モンゴルにおける,最近のダスト発生頻度の減少傾向を説明する.

短報
小特集原著論文:沙漠誌分科会
  • 日本砂漠学会砂漠誌分科会
    2016 年 26 巻 2 号 p. 65-66
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/07
    ジャーナル フリー
  • -タンザニアおよびカメルーンの農村を事例として-
    久保 亮介
    2016 年 26 巻 2 号 p. 67-72
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/07
    ジャーナル フリー

    本研究では,タンザニアおよびカメルーンの農村における酒造りの実態を明らかにし,そこで用いられる醸造技術の地域間比較を行った.両村における地酒製造を比較すると,糖化に関する醸造技術において多くの相違点が確認された.一方,発酵に関する醸造技術は両村において似通っていた.各調査村における酒造りでは,地酒の品質を向上させるための醸造技術が,利用可能な原材料に応じてそれぞれ異なった発展を遂げているということが,本研究によって明らかとなった.

  • 古澤 礼太
    2016 年 26 巻 2 号 p. 73-79
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/07
    ジャーナル フリー

    ガーナ共和国首都のアクラに住むガ民族は,本来漁労民であるが,トウモロコシを中心とした食文化を発達させてきた.本稿では,そのガのトウモロコシ食文化を次の二方法によってあきらかにした.まず,ガのトウモロコシ食文化の全体像の解明を,トウモロコシ食品の儀礼的利用(新生児の命名式や葬式,新年祭におけるトウモロコシ食品および飲料の利用),トウモロコシ食品の多様な調理法,発酵食品の存在という3点をあきらかにすることによって試みた.次に,主食であるコミ(Komi)に焦点を当てて,コミ料理の調理方法と食べ方をあきらかにしたが,コミが現在,家庭では調理されず,町内のコミ製造・販売店で購入されていることが判明した.その理由として,コミの製造とコミ販売店の実態調査から,コミ調理が家庭内調理では継続困難な重労働であることに起因することが判明した.そして最後に,一家族の一カ月にわたる食事内容調査にもとづき,が民族の食事文化の実態とそのなかにおけるコミの位置づけをあきらかにした.

  • -エチオピア南部半乾燥地に暮らすデラシャとコンソの事例-
    砂野 唯
    2016 年 26 巻 2 号 p. 81-90
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/07
    ジャーナル フリー

     エチオピア南部に暮らすデラシャとコンソは,モロコシとトウモロコシから作った穀物酒を主食とするという世界でも極めて珍しい食文化をもつ.デラシャとコンソの居住域は隣接しており,生態環境,歴史,文化,社会などに多数の共通点が見られる.双方ともに半乾燥地で虫害が激しいという厳しい環境下であるうえに,面積の大半を石の転がる斜面地が占める.厳しい環境に暮らす彼らは,穀物を固形食や糖化飲料よりも摂取し易いアルコール飲料として大量に摂取し,生存に必要な栄養を摂取するという,酒食文化を形成して暮らしてきた.

     類似点の多い双方の酒食文化であるが,その詳細は異なっている.デラシャは少ない労働力しか投入せず,わずかな種類の作物しか栽培しない.そのため,食材の種類は少なく,食事内容のうち地酒が占める割合が大きい.しかし,流動食である地酒はすぐに空腹となるため,デラシャは余暇の時間を全て,地酒の摂取に当てている.一方,コンソは多大な労力を投入して,土地を徹底的に利用して多種類の作物を栽培している.そのため,食材の種類が多く,食事内容のうちイモ類やマメ類,野菜類が占める割合は高い.集約的な農業を営んでいるため,余暇の時間は少なく,食事時間は固定されている.また,デラシャの醸造方法には保存性を高めて日々の醸造工程を簡略化する工夫が凝らされているのに対して,コンソでは10世帯以上がグループになって順番に醸造作業を担うことで,醸造にかかる負担を軽減している.さらに,それぞれの地酒の風味は全く異なっており,デラシャもコンソも自分たちが飲み慣れた地酒を好んで飲む.

     このように,双方の酒食文化は栽培作物や農法,生活様式,社会関係,味覚などの多角的な要因に影響されて成り立っている.

feedback
Top