沙漠研究
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28 巻, 2 号
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原著論文
  • 成尾 和浩, CÁSSIMO Watemua A., 小出 淳司, 大澤 和敏, 後藤 章
    2018 年 28 巻 2 号 p. 45-58
    発行日: 2018/09/30
    公開日: 2018/11/13
    ジャーナル フリー

    モザンビークでは,政府関係機関や複数のドナー,NGO等によって土壌侵食防止のための取り組みが行われているが,各技術による土壌侵食防止効果を圃場レベルで定量的に比較検証した事例は極めて限られている.本研究では,モザンビーク国ナカラ回廊地域に位置するNampulaとLichingaにおいて,雨期の土壌侵食防止技術の効果を評価するための圃場試験を実施した.Nampulaの試験は3年間実施し,作物は,キマメ,トウモロコシ,キャッサバを順に栽培した.また,Lichingaでは2年間試験を実施し,キマメ,トウモロコシを順に栽培した.最小耕起は,土壌侵食を57%減少させ,作物収量の低下をまねくことはなかった.ソルガム,メイズ,キマメ,ヒマワリによる残渣マルチは,それぞれ62%,70%,90–95%,51%,土壌侵食量を減少させた.しかし,ダイズ残渣については,土壌侵食の防止に効果が認められなかった.一方,ダイズ残渣マルチは,マルチの中で唯一,マルチ無しに比べ作物収量を有意に増加させ,その収量はマルチ無しの約2倍となった.ベチベル草植生帯は,土壌侵食量を77%減少させた.また,シロアリによる食害試験では,ベチベル草の葉は,シロアリの食害を一切受けず,シロアリの増加をまねく危険性がないことが示された.キマメのアレイクロッピングはキマメ残渣マルチと同程度の土壌侵食防止効果を示したが,作物収量を増加させることは出来なかった.キマメのアレイクロッピングは剪定の労力が増えるため,それに見合った増収効果が得られなかった今回の試験結果では,同技術は農家には採用され難いと考えられる.今回検証した技術の内,最も導入が容易で効果が高いと考えられるのは,最小耕起に作物残渣を組み合わせた処理である.本技術は特別な材料を一切必要とせず,土壌侵食の防止だけでなく労働力削減の面でも高い効果が期待出来る.但し,シロアリの多い圃場では,作物残渣の代わりにベチベル草植生帯を最小耕起と組み合わせることが望ましい.なお,ダイズ残渣については,作物収量の増加が期待出来るが,土壌侵食の防止効果は期待出来ないため,他の技術と併用することが必要である.

小特集 : 沙漠工学分科会第31回講演会
  • 田島 淳, 鈴木 伸治
    2018 年 28 巻 2 号 p. 59-60
    発行日: 2018/09/30
    公開日: 2018/11/13
    ジャーナル フリー

    近年,植物の生理活性について,遺伝子レベルでの研究やその応用についての研究が進み,これらの知見が乾燥地での植物の耐乾性の付与や,医療や健康に生かされるなどしています.沙漠工学分科会では,「植物の根源に迫る」をテーマに,東京農業大学応用生物科学部バイオサイエンス学科教授の太治輝昭氏とSBIファーマ株式会社研究開発本部研究開発部の高橋究氏のお二方に講師をお願いしました.

    太治輝昭氏からは,「植物の環境適応の過程で“水を取るか,病害菌から身を守るか”決め手となった仕組みを解明」というテーマで,乾燥ストレスの中で植物がどのようにして病害菌から身を守っているかを,新たな発見と応用の可能性を交えて報告して頂きました.シロイヌナズナArabidopsis thalianaを用いた実験で,ACQOSと名付けた遺伝子を有するシロイヌナズナは病害抵抗性に優れる一方で浸透圧耐性が損なわれること,ACQOSを失ったシロイヌナズナは高い浸透圧耐性を獲得するものの病害抵抗性が低下すること,を明らかにしています.今後,様々な作物栽培で応用が期待されます.

    高橋究氏からは,「生命の根源物質 5-アミノレブリン酸の多彩な応用」をテーマに,5-アミノレブリン酸(ALA)が生物の基本的な機能を担う重要な分子であるとされる理由について丁寧な説明があった後,その多岐に渡る分野での応用事例,応用の可能性について紹介されました.生体におけるALAの生理作用は古くから知られていたものの,発酵法によるALAの大量合成法の開発を機に,農業分野で低毒性の光要求型除草剤としての応用化,植物の光合成促進効果,そして,ヒトのヘルスケアへの応用を経て,今日の医学分野などにおいての実用に至っているという経緯は,当初の奇異な印象を越え驚きの世界でした.

    講演会後の懇親会では,講師のお二人を囲んで植物の根元・神秘についての意見交換が続き,沙漠学会の多様な人材に感激した分科会でした.この場をお借りしてお二人の縁者,ご参加頂いた会員の皆様に深く感謝する次第です.

    14:30~14:40 開会

    14:40~15:20 太治輝昭(東京農業大学応用生物科学部バイオサイエンス学科教授) 『植物の環境適応の過程で“水を取るか,病害菌から身を守るか”決め手となった仕組みを解明』

    15:20~16:00 高橋 究(SBIファーマ株式会社 研究開発本部 研究開発部) 『生命の根源物質 5-アミノレブリン酸の多彩な応用』

    16:00~16:30 総合討論

    16:30~16:40 閉会

  • 太治 輝昭
    2018 年 28 巻 2 号 p. 61-65
    発行日: 2018/09/30
    公開日: 2018/11/13
    ジャーナル フリー

    干害・塩害・冷害は,植物が水を吸えなくなるストレス(浸透圧ストレス)により引き起こされる,農業上最も被害の大きな害である.近年の研究により植物の耐性メカニズムの一端が明らかになりつつあるが,往々にして植物の成長や他の働きが悪くなるなどの弊害を伴う.自然界には極めて高い耐性を示す植物が存在する一方,同じ種であってもそのような耐性が失われている例がある.しかしながら,植物が同じ種内でも耐性を持つ植物と持たない植物に分かれてきた進化的要因やその背景でどんな遺伝子が働いているのかに関しては不明である.モデル植物として広く利用されているシロイヌナズナは,世界中の様々な地域に生息し,そのaccession(エコタイプ)数は2,000を超える.これらは様々な環境条件に適応した結果,同じ種でありながら,浸透圧耐性に違いがあることが分かった.我々は,そのような数百グループのシロイヌナズナを比較することで,ACQOSと名付けた遺伝子が浸透圧耐性の有無を決定することを明らかにした.驚くことにACQOSは植物の免疫応答に重要な遺伝子だった.①ACQOSを有するシロイヌナズナは病害抵抗性に優れる一方で浸透圧耐性が損なわれること,逆に②ACQOSを失ったシロイヌナズナは高い浸透圧耐性を獲得するものの,病害抵抗性が低下することが分かった.すなわち,ACQOS遺伝子の有無が病害抵抗性を取るか浸透圧耐性を取るかの決め手となることが明らかになった.

    今後,植物工場のような乾燥にさらされない環境ではACQOSを有することで病害抵抗性を向上させ,乾燥が頻繁に起こる圃場ではACQOSを無くすことで著しい浸透圧耐性を向上させる等,環境条件に応じて植物のストレス耐性を最適な方向にデザインすることが可能になると期待される.

  • 高橋 究
    2018 年 28 巻 2 号 p. 66-72
    発行日: 2018/09/30
    公開日: 2018/11/13
    ジャーナル フリー

    5-アミノレブリン酸(ALA)は,ヘムやクロロフィルといった,エネルギー生産など生物の根幹機能を担う重要な分子であるテトラピロール化合物の代謝系における出発物質で,生物に普遍的に存在する,生命の根源物質とも称される天然アミノ酸である.

    生体におけるALAの生理作用は,農業分野で見出されたのち,医学・ヘルスケア分野においても多彩で加速度的な応用がなされており,当該分野へのALAの応用について概説する.

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