近年,植物の生理活性について,遺伝子レベルでの研究やその応用についての研究が進み,これらの知見が乾燥地での植物の耐乾性の付与や,医療や健康に生かされるなどしています.沙漠工学分科会では,「植物の根源に迫る」をテーマに,東京農業大学応用生物科学部バイオサイエンス学科教授の太治輝昭氏とSBIファーマ株式会社研究開発本部研究開発部の高橋究氏のお二方に講師をお願いしました.
太治輝昭氏からは,「植物の環境適応の過程で“水を取るか,病害菌から身を守るか”決め手となった仕組みを解明」というテーマで,乾燥ストレスの中で植物がどのようにして病害菌から身を守っているかを,新たな発見と応用の可能性を交えて報告して頂きました.シロイヌナズナArabidopsis thalianaを用いた実験で,ACQOSと名付けた遺伝子を有するシロイヌナズナは病害抵抗性に優れる一方で浸透圧耐性が損なわれること,ACQOSを失ったシロイヌナズナは高い浸透圧耐性を獲得するものの病害抵抗性が低下すること,を明らかにしています.今後,様々な作物栽培で応用が期待されます.
高橋究氏からは,「生命の根源物質 5-アミノレブリン酸の多彩な応用」をテーマに,5-アミノレブリン酸(ALA)が生物の基本的な機能を担う重要な分子であるとされる理由について丁寧な説明があった後,その多岐に渡る分野での応用事例,応用の可能性について紹介されました.生体におけるALAの生理作用は古くから知られていたものの,発酵法によるALAの大量合成法の開発を機に,農業分野で低毒性の光要求型除草剤としての応用化,植物の光合成促進効果,そして,ヒトのヘルスケアへの応用を経て,今日の医学分野などにおいての実用に至っているという経緯は,当初の奇異な印象を越え驚きの世界でした.
講演会後の懇親会では,講師のお二人を囲んで植物の根元・神秘についての意見交換が続き,沙漠学会の多様な人材に感激した分科会でした.この場をお借りしてお二人の縁者,ご参加頂いた会員の皆様に深く感謝する次第です.
14:30~14:40 開会
14:40~15:20 太治輝昭(東京農業大学応用生物科学部バイオサイエンス学科教授) 『植物の環境適応の過程で“水を取るか,病害菌から身を守るか”決め手となった仕組みを解明』
15:20~16:00 高橋 究(SBIファーマ株式会社 研究開発本部 研究開発部) 『生命の根源物質 5-アミノレブリン酸の多彩な応用』
16:00~16:30 総合討論
16:30~16:40 閉会
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