沙漠研究
Online ISSN : 2189-1761
Print ISSN : 0917-6985
ISSN-L : 0917-6985
28 巻, 3 号
選択された号の論文の3件中1~3を表示しています
原著論文
  • 林 聖蕾, 宋 萌珠, 倉持 秀敏, 高橋 史武
    2018 年 28 巻 3 号 p. 197-215
    発行日: 2018/12/30
    公開日: 2019/03/15
    ジャーナル フリー

    中国北西部などの乾燥地域は石炭資源が豊富であり,石炭火力発電から排出される石炭灰のリサイクルが社会的問題となっている.一方,乾燥地域では少ない水資源を有効活用するため,土壌の水分保持材に強い需要がある.そこで石炭灰を土壌水分保持材としてリサイクルすることを目標に,本研究では石炭灰添加による土壌水分保持能への効果を研究した.従来の研究での土壌水分保持能では,特定圧力下で保持される水分量を求めている.しかし乾燥地域では蒸発散が土壌水分の主な減少経路となることを鑑み,本研究では蒸発による水分減少に対する抵抗性を評価した時間積分水分保持能を新たに提案し,それによって評価した.含水量を調整した試料を特定温度にて乾燥させ,含水量の経時変化を測定した.そして含水量曲線の面積でもって,時間積分水分保持能としている.つまり,多くの水を長く保持するほど,その水分保持能が高く評価される.本研究では室温(約20度)と40度を乾燥温度とし,真砂土,赤玉土,珪砂,川砂を実験試料とした.なお本研究では同一条件で3回以上実験し,時間積分水分保持能の増加/減少が実験誤差の範囲を超えているか統計分析によって確かめた.

    従来の土壌水分保持能では,石炭灰(未処理)を土壌添加することで水分保持能が増加するとする報告例が多い.一方,本研究の時間積分水分保持能で評価すると,未処理石炭灰を添加することで,川砂以外では水分保持能が有意に減少した(40度の場合).川砂では石炭灰添加による影響は実験誤差の範囲内であった.石炭灰の添加効果は,室温よりも40度の場合に顕著かつ複雑に現れた.アパタイト処理した石炭灰を添加したとき,特にリン/カルシウム比(P/Ca比)が11.7の場合に,時間積分水分保持能が有意に増加した.ただし川砂では有意な効果は見られなかった.一方,有機処理した石炭灰を添加すると,土壌試料では有意な効果が現れず,砂試料(川砂を含む)では時間積分水分保持能が有意に減少した.有機アパタイト処理した石炭灰の場合,砂試料(川砂を含む)の時間積分水分保持能が有意に増加し,土壌試料では有意に減少,もしくは効果が見られなかった.表面積,土壌(砂)の撥水性(水滴浸入時間),石炭灰,粒径分布,毛管水量,pF値に着目したが,どれも時間積分水分保持能と強い相関を持たなかった.ただし,時間積分水分保持能の変化量に着目すると,表面積と撥水性の変化量でもって有意に説明できること,未知の要因も撥水性の変化量と同程度に時間積分水分保持能の変化量へ関与していることを見出した.

資料・報告
feedback
Top