本研究では,エチオピア高地のティグライ州において,燃料の生産と消費の視点から森林地の保全を考察するために,1)燃料として利用されている資源の種類とその頻度,世帯当たりの燃料消費量を把握し,2)燃料として利用されている家畜糞ケーキと木本植物の生産量を推定することにより,燃料の消費-生産バランスを検討し,3)森林を保全するために,薪の消費量を軽減する方策について考察することを目的とした.ティグライ州の農民は,燃料として家畜糞ケーキ,薪,農耕残渣,および,木炭を利用していた.世帯当たり1日の平均消費量は,家畜糞ケーキが8.3(min 0.0〜max 20.7) kg DM/day/household,薪が2.3(0.0〜8.9) kg DM/day/household,農耕残渣が0.1(0.0〜3.5) kg DM/day/household,木炭が0.2(0.0〜2.0) kg DM/day/householdであった.家畜糞ケーキは薪の3.6倍も消費されていた.これらのことから,燃料は家畜糞ケーキを中心に利用しながら,木本植物も重要な資源として利用されていることが把握された.家畜糞ケーキの生産は,乾期の9月から6月までの約10ヶ月間で10.0 kg DM/day/household生産し,同量を年間を通じて消費することにより,家畜糞ケーキの余剰量を出すことなく,家畜糞を使えるだけ燃料として消費していた.木本植物の生育量と薪の消費量を計算した結果,薪の消費量は木本植物の生育量よりも2.9倍も消費していた.従って,Kilite Awlaelo district南部においては,木本植物の生産と消費はバランスが取れておらず,消費過多の状況にあると判断された.今後,薪の消費量を減らして最低限度の薪を利用することにより,木本植物の利用への圧力を軽減し,森林の環境保全を図っていくには,太陽光発電の普及,家畜頭数の増加(世帯毎に飼養する成牛を1〜2頭増加),家畜飼養管理の変更(飼養する家畜の一部を放牧から舎飼いに転換),および,改良竈の普及が極めて重要であることが示唆された.これらの薪の消費量を減らす試みには,地方自治体のサポートが不可欠である
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