沙漠研究
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30 巻 , 4 号
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原著論文
  • 平田 昌弘, 盛 利隆, Birhane Gebreanenia GEBREMEDHIN, 鬼木 俊次, 竹中 浩一
    2021 年 30 巻 4 号 p. 51-62
    発行日: 2021/03/30
    公開日: 2021/03/25
    ジャーナル フリー

    エチオピア北部ティグライ州西部地区では,近年の地方自治体主導による森林保全・放牧禁止地域の拡大や社会変化により,家畜を放牧する場所が縮小し,現地農民が所有する家畜頭数は減少傾向にある.家畜飼養頭数の減少が,現地農民の食料摂取を低減させていることが懸念されている.そこで本研究の目的は,エチオピア北部ティグライ州西部地区キリテ・アウラエロ郡において,1)ティグライ農耕民の現在の食料摂取量とその特徴を把握し,2)近年の地方自治体による政策や社会・経済状況の変化がティグライ農耕民の食料摂取や栄養状況にいかに影響を及ぼしているかについて考察するための予備的調査を実施することにある.2015年2月・3月,2019年9月にTigray農耕民3世帯に滞在し,合計10人に対して食料摂取量を実測した.また,1970年頃の食料摂取,家畜頭数と乳量,乳製品の食料摂取に占める割合,放牧地の状況を把握するために,49歳〜75歳の合計10人に対してインタビュー調査を実施した.調査をおこなったティグライ農耕民の食料摂取の特徴は,日常の食事においては大量のインジェラ(taita)とパン(gogo)を摂取し,マメ料理 (shiroshumshimo)と赤トウガラシソース(silsi)を付け合わせて日常食とし,肉・内臓料理や乳・乳製品にはほとんど依存しておらず,エネルギー摂取量,タンパク質摂取量,脂質摂取量は不足傾向にあった.正月などの祭事や葬式などの法事の際に供される非日常の特別な食事で栄養分を補充していることが示唆された.人口増加,教育の普及,森林保全・禁止放牧地の増加の結果,家畜飼養頭数と乳・乳製品の生産量は減少し,乳・乳製品の摂取量が減少することとなり,ティグライ農耕民は栄養摂取不足に陥り,地域農民の健康に悪影響を及ぼしていることが示唆された.地方自治体は,単に地域の自然環境保全を考えた政策ではなく,そこに暮らす人々の生業や健康にも配慮した総合的な政策を講ずる必要がある.今後,結果の信頼性を増すために,より広域でより多数の事例を調査していくことが求められる.

展望論文
  • 永井 恵
    2021 年 30 巻 4 号 p. 63-69
    発行日: 2021/03/30
    公開日: 2021/03/25
    ジャーナル フリー

    近年の地球温暖化により引き起こされる気候変動,とくに陸地乾燥に伴い世界中で水資源が枯渇しつつある.とりわけ豪州はその傾向が強い一方で,生活習慣病などを原因とする重大な疾病に対する治療の需要は高まっており,その治療自体が多大な環境負荷を与えている.また,地球温暖化による平均気温上昇は熱中症や感染症の有病率を上昇させ,健康被害を及ぼす.腎臓は水分・塩分の保持や排泄,老廃物や毒素の除去を担う臓器である.糖尿病などにより腎臓の機能が失われると,慢性腎不全に至る.腎不全患者の生命維持のために維持透析治療を行うが,一人当たり年間10.2 tCO2-eq,水消費500 L/日の環境負荷がかかる.本邦を例にとると,透析患者は350人に1人であり,決してまれな治療とは言えず,世界的にみても,さらに患者数は増加の見込みである.環境問題に先進的な豪州や英国では,水の再利用,太陽光の利用,適切な透析方法の推進などのイノベーションをすすめる取り組み「Green Nephrology(環境に配慮した腎臓病学)」が推進されてきた.また,このGreen Nephrologyは主に医療従事者による活動であるが,医療を支える環境学者,工学者,企業,医療を受ける国民や為政者といった多角的な協力体制の構築が望まれる.さらに,水の再利用としての腎不全治療に用いられた窒素と電解質とを含む透析排液の活用も考えられ,塩性植物の栽培など乾燥地農学研究に関わる研究者の参画も必要となってくるであろう.これらのGreen Nephrologyが豪州や本邦のみならず全世界に広がることで,医療が与える環境負荷が低減され,ひいては,健康の維持へ貢献できると考えられる.

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