沙漠研究
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30 巻, 2 号
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原著論文
  • 宝 音図, 草処 基, 千年 篤
    2020 年 30 巻 2 号 p. 7-18
    発行日: 2020/09/30
    公開日: 2020/09/25
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    近年,中国では所得水準向上を背景にして牛肉消費量が急速に増大し,それに伴い牛肉輸入量も急増している.こうした中,国内牛肉生産の強化が急務とされ,肥育及び繁殖経営の拡充が重要課題になっている.国内有数の牛肉生産地である内モンゴル自治区においても肉用牛繁殖経営の強化が推進されている.他方,内モンゴルの牧畜経営では飼料基盤の安定的確保が喫緊の課題となっている.環境保護政策の実施により,牧草地の放牧利用が厳しく制限されているからである.放牧を基盤とした牧畜が「舎飼」に転換し,それに伴う飼育方式と飼育畜種の転換が建物費や購入飼料費等の経営費を上昇させた.立地条件や自然生態系は地域によって異なっているから,当然ながら牧草地利用制限の影響には地域差がある.しかし,こうした地域差に着目しつつ農家経営聞き取り調査をもとに経営収支を分析した研究は,少なくとも内モンゴルの肉用牛繁殖経営に関する先行研究に限れば存在していない.そこで,本稿では,飼料基盤及び立地条件において顕著な差がある赤峰市内の2村を対象にして,肉用牛繁殖経営の現状と課題を明らかにすることを目的とする.

    半農半牧区(半農半牧村)16戸と牧畜区(牧畜村)17戸を対象に実施した農家経営調査から収集したデータの比較分析により,見出された主な点は以下のとおりである.第1に,半農半牧村の繁殖経営では濃厚飼料が主体,牧畜村では粗飼料が主体であり,環境保護政策以降,半農半牧村では耕地でのトウモロコシ生産の強化,牧畜村では,素牛出荷時期の放牧期間初期への転換により,飼料基盤の維持・拡充を図ってきた.特に,半農半牧村ではトウモロコシ増産により,余剰生産物が生じ,その販売が大きな収入源になっている.第2に,両村の繁殖経営において飼料基盤に顕著な違いがみられるものの,飼養頭数,粗収入,経営費,純収入において両村間に統計的有意差はない.第3に,規模階層別の収益性を比較した結果,半農半牧村ではトウモロコシ生産により中規模層において優位性があり,牧畜村では小・中規模層に比較してより広い牧草地をもつ大規模経営において優位性がある.ただし,両村とも大規模層では自給飼料の不足により,小・中規模層に比較して購入飼料依存率が高くなっている.

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