モンゴルには広大なステップが広がっており,生活の場や生物多様性保全の場として重要である.しかし近年,草原退行が重要な問題として認識されている.このような現状において,植生の退行状況や回復状況を判断する基準を提供するために,種組成に基づいて植生情報を整理することが必要である.本研究では,植生情報が依然として不足しているモンゴル西部に分布するステップ群落を主対象として植生データを収集し,それらを体系的に整理することを目的とした.現地調査は2010年および2011年の夏季にGreat Lakes basin周辺とハンガイ山脈南部の山地斜面で行った.植物社会学的方法に基づいて植生調査を行い,収集した植生資料を用いて表操作法による群落区分を行った.群落区分の結果,4つの群落が識別された.これらはAgropyron cristatum—Artemisia frigida群落,Echinops gmelinii—Artemisia rutifolia群落,Anabasis brevifolia—Stipa glareosa群落,Hordeum turkestanicum—Artemisia caespitosa群落であった.Agropyron cristatum—Artemisia frigida群落はモンゴル西部に広く分布しており,モンゴル西部に典型的なステップ群落であることが示された.その他の群落は,沙漠群落と沙漠ステップ群落を統合したクラスであるStipetea glareosae-gobicaeに区分されると考えられた.モンゴル西部に分布するステップ群落は,モンゴル中央部に分布するステップ群落の標徴種の一部が欠落し,Stipa glareosaやStipa gobica,Allium polyrrhizum,Gypsophila desertorumなどの沙漠ステップ群落に主に分布する種が出現することが特徴として挙げられた.