沙漠研究
Online ISSN : 2189-1761
Print ISSN : 0917-6985
ISSN-L : 0917-6985
32 巻, 1 号
選択された号の論文の5件中1~5を表示しています
原著論文
  • 平田 昌弘, 鬼木 俊次
    2022 年 32 巻 1 号 p. 1-13
    発行日: 2022/06/30
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    本研究は,エチオピア北東部のアファール州のアファール牧畜民を対象とし,気候変動と市場経済化に伴った,1)家畜頭数の変化,2)季節移動の変化,3)食料摂取の変化,4)価値観の変化を明らかにすることを目的とした.調査は,エチオピア北東部のアファール州第1ゾーンDubti郡のSerdo村とSecoita村で滞在調査を実施した.家畜頭数,家畜売却頭数,家畜屠殺頭数などの家畜管理,食料摂取,家畜や市場に対する価値観,近年の気候変動と植生状況について合計6つの世帯に対してインタビュー調査した.アファール牧畜民が飼養する家畜頭数は近年急激に減少していた.その原因は,最近20年間において,降水量が平均降水量よりも少ない年が多発するようになり,年間降水量の変動が増加する傾向にあることが,降水量データと牧畜民の証言から把握された.この気候変動に伴い,河川などの水源を求め,家畜の季節移動が長距離化する傾向にあった.また,季節移動するのは世帯全員から世帯一部に変化し,世帯の大部分は定住するように変化していた.食料摂取は,乳中心の食事からコムギパン中心の食事へと変貌していた.その結果,アファール牧畜民は栄養摂取不足に陥り,飢餓の状態にあることが推測された.これらの変化をもたらした要因が,降水量の減少と民主化に伴った市場経済化であると考えられた.気候変動の影響と市場経済の導入により,資源を共有する習慣は継続するものの,家畜分与という資源共有はなくなり,人々の互助関係は脆弱になっているのが現在のアファール牧畜民の状況である.このまま気候変動が続けば,アファール牧畜は十数年の内に終焉する可能性が高い.牧畜ができなくなれば,灌漑農業を始めて半農半牧となるか,難民となるかである.河川や池の水資源が利用できる場所に計画的に牧畜民を移住させる,牧畜民から他の生業に移れる仕事を用意するなど,抜本的な対応が迫られている.

小特集
feedback
Top