沙漠研究
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原著論文
  • マイヤー清水 幸子
    2024 年 34 巻 2 号 p. 35-51
    発行日: 2024/09/30
    公開日: 2024/09/30
    ジャーナル フリー

    西アフリカのコートジボワール共和国は,同地域の中で地理的および経済的に中心的な役割を果たす新興国である.同国は,1960年の独立以降,30年以上に亘り,フェリックス・ウフエ=ボワニ初代大統領の下,安定した政権と経済発展から,「象牙の奇跡」と称された.その気候は,南部は熱帯湿潤,北部は乾燥と多様であり,南部湿潤地帯で生産されるコーヒー,ココアとならんで,北部の半乾燥・乾燥地帯であるサバンナ地域における農産物も,同国の経済発展を支えてきた.60以上の民族から構成されるコートジボワールは,2002年から約10年に及び,国が南北に分断される内戦を経験した.内戦終結後の2012年,コートジボワール国民教育省は,内戦により頓挫していた教育カリキュラムの改訂のため,平和文化への移行を促進する目的で,「人権・市民教育」(EDHC)を導入した.EDHCは,主に国際機関の協力により開発され,平和文化の4つの価値観を軸に健康の側面を加え,参加型・参画型のアプローチを提案するもので,衛生教育は,EDHCのカリキュラムの一環で行われることが定められた.その直後,戦後復興期の2014年には,西アフリカでエボラ出血熱が大流行したが,コートジボワールでは他の近隣諸国と異なり,エボラの確定症例は記録されなかった.それは,コートジボワール政府が,大規模な衛生キャンペーンが行うなど予防措置を施し,その効果が発現したためと推測される.

    コートジボワールの学校では,衛生教育として,どのような取り組みが行われ,生徒たちの衛生行動にどのような効果をもたらしたのだろうか.コートジボワール第二の都市であるブアケ市は,乾季にはサハラ砂漠からの砂塵を含んだハルマッタンが吹く北部の中心都市であり,かつては南北分断の内戦の中心地であった.本研究では,多様な文化が交差し共存する町であるブアケ市の国立大学において,様々なバックグランドを持つ学生を対象に聞き取り調査を行った.学校で行われる衛生教育を「正課衛生教育」,学校以外で行われる啓発活動や衛生キャンペーンを「正課外活動」と位置づけ,大学生の語りから,コートジボワールの正課衛生教育と正課外活動の実態を明らかにし,その効果と持続性を分析した.なお,本研究は,正課衛生教育と人々の衛生行動の関係について考察することを目的とするものである.

  • 鈴木 康平, 小長谷 有紀, 堀田 あゆみ
    2024 年 34 巻 2 号 p. 53-64
    発行日: 2024/09/30
    公開日: 2024/09/30
    ジャーナル フリー

    1990年代前半における市場経済への移行後,モンゴル国では家畜頭数が急増し,放牧地の劣化が危惧されている.このような中で,遊牧民たちに利用される各季節宿営地の立地条件や重視される採食植物といった遊牧パターンを把握し,遊牧民の視点に立った放牧地の健全性を維持するための利用や管理に関わる指針を構築することが求められる.本研究では,歴史的に放牧家畜頭数が一貫して多いアルハンガイ県を対象として,遊牧民世帯への聞き取り調査を行い,遊牧パターンに関する情報を把握することを目的とした.アルハンガイ県ホトント郡において,2016年8月および2019年2月に現地調査を行った.2016年8月の調査では遊牧民世帯の世帯主とともに彼らがそれぞれの季節に宿営地として利用している場所を訪れ,利用実態について聞き取りを実施した.2019年2月の調査では2016年8月の調査で訪れた冬営地周辺の植物の生育状況と日帰り放牧の様子を観察し,世帯主に聞き取りを実施した.対象とした遊牧民世帯では夏営地と冬営地間の距離は5 km程度であり,狭い範囲内で年間の宿営地移動が行われていた.本地域におけるこのような宿営地移動は既存研究による報告と一致する.夏営地はCarex duriuscula(カヤツリグサ科スゲ属)やElymus chinensis(イネ科エゾムギ属)が優占する河川に近い平坦地に置かれ,これらの植物種はヒツジ,ヤギ,ウシに積極的に採食されていた.秋営地として利用される山地斜面ではAllium属(ヒガンバナ科ネギ属)の植物が採食植物として重視されていた.冬営地周辺の日帰り放牧地においてもCarex属の植物が豊富に分布しており,採食植物として重視されていた.既存の植物生態学的な研究ではC. duriusculaは過放牧の指標として報告されることが少なくない.しかし川沿いや山地斜面の湿性立地などのCarex属の植物が優占する植生は遊牧民にとって日帰り放牧地として重要であり,そのような場所ではCarex属植物の優占度の減少に着目した管理が必要である.

  • イゴール タラノフ, 丸 健, 川端 良子
    2024 年 34 巻 2 号 p. 65-77
    発行日: 2024/09/30
    公開日: 2024/09/30
    ジャーナル フリー

    農業普及システムについての情報を検証し,農家の情報ニーズをより深く理解することは,農業普及アプローチのカスタマイズに貢献し,持続可能な農業形態の可能性を調べることは非常に重要である.本論文では,キルギス共和国イシククル州の有機栽培農家を対象に実施した調査から得られたデータを使用して,農業関連情報に関する有機農家の情報ニーズを分析した.探索的因子分析(EFA)により,情報ニーズに関連する4つの因子が特定された.(1)ネットワーク,(2)農業の専門知識,(3)農業ガバナンス,(4)市場情報である.次に,各因子の相対的な重要性を特定した.農業の専門知識が最も高いランクにあり,市場情報,ネットワーク,農業ガバナンスがそれに続いた.農業の専門知識の因子のすべてのステートメントの平均値は4を超えており,有機農家にとっての重要性を示し,有機農業の実践のさまざまな側面にわたる多様な知識要件を反映していた.4因子EFAモデルで,分散が67.76%であった.因子間の相関は0.358を超えず,因子が明確であることを示した.回答者が表明した情報ニーズから,農業投入資材へのアクセスと使用,農家のネットワークの構築,マーケティングに関するより関連性の高いカスタマイズされた情報が普及されるべきであることを示唆された.順列多重分散分析と一対一検定により,場所と教育的背景が特定された要因に重要な影響を与えることが示された.有機原則のさらなる推進を確実にするために,複数の利害関係者が有機農家に関連性のあるタイムリーな情報を提供することを目的とした共同活動を行うべきである.調査結果は,有機農家の情報ニーズを形成する要因を理解し,需要主導型の農業普及システムと有機農家間の強固なネットワークを提唱し,キルギスで有機農業をさらに推進することに貢献すると考えられる.

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