目的:今回われわれはインプラント治療に起因した上顎洞アスペルギルス症のきわめて稀な1症例を経験したので報告する.
症例:患者は67歳の女性で,後鼻漏,鼻閉,頰部不快感を主訴に来院した.口腔内所見では上顎大臼歯部の2本のインプラントは打診痛や動揺はなく,インプラント周囲のポケットを通して口腔と上顎洞との交通を認めた.CTでは上顎洞,篩骨洞は不均一な軟組織陰影で占拠され,真菌塊と呼ばれる石灰化像と上顎洞内の小気泡像を認めたが骨破壊は認められなかった.その他,上顎洞壁の骨肥厚像,上顎洞内側壁の鼻腔への突出を認めた.真菌性副鼻腔炎と臨床診断し,インプラント撤去と上顎洞内搔爬,対孔形成術を施行した.病理組織学的診断,臨床症状やCT所見などより,最終臨床診断はnon-invasive type上顎洞アスペルギルス症とした.術後経過は良好であり症状は完全に消失し,術後8か月後のCTでは上顎洞,篩骨洞に正常粘膜を認めた.
考察と結論:CT所見はこの疾患の診断に非常に有用であった.われわれが渉猟し得た限りインプラント治療に起因した上顎洞アスペルギルス症の報告は海外で2例の報告のみであり本邦では初めてである.
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