歯科分野においてIT(情報)化の推進を効率よく効果的に進めていくためには,歯科医師のIT化に関する意識を把握し,その状況に応じたIT化を計画的に進めていく必要がある.
そこで,本論文では,愛知県の歯科医師に対しIT化に関する意識実態調査を実施し,とくに,情報機器の利用状況,歯科診療所のIT化に関する意識状況,および,歯科医師会事務局のIT化を分析テーマとして今後のIT化に向けて考察を行うとともに,調査結果からシステム工学的な立場でIT化推進に向けての課題を述べている.
この調査結果から,①歯科診療所のIT化の必要性の認識は,歯科医師が高齢になるほど低くなる,②歯科診療所のIT化の目的あるいは期待される効果として,サービス内容の充実を重視している,および,③歯科医師会事務局のIT化の必要性の認識は,役員の方が非役員に比べて高い,等がわかった.
国際医療協力の場における遠隔医療の可能性について,高速データ通信機能を有する衛星通信であるインマルサットM4を利用した,遠隔医療実験を2001年9月日本とネパールの間で実施した.インマルサット衛星通信を介してAdvanced pre-coding (APC)システムによるレントゲン画像,手術場面の動画転送を行い,送られてきた画像・音声についてMean Opinion Score (MOS)を用いて評価したところ,音声・画像・総合点は3.8–4.2点(5点満点)で有用性が認められた.衛星回線の通信料に見合う技術指導の費用対効果を高めるために,遠隔医療を実施するための作業の標準化をはじめ,撮影方法,画像送信の決定等の検討が必要であると考えられた.また,危機管理の点から医療専門家の技術指導のための渡航を減らすことができれば,その有用性はより高まると考えられた.
遠隔手術においては術野および手術室の映像提示が手術の状況把握を支援する上で必要不可欠である.術野や手術室の状況を的確に把握するためには,患部と術具の三次元的な位置関係を正確に把握でき,かつ,術室全体の様子を俯瞰できることが必須であると考えられる.本論文では術野周辺の正確な空間状況提示と手術室全体の概況提示を両立しうる映像提示法である立体展開映像を提案する.立体展開映像は,互いに光軸が直交する3系統の術野近傍映像と,術室を俯瞰する1系統の状況映像を,三面図の要領で一画面中に統合した映像である.立体展開映像の有効性を,穿刺術を想定した遠隔マスタ・スレーブマニピュレータによる術具操作タスクにおいて,術具姿勢の誤差,タスク実行時間,およびマニピュレータの総移動距離の各項目に対する有意差検定,および,提示される映像の違和感,ロボット操作の難しさ,および提示映像からの空間把握の容易さの各項目に対する官能評価により検証した.
国立成育医療センターは,旧国立小児病院と旧国立大蔵病院を統合し電子カルテシステムの稼働とともに開設された.この病院の統合という行政側の意向に対応し,それぞれの旧病院に通っていた患者の診療データを統合後にも参照し,カルテの継続をスムーズにしていくことが求められた.今回はこの統合後の電子カルテシステム上から旧病歴を参照できるシステムを開発・構築した.データの移行については,統合した両病院の旧システムが異なっていたため,それぞれのデータを電子テキストに変換し統合するという形式になった.統合後3ヶ月が経過した段階で全医師に対し評価アンケートを実施し,その結果,この旧病歴参照システムは多くの医師(84.6%)によって役立つシステムであることが明らかとなった.今後は,病院統合以前に十分な準備期間をもうけ,診療データのスムーズな移行がはかられるべきであると思われる.
地域医療における診療情報共有システムにおいて,通信手段としてVPNを使ったPHSデータ通信システムを構築した.このシステムは,ISDNなどの有線通信に比べて設置・移動,メンテナンス,ランニングコストの面で利点がある.モバイル通信は盗聴の危険性があるためにVPNによる暗号化を行ったが,これによる速度低下は5.7%と実際の使用に際してほとんど問題とならない程度であった.通信技術は急速に変化しているが,PHSデータ通信はセキュリティを求められる医療情報の通信手段として有効と考えられる.
本研究の目的は,高齢者などが,安心して四国八十八ヵ所巡礼を楽しむことができるよう,インターネットを利用した支援システムを構築することである.現在,Web上で,地図を始めとする八十八ヵ所情報が配信されているが,本システムは,旅行者と旅行者の家族双方の情報交換にインターネットを利用する.すなわち,旅行中,旅行者の情報は,ボランティアによって,PHS等を利用して定期的に本学に設置された旅行者データ管理用サーバに提供され,家族はその情報を家庭のパソコンまたは携帯電話から随時引き出すことができる.
本システムの特長は,PHS,ノートパソコンなどの移動メディアを活用し,ボランティアの協力を得て,家庭と旅行者の双方をサポートしている点である.高齢者や健康に不安を抱える人が家族と離れて旅行する際,健康状態をはじめとする旅行者情報の送・受信を,サーバを介して随時行うことが可能であり,高齢者や障害者の旅行をサポートする一助になると考える.
近年,医療機関ではいつでもどこでも患者情報の参照・入力ができる環境の構築が望まれている.より正確な情報を発生時点で利用したり入力したりする必要性の高まりと合理化の進展という観点から,すでにいくつかの医療機関においてベッドサイド端末もしくは無線を利用した移動体端末の導入が検討され,導入が進んでいる.
無線によるデータ通信はこれまで速度と価格の面で有線通信に劣っていた.また,電波を利用した通信機器しかなかったため,医用電子機器の電磁波障害問題が指摘されたこともあって,医療機関では無線LANの導入が著しく遅れていた.しかし最近,PHSの安全性とその許容範囲が確認され,また電波を利用した無線LANの一部についても規格法規に則ったものであれば安全に導入できることが確認された.これにより,無線LANの医療機関への安全な導入が可能となった.本稿では,無線LANを紹介すると共に,導入上の注意点について解説する.