医療情報学
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24 巻, 6 号
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第9回日本医療情報学会春季学術大会
研究速報
  • 勝山 貴美子, 神山 祐一, 平野 靖, 間瀬 健二, 山内 一信
    2004 年 24 巻 6 号 p. 579-587
    発行日: 2004年
    公開日: 2016/03/15
    ジャーナル フリー
     慢性疾患の増加に伴う疾病構造の変化に伴い,病気を科学的な視点で捉えるだけでなく,病いとして捉えるナラティブ・ベイスド・メディスン(NBM)が重要視されている.コンピュータによる協調作業支援および発想支援の研究として行われてきた知的対話処理システムを応用し,話題構造の可視化による医師-患者コミュニケーション支援手法の開発を試みたのでここに報告する.一般診療におけるNBMの実践のプロセスを斎藤は,(1)患者の病いの体験の物語りの聴取プロセス,(2)共有のプロセス,(3)医師の物語りの進展のプロセス,(4)物語りのすり合わせと新しい物語りの浮上のプロセス,(5)医療の評価のプロセス,と位置づけている.第一段階として,斎藤のプロセスを参考に,一般診療における医師-患者間の話題の関係を可視化するシステムの構築を試みた.第二段階として,以下の3段階の手順を踏んで話題構造を可視化した.手順1)原文を医師と患者の発言に分けた後,それぞれ独立に話題境界を指定し,それぞれの話題のまとまりを,医師はTOD 1,2・・,患者はTOP 1,2・・とブロック化し,これをテキストオブジェクトとした.手順2)各テキストオブジェクトの話題を表す特徴ベクトルを構成し,すべての組み合わせについて,特徴ベクトルの内積をとることで,テキストオブジェクト間の話題の類似性を算出した.手順3)話題と話題間の類似度を時系列に並べて可視化した.第三段階で,このシステムの効果と有用性について,文献と実際の診療場面における医師と患者の会話分析を行い,良好な結果を得た.
原著
  • 森 信洋, 高倉 照彦
    2004 年 24 巻 6 号 p. 589-598
    発行日: 2004年
    公開日: 2016/03/15
    ジャーナル フリー
     臨床工学技士による医療機器の横断的かつ効率的な運用は,病院経営改善や医療安全に有効である.
     本システムは,医療機器使用中点検時にタブレットコンピュータによる省力的な業務運用と医療機器の信頼性を分析することも目的としたシステムを開発したので報告する.本システムの定義した資産台帳は,医療機器管理台帳,医療機器保守台帳および使用中点検台帳である.タブレットコンピュータによる医療機器使用中点検システムにより,サーバのデータを分離して業務を遂行することができた.医療機器における信頼性情報を把握するために各故障期間の指標を定義した.初期故障期間の指標はMTTFFとした.指数分布を模擬する偶発故障期間の指標は,MTBF,区間推定および有用寿命期間とした.正規分布を模擬する摩耗故障期間の指標は,MTTR,定常Availabilityおよび使用部品経費とした.
     本システムを開発することにより,医療機器による使用中点検の効率・省力化を図ることができた.また,医療機器におけるライフサイクルである初期故障期間,偶発故障期間および摩耗故障期間を把握することができ,患者の安全性と計画的な保守管理を実施することができた.
  • 根岸 正史, 銭谷 幹男, 川村 昇, 能勢 安彦, 梅沢 千章, 木下 雅善, 水野 圭子, 綱川 ルリ子, 安田 信彦
    2004 年 24 巻 6 号 p. 599-604
    発行日: 2004年
    公開日: 2016/03/15
    ジャーナル フリー
     日本病院機能評価機構の診療録に関する重要な評価項目として,1患者1カルテによる診療録管理があるが,電子カルテ未導入の大規模病院で外来における1患者1カルテの運用は困難といわれている.我々は,無線ICタグ(RFID)をカルテに取り付け毎日病院内を複雑に行き交うカルテ所在を24時間追跡するシステムを構築し,約3,000冊のカルテ搬送を可能にした.現在,カルテの所在不明の報告も救急患者搬入時にも迅速なカルテの取り寄せが可能となっている.このシステムは2.45GHzのRFIDがカルテ管理に利用された初めてのケースであり,構築過程で幾つかの重要な知見が得られた.また,比較的連携しやすいウェブブラウザ対応システムとして構築したが,他の既存システムとの連携には時間と労力を必要とした.
  • 小西 央郎, 津久間 秀彦, 石川 澄
    2004 年 24 巻 6 号 p. 605-612
    発行日: 2004年
    公開日: 2016/03/15
    ジャーナル フリー
     ICU/NICUのような集中治療病棟における注射運用システムには,迅速な薬剤投与および頻繁な指示変更に耐えうる能力が要求される.これに対応するため病院情報システム(HIS)と部門情報システム(DIS)の利点を生かし互いに連携して注射指示を運用するシステムを構築した.HISの注射システム構築は,薬剤供給のタイミングによって事前オーダ(投与前に請求)と事後オーダ(部門在庫を使用し投与後に請求)に分けられる.DISにおける注射システムにも事前オーダと事後オーダが存在する.本システムではDISで病棟在庫を用いて,指示,指示受,実施,記録を行い,事後オーダとして使用実績情報を作成,この情報をHISに送信し事後オーダを作成,HISにより物品および医事請求を行う設計とした.この方法により,集中治療病棟での頻繁な指示変更に対処できるシステム構築ができた.さらにHIS事前オーダシステムと比較して本システムの評価を行った.
  • 浮洲 龍太郎, 鈴木 美奈子, 田中 絵里子, 稲葉 基之, 藤澤 英文, 武中 泰樹, 櫛橋 民生, 石垣 武男
    2004 年 24 巻 6 号 p. 613-619
    発行日: 2004年
    公開日: 2016/03/15
    ジャーナル フリー
     当院は2001年4月に完全フィルムレス,ペーパーレス大学付属病院として開院し,放射線科ではすべての画像検査を即時読影し,検査終了後,画像診断レポートを短時間でカルテに配信している.読影の優先度は3種で,緊急は可及的速やか,至急は2時間以内,通常は検査当日にレポートを作成し,オーダー時のデフォルトは至急である.外来患者のCT診断レポートの短時間配信が臨床現場に及ぼす影響について検討した.無作為抽出した外来検査のCTから,608例(緊急199件,至急278件,通常131件)につき,端末ログの記録をもとに,読影時間とカルテで診断レポートが参照できるまでの時間を調査した.さらに検査後の臨床医による患者,または家族への結果説明の有無を調査した.緊急は平均14分,至急は21分,通常も22分弱で読影レポートが作成され,放射線部での患者受付から約60~70分でレポートが配信されていた.患者の過半数が検査当日に説明を受けていた.
  • 横井 英人, 尾藤 茂, 竹居 和子, 原 量宏
    2004 年 24 巻 6 号 p. 621-630
    発行日: 2004年
    公開日: 2016/03/15
    ジャーナル フリー
     医療画像のレポーティングについては,DICOMにおいて構造化レポーティング(SR)が提唱されており,また実際に多階層の情報表現が用いられている標準用語集も存在する.しかし,複雑な情報表現と膨大な量の選択肢 (用語)を持つ用語集を実装するには,十分にユーザーインターフェース(UI)の吟味が必要であり,さもないと画像所見入力は担当者に重い負荷を与える.
     我々は消化器内視鏡の標準用語集MSTをはじめとした 40以上のレポートテンプレートを作成した結果,UIにはある程度のフレキシビリティが必要であるとの認識を持った.例えば一施設の中の消化器内視鏡検査でも検診と一般診療では要求される項目や情報粒度が異なるなど,共通の用語集を使う検査であってもシチュエーションによってUIのカスタマイズが必要であった.我々はUIのカスタマイズを容易にするためにデータベースの設計作業と実装するためのプログラミングを省くカスタマイズフレームワークを開発した.ここで設計したカスタマイズフレームワークはレポーティングシステムのUIとして機能し,多様性に富む入力画面展開と出力を提供することが可能になった.また,このように様々なUIを状況に応じて使い分けるため,一つの検査画像に対して複数のレポートを記録するマルチシーケンスレポートを提案した.
  • 髙見 美樹, 石垣 恭子, 古賀 美紀, 岡﨑 美智子, 臼井 麻里子, 佐原 淑子, 水流 聡子, 原 由行, 佐々木 滋人
    2004 年 24 巻 6 号 p. 631-637
    発行日: 2004年
    公開日: 2016/03/15
    ジャーナル フリー
     長期療養型病床群では,看護師・准看護師・介護職などの様々な職種が,看護情報を共有しながら,患者の日常生活の支援を行っている.
     今回,長期療養型病床群であるX病院において,看護,介護職の実践能力の向上や評価をサポートするための看護過程支援システムの一部として,標準化された観察項目を,看護指示の中の観察指示を表現する用語として利用することができないかと考え,看護観察指示システム(以下,本システム)を構築した.
     本システムを導入した後,実際の観察指示の入力状況を調査した結果,標準患者観察マスターから,観察項目を選択する方法について,文字検索のみではなく,「観察目的」「観察説明」を組み合わせた検索を可能にすることで,さらに簡潔および迅速に,選択することが可能になると考えられた.
  • 天野 寛, 酒井 順哉
    2004 年 24 巻 6 号 p. 639-655
    発行日: 2004年
    公開日: 2016/03/15
    ジャーナル フリー
     医療事故の防止対策には,システムアプローチ(Systems Approach)とパーソンアプローチ(Person Approach)という2つの側面から対応する必要がある(Reason,2000).本研究はパーソンアプローチとして,インシデントレポートと意識調査との関係に着目した.分析は,インシデントの発生件数から医療事故を起こしやすいグループ(H群:ミスが6回以上の群)とそうでないグループ(L群:ミスが0回の群)を抽出し,意識調査の結果について両群間に違いがみられるのかを検討した.その結果,両群と安全意識との関係では,医療事故の報告義務の設問項目群について差がみられ,H群はL群に比べて安全意識に問題があることが確認された.また,両群とパーソナリティーテストとの関係では,エゴグラムのAC,POMSのT-Aについて有意な差がみられ,H群はL群に比べてACが高く,緊張感が高いなどの過剰適応的タイプの者が多い可能性が示唆された.以上の結果について,効果的な安全対策のアプローチを探った.
研究速報
  • 相良 かおる, 小作 浩美, 小暮 潔, 納谷 太, 桑原 教彰
    2004 年 24 巻 6 号 p. 657-665
    発行日: 2004年
    公開日: 2016/03/15
    ジャーナル フリー
     我々は,電子カルテシステムに蓄積された看護領域のテキストデータの意味解析用辞書の自動構築を目指し,構築の際に活用できそうなものとして,ICNP®(看護実践国際分類)と「分類語彙表(国立国語研究所)」を考えている.本稿ではこれらの利用可能性を検証している.具体的には,ICNP®に収録されている看護用語と,「分類語彙表」に収録されている語の比較を行った.またINCP®に登録されている看護用語(以下,登録看護用語という)の冗長性,登録看護用語によるNANDA診断ラベルとNIC看護介入ラベルの生成可能性を調べた.その結果,登録看護用語の32%が「分類語彙表」に登録されていること,看護用語を分類する際に,ICNP®と「分類語彙表」の分類コードの利用が可能であること,ICNP®の多軸構造は看護用語の意味体系を求める際に利用できることが確認された.また,実際に活用する際の問題点が明らかとなった.
  • 石田 博, 井上 裕二, 黒川 典枝, 日野 啓輔, 沖田 極
    2004 年 24 巻 6 号 p. 667-674
    発行日: 2004年
    公開日: 2016/03/15
    ジャーナル フリー
     合併症を起こしやすい肝硬変症を基礎疾患とする肝細胞癌患者を対象として医療費変動の主要な説明要因および医療費推定の検討を行った.
     肝細胞癌で入院した患者を対象に,レセプト請求データから入院期間,実施された診療行為および診療報酬請求額を抽出した.肝硬変症の非代償性合併症および肝細胞癌への治療の種別とその実施の有無を関連する診療行為から判定し,診療報酬請求額を目的変数とした単変量解析および多変量解析を行った.
     単変量解析から合併症や治療の有無により入院日数および診療報酬請求額に有意な差が見られ,さらに,それぞれの要因で分けた診療報酬請求額と入院日数の間に有意な相関が見られた.そのため,得られた医療費の重回帰モデルでは入院期間が最も有意な変数で,以下,肝細胞癌治療,非代償性合併症の順で有意であった.検証用データにおいてもモデルによる予測額と実際額との相関係数(Spearman)は0.89と良好であった.
     今回のような診療報酬請求データをもとにした統計モデルによって合併症などの病態や治療による医療費の主たる変動要因を明らかにし,それらの組み合わせの医療費を推定することが可能と考えられた.
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