目的:自治体間で乳がん検診施設の相互利用協定が締結され検診施設が相互利用化された場合の影響を,(1)対象者の最近隣検診施設までの距離,(2)検診施設までの距離の対象者間における公平性,(3)検診施設間の受診者の偏在性の有無について地理情報システム(geographic information system:以下,GIS)を用いて明らかにすることを目的とした.方法:東京都の島嶼地域を除く53自治体を調査対象とし,平成21年度乳がん検診の実施体制,検診実施施設の名称と所在地の住所,住民基本台帳を基にした平成21年1月1日現在の町丁目別の40歳以上の女性人口統計のデータセットを作成し,GISを用いて分析を行った.対象者の検診施設までの距離は対象者の居住地を各町丁目の人口重心を代表点であると仮定し,その代表点から最近隣の検診施設までの直線距離,距離の公平性については対象者間の距離のジニ係数,受診者の偏在性については検診施設ごとにその施設を最近隣とする対象者の人数の標準偏差とジニ係数を算出した.対象者が居住地の自治体が指定している検診施設へ受診するとした現状の場合をパターンA,対象者が都内全域の検診施設へ受診するとした相互利用化を想定した場合をパターンBとした.結果と考察:全対象者の24.2%が最近隣検診施設までの距離が2,908.9 mから1,640.5 mに短縮した.対象者全体で1人あたり307.4 m短縮した.対象者間の距離の不公平性を示すジニ係数はパターンAが0.383,パターンBが0.363であり,最近隣とする対象者数が多い上位3施設を除いては検診施設間の受診者の偏在性を示す標準偏差,ジニ係数に大きな違いは認められなかった.結論:乳がん検診において自治体が検診施設の相互利用協定を締結して検診施設が相互利用化された場合,対象者の検診施設までの距離の短縮,対象者間の検診施設までの距離の公平性の保持,検診施設間の受診者の偏在は現状以上には起こらないことが示唆された.
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