中国は世界において食道がんの罹患率と死亡率が最も高い国であり,その中でも河北省南部の磁県,渉県の罹患率は中国の平均レベルの5倍,全世界の平均レベルの10倍である.
河北省南部地域における食道がんの罹患率を下げるため,1970年代から多発区では検診などで拉網細胞学検査(esophageal abrasive balloon cytology),胃液潜血反応検査(金属球検査方法(stomach occult blood test by a metal tube)など),内視鏡下のヨード染色法などを行ってきた.50年近く経過した現在は,罹患率と死亡率が明らかに下がっている.
【研究における3つのテーマ】
1. 中国の食道がんの発がんの地域差
2. 検診データ収集
3. 発がん予防策,治療の現状
【見通し】
1. 中国の経済発展とともに,中国政府は検診にかける費用が増加していく
2. 多発区の大衆は予防の意識を強め,検診者数が多くなっていく
3. 早期発見,早期治療が徹底されるようになり,多発区の食道がんの罹患率と死亡率が大幅に下がっていくと思われる
未来投資戦略等に基づき,個人・患者本位で,最適な健康管理・診療・ケアを提供するための基盤として,医療情報連携のためのネットワークを全国展開し,初診時等に本人の同意の下で患者の基本的な情報が医療機関,薬局等で共有できるよう,2020年度から稼働を目指している.
医療機関,薬局等の保健医療従事者間の連携を一層推進するためには,共有することが有効なデータ項目を整理し,これらのデータ項目について,標準規格の実装を促進することや,有効なデータ項目でありながら,標準規格が策定されていないものは,標準規格の策定を促進することが重要である.
また,各地域の医療情報連携ネットワークの構成は様々であり,患者を中心に,病院,診療所,薬局等のデータが双方向で共有できるネットワーク構成が重要と考える.さらに,ネットワークが持続可能かつ拡張性のあるネットワークである必要がある.
現在,医療等情報連携基盤検討会において,有識者や関係者のご意見をうかがいながら,今年の夏を目途に工程表を整理すべく,議論を進めている.その際,費用負担に見合った便益を得られるサービスやネットワークをどのように構築していくか,が課題である.
今年度,調査・実証事業を行いながら,検討を進める予定である.保健医療記録共有サービスの実証事業では,医療機関,薬局等のレセプトデータ,電子カルテデータの一部を収集・保管し,閲覧できる試作システムを構築し,技術面・運用面の課題を提出する予定である.また,ネットワークのセキュリティ対策強化のための調査・実証事業では,関連技術調査等を行った上で,ネットワーク基盤の構成を検討し,セキュリティ要件やガイドラインの検討を行う予定である.
いずれにしても,医療等分野の情報連携基盤として,医療機関,薬局等にとってコスト負担に見合った便益のあるサービスやネットワークを構築し,患者・国民が実感できる具体的なメリットのあるサービスが展開できる基盤となるよう,検討を進めていく.
今や,ビッグデータという言葉を聞かない日がないくらいこの言葉は世の中に溢れ,情報関連の世界で最もホットなトピックスになっている.しかし,その多くは「一見,説得力があるように見えるが,具体性がなく明確な合意や定義のないキーワード」や「何だか凄そうだ(と感じられる)けれど,曖昧でよく分からない」(知恵蔵より)言葉,すなわちバズワードとして語られているようにも思われる.
ビッグデータの簡潔で正確な定義は,悉皆性と網羅性を満たし,統計的有意性やバイアスを気にする必要がない母集団に近いデータということであろう.とは言え,悉皆性や網羅性を厳密な条件とすると,現時点であてはまるデータは,それほど多くないと思われる.とりわけ,医療データではほとんどないと考えられる.
そのため,この企画セッションではビッグデータを,極めて大きなサンプルサイズのデータまたは極めて大きな次元を持つデータ,という少し曖昧な定義で考える.
そのように考えた時,医療に関係したビッグデータとしては,オミックス,医用画像,EMRといったカテゴリーが思い浮かぶ.医療情報学のこれらへの関わり方としては,データの収集・管理の方法,必要なインフラの構築,データの解析などが考えられ,既に多くの医療情報学分野の人が,実際のインフラ構築やデータの管理・抽出といった面で関わっていると思われる.しかしながら,それらは,本来何をどう解析するかが定まらない限り決まらないはずである.解析の方向性を決めるにあたっては,電子化された医療データに最も深く関わっており,そうしたデータの性質を最も良く知っているはずの医療情報学分野の人間がイニシアチブを取るべきではなかろうか.現状は果たしてそうなっているのであろうか.魅力的なデータ解析の分野が広がっているのに,見逃していないだろうか.
このような問題意識に基づき,このセッションではデータ解析の視点から,3つのカテゴリーについて関わりの深い3人の演者にパネラーとして,それぞれのカテゴリーについてその概要と課題について簡単に紹介してもらい,後半ではフロアからの質疑も交えて,現状や3カテゴリー間の関係も考えながら,今後の医療情報学とビッグデータの関わりかたの可能性を考えたい.
X線,超音波,内視鏡等の画像検査は臨床現場での重要な検査手段になっている.しかし画像検査により得られる生体内の情報を正しく理解して診断や治療に役立てるためには膨大な時間と労力が必要である.そこでわれわれは,画像診断に必要な部位,所見,診断などの概念で構造化し,語彙と語彙の関係を定義した知識ベースと,知識ベースに基づき構造化された診療録を有する症例データベースを構築し,それらを利用して効率的に画像診断を習得できるナビゲーターとシミュレーターを開発してきた.
これまで開発してきたシミュレーターは,初学者から上級者まで効率的に学習できるように,解答の選択肢を絞り込んだ基礎編と,検査画像から読み解く必要のある解答を広く知識ベースから選択する応用編で構成され,胸部単純X線では学習効果が確認されている.しかし腹部超音波や上部消化管内視鏡における応用編では,「基本所見」「追加所見」の組合せを正確に出題できないという問題があった.
今回は,腹部超音波や上部消化管内視鏡においても「基本所見」「追加所見」の組合せを正確に出題することのできる応用編を開発した.
クリニカルシーケンス技術が臨床医学領域で普及しつつある.その中でも,がんゲノムデータを用いた遺伝子異常の解析はがん発症メカニズムの解明と個別化医療の実現に重要な役割を担っている.しかしながら,現在,遺伝子変異を元に分子標的薬によるがん治療方針の判断を効率的に実施する手段は存在しない.そこで,本研究では,異なる遺伝子変異を持つがん患者コホートを変異頻度の高い特異的な遺伝子変異のパターンでクラスターに分類することで,分子標的薬の効率的な選別を可能にする新規クラスタリング手法を開発した.約400のターゲットシーケンス遺伝子に加え,分子標的薬のターゲットになる治療効果が期待される遺伝子でのクラスタリングを実施した.その結果,APCやKRASなど大腸がんに特徴的な変異遺伝子をもつクラスターを分けることに成功した.また,日米での承認薬のターゲット遺伝子に注目したクラスタリング結果の比較から分子標的薬を中心とした治療方針決定にとって最新のがんゲノム知識ベースの必要性が確認された.