医療情報学
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40 巻, 6 号
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巻頭言
原著-研究
  • 佐藤 杏莉, 狩野 佑介, 朴 龍勲, 下西 健太, 上田 秀明, 杉山 真哉
    原稿種別: 原著-研究
    2021 年 40 巻 6 号 p. 295-307
    発行日: 2021/03/17
    公開日: 2022/04/12
    ジャーナル フリー

     病院内に蓄積された診療データを利用することで,患者状態の急変や治療による副作用の発生といった診療イベントの予測を行う診療意思決定支援(Clinical Decision Support;CDS)を実現することが期待されている.本研究では,小児循環器領域において診療イベントを予測する機械学習モデルおよび予測結果を根拠と共に提供する診療意思決定支援システムを構築し,その臨床的有用性を評価した.機械学習モデルには,バイタルサインなどの時系列データからウィンドウ処理および統計量算出によって抽出した65種類の特徴量を用いた.先天性心疾患で入院した475人の患者のデータを用いて,モデルの構築および評価を行った結果,予測精度はAUC=0.88であった.さらに,予測モデルを組み込んだ診療意思決定支援システムを開発し,院内の電子カルテおよびPACSに接続して診療イベントの予測の前向き評価および予測結果の表示を行った.前向き評価での予測精度はAUC=0.76であった.3名の小児循環器科医による評価の結果,診療判断の前倒しや時間短縮などの臨床的有用性が示された.

  • 横関 恵美子, 池本 有里, 細川 康輝, 児島 知樹, 木田 菊惠, 橋本 俊顕, 岩本 優子, 中野 顕作, 山本 耕司
    原稿種別: 原著-研究
    2021 年 40 巻 6 号 p. 309-318
    発行日: 2021/03/17
    公開日: 2022/04/12
    ジャーナル フリー

     顔には表情筋と呼ばれる筋肉があり,それらの動きによって表情が造られる.本研究は,表情の変化がわかりにくい重症心身障害児者(以下,重症児者)のストレス時に動く表情筋によって構成される表情を明らかにすることを目的とする.方法は,重症児者の日常生活を定点観測し,心拍変動および表情筋の動きを感知することによって数値データとして収集した.不安や苦痛などで交感神経系のはたらきが活発になり,心拍数が増加する変化を手掛かりに,重症児者の状況と表情筋変化に着目し,それらの観測データを統計学的に分析した.1症例(大島分類1)のストレスと考えられた3場面を重回帰分析し,表情筋の動きのうち共通する説明変数は「閉眼」するであり,ストレスの程度が強いときには「眉の外側を上げる」動きが有意であった.表情の変化が微細であり,肉眼では捉えにくい重症児者の表情変化について,視覚化できる可能性が示唆された.

原著-技術
  • 久保 慎一郎, 野田 龍也, 西岡 祐一, 明神 大也, 中西 康裕, 降籏 志おり, 東野 恒之, 今村 知明
    原稿種別: 原著-技術
    2021 年 40 巻 6 号 p. 319-335
    発行日: 2021/03/17
    公開日: 2022/04/12
    ジャーナル フリー

     【目的】レセプト情報・特定健診等情報データベース(以下,NDB)とは,日本の保険診療の悉皆データである.NDBには,死亡した患者のレセプトの「転帰区分」に死亡フラグが付与されるが,医療機関の付与忘れや付与間違い等によってすべての患者が正確とはいえなかった.診療行為や薬剤等から死亡を推定することで死亡転帰の有効性を高め,死亡追跡と術後予後の評価を行った.

     【方法】本研究は,医療計画策定に係る評価指標作成の一環として行った.4年分の奈良県KDBレセプトと3年分のNDBレセプトを用いた.KDBの保険者マスターに記載されている死亡転帰を教師データとし,KDBの死亡転帰の正解率や必要となる決定木の診療行為を洗い出した.分析にはR言語による決定木分析を用いた.その仕組みを用いてNDBでも検証し,その有効性を検証した.死亡数を人口統計と比較した.外科手術と内科治療で代表的な胃全摘術と経皮的冠動脈ステント留置術を行った患者に対して死亡割合とSMRを算出した.死亡情報は精度を高めたNDBの死亡転帰を用いた.

     【結果】この死亡ロジックの陽性的中率は96.2%であった.死亡を決定づける診療行為として上位に挙がったのは「看取り加算」,「呼吸心拍監視」,「酸素吸入」であった.感度は92.9%,特異度が99.7%であった.このロジックを3年分のNDBに適用し,同様の傾向を確認した.2015年度の胃全摘術患者の1年後の死亡割合は40歳以上で(15.9%,16.4%;男,女),死亡統計の死亡率から手術1年後の死亡割合を除算した期待死亡割合は(13.7%,14.4%),SMRは(473,865)であった.

     【結論】胃全摘術の患者は,ステント留置術患者に比べ80歳以上の超過死亡が多く,胃全摘の80歳以上の患者の超過死亡低下が示唆された.KDBを教師データとしてNDBの死亡フラグを策定した.現状ではそのすべての死亡を完全に追うことはできないが,死亡したアウトカムを正確に付与できればNDBで日本のコホート研究が大きく前進する.

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