医学検査
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67 巻, 4 号
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原著
  • 梅澤 敬, 梅森 宮加, 堀口 絢奈, 土屋 幸子, 春間 節子, 沢辺 元司, 九十九 葉子, 池上 雅博
    原稿種別: 原著
    2018 年 67 巻 4 号 p. 421-429
    発行日: 2018/07/25
    公開日: 2018/07/28
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    液状化細胞診法による唾液腺腫瘍に対する穿刺吸引細胞診の標準化を目的に,BDサイトリッチTM法の診断精度について検討した。2010年1月~2016年3月の520検体(従来法:312検体,BDサイトリッチTM法:208検体)を対象とした。従来法は直接塗抹法,液状化細胞診法はBDサイトリッチTM法により標本を作製した。両法のNondiagnosis(ND)の要因および標本所見を比較するとともに,両法の診断精度を統計学的に分析した。NDは,BDサイトリッチTM法(12.0%)が従来法(35.3%)に比べ有意に少なかった(p < 0.001)。BDサイトリッチTM法において,標本作製時のtechnical errorはなかった。BDサイトリッチTM法の特異度(92.4%),診断精度(91.7%)および陽性的中率(76.2%)は従来法に比べ有意に高かった(p < 0.001)。BDサイトリッチTM法は,標準化された標本作製手順によりクオリティーの高い標本が作製できることから,唾液腺腫瘍穿刺吸引細胞診の診断精度向上に寄与すると考えられた。

  • 及川 加奈, 舟橋 恵二, 魚住 佑樹, 河内 誠, 野田 由美子, 岩田 泰, 西村 直子, 尾崎 隆男
    原稿種別: 原著
    2018 年 67 巻 4 号 p. 430-436
    発行日: 2018/07/25
    公開日: 2018/07/28
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    2016年1月~12月の1年間に,当院小児科において318例(29日~12歳9か月,中央値3歳0か月)からHaemophilus influenzae 318株が分離された。分離株の莢膜血清型,β-lactamase産生および13種抗菌薬(ABPC, PIPC, CTX, CTRX, CDTR, CFTM, AMPC/CVA, PAPM, MEPM, CAM, AZM, TFLX, LVFX)のMICを測定し,われわれが行った過去3回(1999年,2005年,2009年)の調査成績と比較した。莢膜血清型はNT 97.8%,e型1.9%,b型0.3%であり,NTの分離率はこれまでの4回の調査の中で最も高く,b型は最も低かった。ABPC,CTX,AMPC/CVA,MEPM,CAM,AZMに対し,それぞれ74.8%,0.9%,55.7%,5.3%,25.8%,1.6%が耐性(中間を含む)を示し,CTRXおよびLVFXに耐性の株はなかった。ABPC耐性株の内訳はBLNAR 64.5%,BLPAR 6.6%,BLPACR 3.8%であり,BLNAR率の上昇傾向を認めた。わが国では2013年4月からHibワクチンが定期接種となっており,H. influenzaeの莢膜血清型と薬剤感受性の今後の動向を注視していく必要がある。

  • 大久保 学, 古川 聡子, 木村 千紘, 河口 勝憲, 通山 薫
    原稿種別: 原著
    2018 年 67 巻 4 号 p. 437-442
    発行日: 2018/07/25
    公開日: 2018/07/28
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    分析に用いる測定容器および保存容器がプロカルシトニン(procalcitonin; PCT)の測定値に与える影響を評価した。採血管の影響は認められなかった(p = 0.92)。検体をA社サンプルカップおよびB社サンプルチューブに移し替えて測定したPCT値は,採血管から直接サンプリングして測定したPCT濃度に比べて,5.6 ± 2.9%,3.8 ± 2.0%低下,2回目の移し替えでは7.4 ± 3.5%,11.0 ± 4.6%の低下が認められた。B社サンプルチューブに分注した後の時間の影響は,分注直後の0分後と2時間後のPCT低下率には有意な差は認められなかった(4.8 ± 2.7% vs 4.3 ± 4.6%, p = 0.61)。血清とB社サンプルチューブの接触する面積の影響は,接触する面積が7.3 cm2と21.1 cm2のPCT濃度はそれぞれ5.0 ± 3.7%,9.5 ± 5.2%低下した。保存容器であるC社,D社,およびE社保存チューブに移し替えたPCT濃度は6.9 ± 1.9%,6.7 ± 2.8%,4.2 ± 2.9%,2回目の移し替えでは,13.8 ± 3.3%,14.0 ± 4.1%,12.9 ± 3.2%,3回目の移し替えでは21.6 ± 2.3%,21.7 ± 4.8%,20.1 ± 3.0%の低下が認められた。よって,複数回の移し替えによるPCTの偽低値には注意が必要である。

技術論文
  • 臼井 哲也, 南 惣一郎, 賀来 敬仁, 栁原 克紀
    原稿種別: 技術論文
    2018 年 67 巻 4 号 p. 443-450
    発行日: 2018/07/25
    公開日: 2018/07/28
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    患者への速やかな治療の開始と患者への負担低減などの観点から診療前検査が普及している。今回検体の採取から結果報告までの迅速化の可能性を検討するために,測定時間が10分という自動化学発光酵素免疫分析装置Accuraseedを用いてTSH,FT4,FT3の基礎的検討を行った。また本装置とルーチン法のモジュラーおよびARCHITECT,ルミパルスの3機種の装置を用いて迅速性に関する比較検討を行ったので報告する。甲状腺3項目の基礎的検討として,再現性(同時,日差),相関性,最小検出感度,直線性,共存物質の影響について検討を行った。その結果,ルーチン法との相関性において本法での低値傾向および乖離検体(1例)が認められたが,それ以外の同時再現性,最小検出感度等他の検討の全てにおいて,良好な結果が得られた。なおFT3において発生した乖離検体1例についてはPEG処理による測定値挙動から異好性抗体等血清成分の影響を本法が受けている可能性が考えられた。また迅速性の検討において,5検体(3項目測定‍/検体)を架設した検体ラックを分析機に投入してから検体ラック排出までの時間について本装置とモジュラー,ARCHITECTおよびルミパルスについて測定を行った。その結果ARCHITECTが約5分,本装置は約7分であった。5検体分(15テスト)の結果報告時間は,本装置では15分で,モジュラー,ARCHITECTおよびルミパルスは各々27分,33分,37分となり,本装置を用いることでTATの短縮化の可能性が示唆された。

  • 松浦 成美, 佐伯 裕二, 梅木 一美, 武田 展幸, 山田 明輝, 山本 成郎, 高城 一郎, 岡山 昭彦
    原稿種別: 技術論文
    2018 年 67 巻 4 号 p. 451-455
    発行日: 2018/07/25
    公開日: 2018/07/28
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    Clostridium difficile(CD)は抗菌薬投与などにより引き起こされる抗菌薬関連下痢症の原因菌であり,接触感染により伝播するため院内感染対策が必要である。当院では,患者糞便検体からのトキシン産生CD検出のためC. DIFF QUIK CHEK COMPLETE®(アーリアメディカル)(以下QUIK CHEKと略す)を用いて一次検査を行っている。QUIK CHEKでグルタミン酸デヒドロゲナーゼ(GDH)(+)・CDトキシン(−)の検体は培養を行い,得られたコロニーで再度QUIK CHEKによる検査を実施し最終報告を行っているが,培養には2日を要する。この問題を解決するために,CDトキシン遺伝子を検出するBDマックスCDIFF®(日本BD)の有用性を検討した。CD菌株を用いたBDマックスCDIFF®によるCDトキシン遺伝子の検出感度は,QUIK CHEKによるGDHと同等もしくはそれ以上であった。さらに,当院でCDトキシン検査の依頼があった38検体を用いて検査を行った。その結果,GDH(+)・CDトキシン(−)であった24検体のうち22検体は,培養法とBDマックスCDIFF®によるCDトキシン遺伝子の結果が一致し,ほぼ同等の結果が得られた。以上のことより,BDマックスCDIFF®は結果が90分と短時間で得られ,高感度かつ迅速なCDトキシン検査法として役立つものとして期待される。

  • 宮﨑 博之, 芝尾 真由美, 中尾 友也, 早川 聡紀, 岡村 隆行, 齊藤 孝子
    原稿種別: 技術論文
    2018 年 67 巻 4 号 p. 456-461
    発行日: 2018/07/25
    公開日: 2018/07/28
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    LAMP法を用いたマイコプラズマ肺炎の遺伝子検査で使用するQIAamp DNA mini kit(Qiagen)(QIAGEN法)は手技が煩雑で時間を要する。より簡易でDNA抽出までの時間が短縮できるLoopamp PURE DNA抽出キット(栄研化学)(PURE法)を採用すれば作業効率の改善が望めると考え,この2法の比較検討を行った。本検討では,マイコプラズマ感染を強く疑う小児患者27名を対象に咽頭拭い液を材料とし,QIAGEN法,PURE法で抽出されたDNAを使用し,Loopamp®マイコプラズマP検出試薬キットで測定を行い,陽性一致率,陰性一致率,全体一致率を算出した。また,QIAGEN法,PURE法,それぞれのDNA抽出時間の比較を行った。その結果,QIAGEN法,PURE法,ともに14例が陽性,13例が陰性であり,100%一致し,PURE法はQIAGEN法に比べDNA抽出時間が大幅に短縮できた。新しいDNA抽出法であるPURE法を採用することにより,臨床側へ迅速な結果報告が可能となり,小児科における治療や治療効果判定に有意義と考えられた。

  • 長田 剛, 村尾 敏, 齊藤 弘子, 厚井 文一
    原稿種別: 技術論文
    2018 年 67 巻 4 号 p. 462-468
    発行日: 2018/07/25
    公開日: 2018/07/28
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    インスリン自己注射を行う際には適切な手技で皮下組織に薬剤を到達させる必要があり,不適切な注射手技により皮下硬結が生じた場合には,インスリンの吸収の変化により血糖管理に悪影響を及ぼす可能性がある。皮下組織の異常を把握するためには,視診や触診で皮下出血や皮下硬結を確認していることが多く,超音波検査(ultrasonography; US)で皮下組織の評価を行うことは少ない。今回我々は,USでインスリン療法患者の皮膚・皮下組織の評価を行いUS所見の傾向を知るとともに,USがインスリン注射手技の評価などに活用できるかを目的として検討を行った。対象は2013年11月から2016年12月に,USで皮膚・皮下組織の評価を行ったインスリン療法患者35例とした。硬結触知や皮膚色調変化を呈する注射部位のUS所見は対照側と比較して皮膚層が有意に厚く,皮膚層および皮下脂肪層のエコー輝度が有意に低い値を示し,皮膚層と皮下脂肪層の境界の不明瞭化や皮下脂肪層の層構造の消失を認めた。従来の視診や触診と比較し,USでは広範囲を効率よく観察することが可能であり,皮膚・皮下組織の変化部位を視覚的に認識できることから,より客観的な評価が可能となる。さらには,注射手技の是正や注射部位のローテーションなどの患者指導に応用することで,良好な血糖管理に寄与できる可能性がある。

  • 西尾 美津留, 宮木 祐輝, 小川 有里子, 大杉 崇人
    原稿種別: 技術論文
    2018 年 67 巻 4 号 p. 469-474
    発行日: 2018/07/25
    公開日: 2018/07/28
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    糞便中Clostridium difficile Toxin(CD Toxin),GDH抗原の同時検出試薬であるC. DIFF QUIK CHEKコンプリート(QUIK CHEK)とGEテストイムノクロマト-CD GDH/TOX「ニッスイ」(GEテスト)の有用性を比較検討した。CD Toxin検出において,Toxigenic cultureを対照とした場合のsensitivity,specificityは,QUIK CHEK 41.9%,100%,GEテスト48.8%,100%であり,GEテストはQUIK CHEKよりsensitivityが6.9%高かった。GDH抗原検出においては,分離培養法を対象とした場合のsensitivity,specificityは,QUIK CHEK 90.2%,99.0%,GEテスト94.1%,95.2%であり,sensitivityはGEテストの方が優れた結果となった。またC. difficile臨床分離株を用いた希釈菌液によるGDH抗原検出感度の比較試験においてもGEテストの方が優れた結果となった。しかし一方で,GDH抗原検出におけるGEテストのspecificityはQUIK CHEKに比べて低く,何らかの交差反応が起きている可能性が推察された。GEテストはQUIK CHEKに比べ,CD Toxin,GDH抗原検出のsensitivityが高く,CDI診断におけるスクリーニング検査試薬として有用性が高いことが明らかになったが,GDH抗原検出においては精度向上に向けた改良の必要性があると考える。

  • 髙木 豊, 小河原 佳奈, 田村 祥子, 渡辺 敬志, 中島 由美子, 森本 進, 岸 恵, 勝部 康弘
    原稿種別: 技術論文
    2018 年 67 巻 4 号 p. 475-481
    発行日: 2018/07/25
    公開日: 2018/07/28
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    フィブリノゲンは主要な血漿蛋白であり,その減少はDICや血栓症などの危険因子となる。一方,炎症性疾患や悪性腫瘍などで増加するため,急性期反応物質としても測定されている。血液凝固検査では患者の血漿と試薬の混合で起こる凝固カスケード反応において,トロンビンにより切断されたフィブリノゲンが次々と重合しフィブリンポリマーの分子量が逐次増大する。光散乱は測定波長に対する粒子径や分子量の大きさにより散乱角度や強度が決まり,その増大は散乱光強度変化で計測できる。そのため,血液凝固反応過程を光散乱強度変化により計測することが可能となる.この反応過程の終末点の散乱光強度はフィブリノゲン濃度を表すので,この方法はPT-drived法としてのフィブリノゲン濃度の測定に使用されている。しかし,凝固の終わり付近の散乱光はゆっくりと増加し上下変化するので,凝固終了時の正確な散乱光強度を測定することは困難である。我々は血液凝固自動分析装置CP3000のS状のシグモイド曲線を示す凝固反応プロファイルをGompertz成長曲線で近似し,数理法によるフィブリノゲン濃度の推測を試みた。PT,APTTにおける本法とClauss法によるフィブリノゲン濃度を比較したところ,相関係数は0.962以上であった。よって我々は本法にてフィブリノゲン濃度が推定できると考えた。

  • 青野 実, 野﨑 直彦, 大久保 一郎, 後藤 寛
    原稿種別: 技術論文
    2018 年 67 巻 4 号 p. 482-491
    発行日: 2018/07/25
    公開日: 2018/07/28
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    我が国のインフルエンザ感染症の流行状況を把握するには,感染症発生動向調査による感染症サーベイランスシステム(national epidemiological surveillance of infectious disease; NESID)が主に利用されている。NESIDには,定点医療機関から報告される定点当たりの患者報告数(以下,患者報告数)や各種学校からインフルエンザ・インフルエンザ様疾患の罹患状況を把握するためのインフルエンザ施設別発生状況(以下,学級閉鎖等)の仕組みがある。今回,筆者らは,学級閉鎖等の情報を自作した登録システムで電子化して,横浜市が構築している地図情報システム(geographic information system; GIS)の‘よこはまっぷ’への掲載とESRI社製ArcGISを用いた横浜市立小学校の学区域を利用したインフルエンザ感染症のGISを試作し,若干の知見を得たので報告する。なお,‘よこはまっぷ’には,登録システム以外に,定点医療機関や保育所からの情報についても掲載の仕組みを試作した。ArcGISの利用では,学級閉鎖等の地図情報と患者報告数のグラフを併記することで,一元的な流行状況の可視化についても考察した。

  • 西原 佑昇, 塩崎 尚子, 村瀬 幸生, 川端 健二
    原稿種別: 技術論文
    2018 年 67 巻 4 号 p. 492-496
    発行日: 2018/07/25
    公開日: 2018/07/28
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    成熟好中球におけるアルカリフォスファターゼ活性は,慢性骨髄性白血病や夜間発作性血色素尿症で低下することが知られている。また,その他の血液疾患でも変動がみられるため,アルカリフォスファターゼ活性の程度をスコア化した値であるneutrophil alkaline phosphatase(NAP)スコアは,各種血液疾患の鑑別のために日常的に実施される検査である。検査方法は,薄層塗抹標本にNAP染色を施した後,成熟好中球を観察し,陽性指数を計算するのみである。しかしスコアの算定は,当院では担当技師による計算に任せられるため,数値誤入力による単純計算ミスのリスクが常に伴うことが課題であった。そこで,Excelの標準機能であるVisual Basic for Applications(VBA)を用いて,好中球のNAP活性度分類と同時にNAPスコアおよびNAP陽性率の算出を自動で行う専用システムを開発した。これにより好中球分類作業が容易となるだけでなく,計算ミスのリスク回避,そして計算値の二重チェックにかかる手間も省略できる。またシステム開発費はかかっておらず,費用対効果は申し分ないといえる。本システムは,当院のようにNAPスコア算定業務の改善を図りたい施設にとって,作業効率および費用対効果の面で有用であると考える。

  • 橋倉 悠輝, 梅木 一美, 猪﨑 みさき, 山田 明輝, 髙木 覚, 明利 美里, 山本 成郎, 岡山 昭彦
    原稿種別: 技術論文
    2018 年 67 巻 4 号 p. 497-502
    発行日: 2018/07/25
    公開日: 2018/07/28
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    HTLV-1抗体とHTLV-2抗体の同時測定および検出感度と特異度の改良のために開発されたルミパルスHTLV-I/II(富士レビオ)について評価を行った。ルミパルスHTLV-I/IIの同時・日差再現性はいずれも変動係数が4%以内と良好な結果が得られた。HTLV抗体陰性およびHTLV-1抗体陽性およびHTLV-2抗体陽性のパネル検体を測定した結果,データシートと完全に一致し高い特異性が確認された。また,陽性検体の希釈系列で調べた測定感度もルミパルスHTLV-I(従来試薬)に比較して8~16倍高い結果であった。臨床検体199検体を用いてルミパルスHTLV-I/IIと従来試薬を比較したところ,2例が不一致を示した。この2例をウエスタンブロット法とNested-PCR法で確認したところ2例とも陰性と判定され,ルミパルスHTLV-I/IIの結果と一致した。これらの結果より標識抗原を用いたルミパルスHTLV-I/IIは従来試薬と比較し,検出感度および特異度に優れたHTLV抗体スクリーニング検査であることが示された。

  • 山口 直則, 松居 由香, 岡山 徳成, 岸本 光夫
    原稿種別: 技術論文
    2018 年 67 巻 4 号 p. 503-511
    発行日: 2018/07/25
    公開日: 2018/07/28
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    RAS遺伝子変異検査は大腸癌治療における分子標的薬の使用適否や治療法の選択上,極めて重要である。その遺伝子変異検査には体外診断用医薬品を用いるなど分析的妥当性が確認された検査法を用いることが推奨されているが,導入経費や運用コスト,検査所要時間等,改善すべき課題や問題が存在するのも事実である。今回,遺伝子解析装置i-densy IS-5320(アークレイ)を用いてRAS(KRAS/NRAS)変異測定系の構築を行いIVD試薬であるRASKET(MBL)と比較検討を行ったので報告する。当院21例の大腸癌を対象とし,遺伝子検査専用のパラフィン包埋ブロックを作製後,KRASエクソン2,3,4とNRASエクソン2,3変異検査を実施した。結果,RAS変異の有無ならびに変異領域すべてにおいてRASKETと一致した。変異頻度が低いマイナー変異においても良好な結果であった。マルチタイプ試薬を用いた本系の測定時間は120分以内と短時間であり,1個の試薬パックに集約化することで効率化を実現し,操作工程も簡素化が実践できた。加えてBRAF遺伝子変異検査が同時測定可能であることから大腸癌における抗EGFR抗体薬の無効予測因子の網羅率が向上した。分析的妥当性においてもIVD法と同様に遜色のない測定法であることが示唆され,院内遺伝子検査において十分に利用可能であり,有用性が高い測定系と考えられた。

  • 半田 憲誉, 畠口 佳冴, 矢ヶ崎 絵美, 中島 優季, 金井 和紀, 小澤 俊之
    原稿種別: 技術論文
    2018 年 67 巻 4 号 p. 512-518
    発行日: 2018/07/25
    公開日: 2018/07/28
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    カリウム(K)は心臓の収縮や伝導系,神経や平滑筋の活動に関わる陽イオンで,生体のホメオスタシスにおいて重要な役割を果たしている。溶血検体では偽高値を生じるため,正確な血清K値を得るためには再採血が望ましい。しかし採血困難,採血時間の指定など再採血ができないケースも存在する。そのため溶血の強さとKの変動幅に一定の関連性が認められれば溶血の影響を考慮した本来の値を推察できると考え,本検討を行った。まず患者50名のヘパリン血検体を対象とし溶血再現試料(hemolysis reproduction reagent)を作製した。これを生理食塩水とプール血清と混ぜ,ヘモグロビン濃度が0,100,200,300,400,500 mg/dLの溶血試料を作製した。この溶血試料を対象にhemolysis index,血清K値の測定を行い,溶血の強さと血清K値の上昇幅および上昇率との関連性を調べた。これらの結果から2つの血清K補正式,Equation 4およびEquation 5を作成した。次に溶血により再採血が行われた患者40名の血清を対象に補正式の検証試験を行った。その結果,Equation 4では非溶血検体の血清K値と溶血検体の補正K値の平均誤差が約0.5 mmol/Lとなり,その性能は不十分であると考えられた。一方Equation 5では平均誤差が約0.3 mmol/Lとなり,Equation 5を利用することで溶血検体でも本来の血清K値が推測可能であると考えられた。

  • 川西 なみ紀, 則松 良明, 入野 了士
    原稿種別: 技術論文
    2018 年 67 巻 4 号 p. 519-523
    発行日: 2018/07/25
    公開日: 2018/07/28
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    LBC法の一つであるBDシュアパス(シュアパス-LBC)法は3種類(婦人科用;Gyne,非婦人科用;Red,Blue)の保存液があり,成分がそれぞれ異なっているため,免疫細胞化学染色(免疫染色)において,抗原保持能力の差異が予測される。シュアパス-LBC標本を用いた免疫染色の適正な運用のためにも,各保存液での経時的な抗原保持能力を明らかにすることとした。方法は肺腺癌での胸水4症例の細胞沈渣を用い,それぞれの固定保存期間(1時間,1週間,1ヶ月,3ヶ月)終了後,核内発現する4種類の抗体(Ki67, p53, Cyclin A, MCM7)での免疫染色を実施し,陽性率および1時間を基準とした相対比率を算出した。その結果,次のことが明らかになった。①各保存液での各抗体において,経時に従い陽性率の減少を認めるものの,一定の相関や傾向を認めなかった。②各保存液は成分が異なるにもかかわらず,経時による抗原保持能力に明らかな差異を認めなかった。③抗体の種類によっては保存期間1週間ですでに3割もの陽性率の低下をみとめ,陽性率の判定結果が正確でなくなる可能性が示唆された。④今後,使用するマーカーの種類や細胞保存方法・期間等,さらなる諸条件の追加検討が必要である。

  • 入村 健児, 河原 菜摘, 内村 智香子, 溝口 義浩, 緒方 昌倫
    原稿種別: 技術論文
    2018 年 67 巻 4 号 p. 524-528
    発行日: 2018/07/25
    公開日: 2018/07/28
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    赤痢アメーバ(Entamoeba histolytica)の検査は,直接塗抹法やヨード法が一般的である。今回我々は,過ヨウ素酸シッフ染色(Periodic acid-Schiff;PAS染色),メイ・グリュンワルド・ギムザ二重染色(May-Grünwald Giemsa;MG染色),パパニコロウ染色(Papanicolaou;Pap染色),ヘマトキシリン・エオジン染色(Hematoxylin Eosin;HE染色)を赤痢アメーバ感染症3症例で行った。核染色に優れたMG染色,Pap染色,HE染色は栄養型(trophozoite)の核小体や染色質顆粒,嚢子(cyst),類染色質体の観察に有用であった。また,内質における赤血球の確認も可能であった。肝膿瘍の穿刺液では,PAS染色で赤紫色に染まる栄養型を確認できた。これらの染色は,赤痢アメーバ検査に有用であった。

資料
  • 渡邉 真子, 永井 佐代子, 白井 良雄, 吉田 菜穂子
    原稿種別: 資料
    2018 年 67 巻 4 号 p. 529-534
    発行日: 2018/07/25
    公開日: 2018/07/28
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    当院での過去10年間における非チフス性サルモネラの分離状況,分離菌の血清型,薬剤感受性について集計した。2007年1月から2016年10月に培養検査を目的に提出された糞便と血液から分離されたサルモネラ42株を対象とした。42株のうち,血清型は,O4群20株(47.6%),O9群15株(35.7%),O7群4株(9.5%),O8群1株,O3, O10群1株,O21群1株であった。H抗原を検査した29株では,H抗原G, mのSalmonella serovar Enteritidisが9株,H抗原G, m, sのSalmonella serovar Hatoが4株,H抗原G, f, sのSalmonella serovar Agonaが1株であった。薬剤感受性では,1剤耐性株(ST)が2株,2剤耐性株(MINO・ST,ABPC・MINO)が2株,3剤耐性株(ABPC・CTX・LVFX)が1株であった。3剤耐性株は2016年に分離され,LVFXのMICは2 μg/mLであった。近年非チフス性サルモネラ感染症の疫学動向は変化しており,地域における血清型・薬剤感受性などの動向を注意深く監視,把握することが重要と考える。

  • 佐藤 貴美, 豊川 真弘, 勝見 真琴, 羽島 房子, 石戸谷 真帆, 千葉 美紀子, 平田 和成, 藤巻 慎一
    原稿種別: 資料
    2018 年 67 巻 4 号 p. 535-540
    発行日: 2018/07/25
    公開日: 2018/07/28
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    感染症診断や医療関連感染にとって細菌検査は重要な役割を果たしている。敗血症は早期治療が不可欠であり,治療の遅れは予後不良に大きく影響することから,細菌検査結果を早急に提供することが求められる。また,Clostridium difficile感染症(CDI)などの接触感染対策が求められる病原体においては,迅速さに加え,精度の高い検査結果が要求される。しかしながら,細菌検査は標準化された検査法や判定法に乏しく,施設間差が生じやすい現状にある。今回われわれは,国公私立大学病院および技師会北日本支部所属の病院における細菌検査の現状アンケート調査を実施した。本調査成績は,今後の細菌検査の標準化や検査内容の改善において有益な資料となると考えられたため報告する。

  • 滝野 豊, 松村 隆弘, 二木 敏彦, 川端 絵美子, 星名 悠里, 本田 理沙, 油野 友二, 柴田 宏
    原稿種別: 資料
    2018 年 67 巻 4 号 p. 541-545
    発行日: 2018/07/25
    公開日: 2018/07/28
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    肝炎ウイルスやアルコール性肝炎,非アルコール性脂肪性肝疾患などによる慢性肝炎は線維化の過程を経て,将来的に肝硬変症を経て肝癌に至ることが知られている。肝線維化診断のゴールデンスタンダードは肝生検であるが,侵襲的な検査であることから血液成分であるヒアルロン酸やIV型コラーゲン,および生理学的な検査法が利用されている。新しい肝線維化マーカーとしてMac-2 binding protein glycosylation isomer(M2BPGi)が保険適応された。ヒアルロン酸は食事の影響を受けやすいことが知られているが,M2BPGiについての食事の影響は調査されていない。今回,M2BPGiの食事の影響を血中ヒアルロン酸値とIV型コラーゲン値の変動と比較した。ヒアルロン酸のみが食事摂取1・2時間後に食前と比べ有意に測定値が上昇した。M2BPGi値とIV型コラーゲン値は食事の影響を受けなかった。このことから,M2BPGi値測定は随時採血の検査においても正しい評価ができると考えられた。

  • 楠木 晃三, 米田 登志男
    原稿種別: 資料
    2018 年 67 巻 4 号 p. 546-553
    発行日: 2018/07/25
    公開日: 2018/07/28
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    外来診療の効率化には,診察予約時間までに必要とされる検査結果が揃っていて予定通りに診察ができることが重要と考える。それを実現するために,平成28年4月に診察予約時間など診療内容を優先した採血システムを構築した。今回,採血システムを稼働し1年半が経過したことから,平成29年9月に採血を行った7,185名を対象として採血待ち時間および所要時間の実態について解析を行った。採血システムの導入により,受付開始の7時30分から採血開始前の7時59分までに受付けた患者1,011名の内,9割以上が10時までの予約時間の早い患者であったことから,患者が診察予約時間を意識して採血の受付をするようになったと考えられる。診療内容を優先した採血システムは,採血開始前に集中する患者を少なくすることができ,採血受付から結果報告まで概ね1時間以内の報告が可能となった。

  • 佐々木 彩, 松本 淳子, 竹平 歩美, 林田 理沙, 森崎 敬祐, 山口 朋未, 西山 博, 藤原 謙太
    原稿種別: 資料
    2018 年 67 巻 4 号 p. 554-557
    発行日: 2018/07/25
    公開日: 2018/07/28
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    後天性血友病AはAPTT延長を契機に見出されることが多いが,今回我々は生理検査室からの一報により診断に至った症例を経験した。症例は80歳代男性,他院より粟粒結核で当院へ転院し治療中であった。広範な皮下出血が出現しエコー検査を行ったが異常は無く,生理検査技師より相談を受けた。血小板数は正常範囲であり,主治医に凝固検査の提出を依頼した結果,APTT 110.6秒,クロスミキシングテストでは遅延型インヒビターパターンを示し,さらに第VIII因子活性が1%以下で,第VIII因子インヒビターも検出されたため,後天性血友病Aと診断された。しかし今回皮下出血をきたす1ヶ月前の検査でAPTT延長を認めており,その時点で精査をしていればさらに早期に発見できた可能性があった。そこで凝固異常症を見落とさないために,異常値を検査システムの画面上目立つようにし,複数人の技師が確認できるよう,改善を行った。本症例は検査部からの働きかけで後天性血友病Aと診断され,致死的な出血を回避し寛解に至ることができた。今後も検査部内で連携を図り,臨床に貢献できるよう努めていきたい。

  • 佐藤 恵, 池澤 剛
    原稿種別: 資料
    2018 年 67 巻 4 号 p. 558-562
    発行日: 2018/07/25
    公開日: 2018/07/28
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    子宮頸部細胞診のliquid based cytology(LBC)標本においてカンジダ症では,串刺し様集塊が観察されることが知られている。今回,Surepath法(日本ベクトン・ディッキンソン)を用いて作製した子宮頸部LBC標本において,この出現様式が特徴的な所見なのかカンジダ陽性標本と陰性標本で比較した。さらにカンジダ陽性LBC標本とカンジダ陽性直接塗抹標本で出現頻度に差があるのかについても検討した。「串刺し様集塊」はカンジダ陽性例において高頻度に認められた。直接塗抹標本では,LBC標本に比べて出現頻度は少なかった。LBC標本で有意差を認めた原因は,集細胞密度勾配法によると考える。この方法により,(+)荷電でコートされたスライドガラスと(−)荷電の表面をもつ精製水中の浮遊細胞が引き合い,細胞はガラスに塗抹されるため,串刺しのような立体的細胞集塊が出現すると考える。それに対して直接塗抹法では,綿棒などで子宮頸部を擦過し,ガラスに直接,細胞を塗抹するために細胞や菌糸が観察されると思われる。実際に串刺し現象をPAS染色,銀染色を用いて検証したが,串刺しになっている現象は確認できなかった。今回の検討結果より「串刺し様集塊」は,カンジダ症の子宮頸部LBC標本(Surepath法)で直接塗抹標本に比べ,高率に出現していた。この集塊を観察した場合,カンジダ症を念頭に置いて鏡検することが重要と考えられる。

  • 古川 聡子, 河口 勝憲, 岡崎 希美恵, 辻岡 貴之, 通山 薫, 佐々木 環
    原稿種別: 資料
    2018 年 67 巻 4 号 p. 563-568
    発行日: 2018/07/25
    公開日: 2018/07/28
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    2008年にクレアチニン(Cre)から算出した推算glomerular filtration rate: GFR(eGFRcre)が,2012年にはシスタチンC‍(Cys)から算出した推算GFR(eGFRcys)が公表され,推算GFRは臨床現場で簡便な腎機能の指標として活用されている。しかし,しばしばeGFRcreとeGFRcysが乖離する症例に遭遇する。そこで,今回eGFRcreとeGFRcysはどの程度一致するのか,また乖離症例にはどのような特徴があるのかを検証した。全症例(n = 226)での相関関係は回帰式y = 0.92x + 2.44,相関係数r = 0.868と良好な結果であったが,CKD重症度分類のGFR区分におけるeGFRcreとeGFRcysの一致率は55.8%と約半数であった。不一致例はeGFRcreと比較し,eGFRcysの区分が軽い症例と重い症例が同等に存在し,どちらか一方への偏りは認めなかった。さらにGFR区分が2段階以上異なる症例は8症例で全体の3.5%であった。eGFRcys/eGFRcre比の比較では,その比が最も1.00に近かった60歳代を基準とすると,若年では高く,高齢では低くなる傾向を認めた。また,eGFRcys/eGFRcre比は体表面積が大きいほど,血清アルブミンが高値なほど高くなる傾向を示し,高度蛋白尿では低値となった。腎機能評価においては,各推算式の特徴や乖離要因を把握した上で使用することが重要である。

症例報告
  • 塚田 彩実, 麻生 さくら, 小林 かおり, 手塚 貴文, 塚田 弘樹
    原稿種別: 症例報告
    2018 年 67 巻 4 号 p. 569-574
    発行日: 2018/07/25
    公開日: 2018/07/28
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    60歳代,男性。糖尿病にて内服治療中。当院受診2日前より心窩部痛出現し近医を受診,鎮痛剤を処方された。その後も症状の改善なく,全身状態不良で当院に紹介された。来院時,赤色尿を呈し,血液検査で貧血,凝固異常,T-Bil・AST・LDHの上昇を認め,高度な溶血が示唆された。腹部CT所見よりガス産生肝膿瘍と診断された。輸液,輸血,抗菌薬投与,外科的ドレナージなどの集学的治療を行ったが,溶血多臓器不全は急速に進行し,当院搬送から約12時間で永眠された。血液培養と腹水の培養からClostridium perfringensが検出された。本菌による敗血症では激しい溶血を併発することがあり,一旦溶血を発症した場合の致死率は極めて高く早期診断が重要である。早期診断・治療のためには,ガス産生肝膿瘍が疑われた早い時点で検体からグラム染色を実施し,グラム陽性桿菌を証明することが有用であると思われた。

  • 井上 健司, 中島 瑞枝, 増永 晴子, 谷垣 直子, 鳩山 宜伸, 永汐 華, 馬場 威, 野原 正信
    原稿種別: 症例報告
    2018 年 67 巻 4 号 p. 575-579
    発行日: 2018/07/25
    公開日: 2018/07/28
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    患者は糖尿病の家族歴を有する40歳代女性で,前医で糖尿病と診断され,治療のため当院を受診した。紹介状に添付されたラテックス凝集法(LA法)によるヘモグロビンA1c(HbA1c)値は10.0%と高値であったが,当検査科のHLC-723 G8(東ソー)(以下,G8)では5.5%と大きく乖離した。G8の測定原理はイオン交換HPLC法である。そこで東ソーにイオン交換HPLCの精密分析とアフィニティHPLC法によるHbA1c値の測定を依頼した。イオン交換HPLCの精密分析では異常ヘモグロビンを示唆する異常ピークを認め,アフィニティHPLC法でのHbA1c値は8.8%であった。福山臨床検査センターでのβ-グロビン遺伝子シーケンシングでは〔Codon 22 GAA (Glu)→AAA (Lys)〕(heterozygote)HbE-Saskatoonが検出された。今回の経験から,臨床と情報を共有し,測定法の特性を正しく理解して業務にあたる必要があると考える。

  • 山中 遥, 中川 浩美, 佐々木 芳恵, 原田 裕美, 梶原 享子, 大盛 美紀, 津川 和子, 横崎 典哉
    原稿種別: 症例報告
    2018 年 67 巻 4 号 p. 580-584
    発行日: 2018/07/25
    公開日: 2018/07/28
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    乳児期の発症は稀なEvans症候群の1例を経験した。症例は生後5か月の男児。主訴は発熱と嘔吐であった。近医での血液検査で高度の貧血と血小板減少を指摘された。入院時の生化学検査では溶血性貧血を示し,直接・間接クームス試験はいずれも陽性であった。血小板関連免疫グロブリンG(PAIgG)は高値であった。骨髄所見では過形成であったが,骨髄細胞に異形成は認めずmyeloid erythroid ratio(M/E比)は低下しており,巨核球の増加を認めた。本症例では年齢が低く,膠原病や感染症などの自己免疫性溶血性貧血(autoimmune hemolytic anemia; AIHA)および特発性血小板減少性紫斑病(idiopathic thrombocytopenic purpura; ITP)をおこす主な基礎疾患があることは否定的であったため,自己免疫性リンパ増殖症候群(autoimmune lymphoproliferative syndrome; ALPS)の検索も行った。しかし,フローサイトメトリー検査や遺伝子検査からALPSは否定された。以上からEvans症候群と診断し,γグロブリン製剤や各種免疫抑制剤併用による治療が継続されている。

  • 宮川 寿美代, 大江 真司, 見澤 雅美, 佐藤 恵美子, 小泉 忠史, 古家 乾
    原稿種別: 症例報告
    2018 年 67 巻 4 号 p. 585-590
    発行日: 2018/07/25
    公開日: 2018/07/28
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    偽灰色血小板症候群(pseudo gray platelet syndrome; PGPS)は,エチレンジアミン4酢酸(ethylenediaminetetraacetic acid; EDTA)採血により,細胞外液のCa2+が除去されると血小板が凝集することなく内部の濃染顆粒とα顆粒の分泌がおこるin vitroの現象である。なお,出血傾向や遺伝子異常はなく血小板数も正常である。今回我々は,灰色血小板とその血小板塊を認め,見かけ上血小板減少を伴ったPGPS(PGPS with platelet clumping; PGPSPC)の1例を経験したので報告する。症例は肺炎で入院した90歳代男性。入院時採血においてEDTA採血で著明な血小板減少を認め,鏡検上では顆粒が乏しい灰色血小板とその血小板塊を認めたため,PGPSPCと診断した。我々の検索した限り,PGPSは本症例を含め14症例報告されており,約半数が本症例のように顆粒放出とclumpingを伴い,見かけ上の血小板減少を合併していた。今後,症例の蓄積とその機序の解明が必要と考えられた。

  • 仲田 夢人, 遠藤 由香利, 原 文子, 本倉 徹, 鰤岡 直人
    原稿種別: 症例報告
    2018 年 67 巻 4 号 p. 591-597
    発行日: 2018/07/25
    公開日: 2018/07/28
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    Carcinoembryonic antigen(CEA)の異常高値から診断された原発不明の縦隔リンパ節転移の1例を経験したので報告する。症例は70代男性。既往歴に胃癌があり,胃全摘出術を施行後,定期的にCEAが測定された。CEAの軽度上昇を認めたため,上部消化管ならびに大腸内視鏡検査,positron emission tomography computed tomography(PET-CT),小腸透視,腹部,甲状腺のエコー検査が施行されるも明確な腫瘍は認められなかった。その後,CEAの急激な上昇,PET-CTにて大動脈下リンパ節の腫大と同部へのfludeoxy glucose(FDG)集積を認めた。転移性を疑うも原発巣が明確ではないため,非特異反応の可能性を考慮して,非特異反応解析試験として他法による測定,希釈直線性試験,異好抗体吸収試験,Scavenger-alkaline phosphatase(ALP)処理試験,polyethylene glycol(PEG)処理試験,酢酸処理試験を行った。その結果,特異的にCEAを測定していることが確認されたため,診断確定と治療目的に縦隔郭清術が施行された。病理学検査で類円形核と多辺形細胞質を有した異型細胞の乳頭状~充実性増生を認めた。異型細胞は免疫染色にて上皮系マーカー,及び肺腺癌マーカー(thyroid transcription factor 1; TTF-11, Napsin A)に陽性を示したことから,肺癌のリンパ節転移が第一に疑われた。しかし,他臓器からの転移も否定できず,確定には至らなかった。術後CEAは著明に低下した。本症例では,胃癌の既往による定期的なCEA測定がリンパ節転移の発見に大きく寄与し,さらに非特異反応の可能性を否定することで手術に踏み切ることができ,臨床に貢献できたと思われる。

  • 黒木 恵美, 津守 容子, 渡邉 望, 清 真由美, 花牟禮 富美雄, 渡邊 玲子, 平山 直輝, 松尾 剛志
    原稿種別: 症例報告
    2018 年 67 巻 4 号 p. 598-604
    発行日: 2018/07/25
    公開日: 2018/07/28
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    たこつぼ心筋症は,一般的に予後良好の疾患である。発症経過は,急性冠症候群と類似しているが冠動脈には狭窄は認めず,その壁運動異常は冠動脈支配領域とは一致しない特徴的な形態を示す。今回我々は,発症時に左室心尖部に加え右室心尖部の無収縮が観察され,その回復期には,一過性の左室心尖部肥大の形態を呈したたこつぼ心筋症の1例を経験した。右室の壁運動異常を伴う場合,左心不全に加えて高度の右心不全を伴うため重症化しやすいと考えられる。この場合,心エコー図検査で右室の壁運動異常を初期の段階で捉えることができれば治療上有用であるが,注目していないと見逃されることもあり注意が必要と思われた。また,本症例は発症誘因として甲状腺機能亢進症の関与が示唆された。たこつぼ心筋症は何を契機に発症するのかはまだ不明な点も多いが,心臓は他の臓器と比較し甲状腺ホルモンの影響を受けやすいため,発症要因の1つとして甲状腺機能の関与も考慮し病因検索する必要があると考えられた。

  • 久末 崇司, 宿谷 賢一, 田中 雅美, 毛利 真理子, 曽根 伸治, 下澤 達雄, 池田 均, 矢冨 裕
    原稿種別: 症例報告
    2018 年 67 巻 4 号 p. 605-610
    発行日: 2018/07/25
    公開日: 2018/07/28
    ジャーナル フリー HTML

    C型慢性肝炎に対し,テラプレビル,ペグインターフェロン,リバビリンの3剤併用療法施行中患者尿に,特徴的な結晶成分が認められた。本結晶成分は酸性溶液やアルカリ性溶液,有機溶媒には不溶であり,特定の偏光色も認められなかった。テラプレビル服用患者の尿沈渣検査の経時的な変化を確認すると,5症例中4症例で治療開始直後から尿中に結晶成分が出現し,それと同時に腎機能の低下を認めた。残りの1症例においても投与4週後には結晶成分の出現を認めた。また,5症例全てにおいて,テラプレビル投与終了後に結晶成分の消失と腎機能の回復を認めた。これらの結晶成分がテラプレビルに由来するものか調べるため,患者尿とテラプレビル錠剤を粉末化したものを用いて赤外吸収スペクトルを測定した。それぞれの波形を比較すると,1,060 nm付近で同様なピークを示した。以上より,本結晶成分がテラプレビルに由来するものである可能性が示唆された。尿沈渣検査にて本結晶成分を検出することは,テラプレビルの服用によって引き起こされる腎不全の予防に有用であると考えられた。

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