本研究は、人間性豊かな看護婦の育成が有効に機能しえない根拠を探るために、日本の看護婦養成システムに強い影響を及ぼしたナイチンゲールの近代看護婦養成システムの構造を、彼女自身の著作物と伝記を資料に分析したものである。その結果、独立した学校運営、マトロンを頂点にしたピラミッド型の教貝組織、技術的訓練と道徳的生活の実践による道徳的訓練との二元的アプローチ、全ての学生のための訓練課程と訓練のための訓練課程との二通りの課程、薫陶・感化という教授法、きめ細かい評価、保護的環境の整備などの基本的構造が明らかになった。19世紀の時代的制約のなかで生まれたこのシステムは、次第にほころびを見せ始めるが、20世紀になってからの教育学の発達などにより、問題は解消されつつある。だが、もっとも人間性の育成と関連の深い技術と道徳の二元的アプローチについては、未だ手がつけられていない。
研究目的は、「看護診断に至る推理過程モデル」を適用した実習記録用紙を用いて、 臨地実習で看護過程を展開する学生の、看護診断過程の困難とその原因を明らかにすることである。対象は、成人・老年看護学実習を行った専修学校3年課程の2年生14名、指導した教員5名。学生が看護診断過程に使用した実習記録用紙に、教員が指導した内容と理由、及び学生のできない理由を記載した。これをデータとして、内容の要約、コード化、カテゴリー化を行った。その結果、1)学生の看護診断過程における困難は、情報収集と情報の解釈であり、必要な情報が不足し、解釈が不十分であった。2)情報が不足した原因は、情報を得る機会の不足、情報検索法についての戸惑い、患者への遠慮による情報収集の制限、学生の知識不足にあった。3)情報の解釈が不足した原因は、学生は情報の処理能力に限界があり、臨床判断に迷い、患者から直接得た情報や医学的診断・治療に捕らわれて、短絡的な情報の解釈を行うことにあった。