北ヨーロッパ研究
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16 巻
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特集論文
  • 是永 かな子
    2020 年 16 巻 p. 1-11
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/07/01
    ジャーナル オープンアクセス
    本報告では、スウェーデンにおける民主主義社会の構成員を育成するインクルーシブ教育の基本理念を考察した。それらは地域的差別がない形式的平等と個の教育的ニーズに応じた実質的平等であり、また個人としての自立の尊重と脱家族化であった。ノーマライゼーションに端を発した二元論を前提としたインテグレーションは、一元論もしくは多元論を前提としたインクルージョンに転換している。排除を極力減らすインクルーシブ教育の実践はインクルーシブ社会の創造と相補的な関係にある。インクルーシブ社会においては、他者との共存のために伝統的な「常識」枠組み自体の再検討も行う。全ての者を対象とした総合的なシステムを構築しつつ、多様な個別ニーズにも対応する。社会の構成員がともに学び、お互いの差異に対する知識理解を深めることによって偏見を克服し、排除を回避する積極的な努力が継続的に必要とされていることが再度確認された
  • 原田 亜紀子
    2020 年 16 巻 p. 13-26
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/07/01
    ジャーナル オープンアクセス
    本稿は、デンマークのユースカウンシルでの民主主義の実践による市民形成を検討する。ユースカウンシルは地方自治体が設置した若者政策提言組織であり、若者アソシエーションの一つでもある。  事例の分析枠組として、デンマークの政治学者、バングとソーレンセン、そして英国の政治学者マーシュと社会学者リーによる「新しい政治的アイデンティティ」の理論と、北欧閣僚理事会が提示した「‘参加’の過程」を援用し、エリートに限定されない多様な若者の政治参加を考察する。  3つの事例においては、インフォーマルな対話の機会により幅広い若者を包摂していること、職員が若者と地方自治体の橋渡しをし、「秘書」として「教育者」としての役割を果たしていること、ユースカウンシルが非制度的政治参加と制度的政治参加を接続する機能があること、そして若者を権利主体としてみなし政治的に包摂すると同時に教育的に支援する体制があることが明らかになった。
  • -民主主義の価値に根差した多元的社会を生きる市民の育成を担う教育の展望-
    渡邊 あや
    2020 年 16 巻 p. 27-38
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/07/01
    ジャーナル オープンアクセス
    本稿の目的は、フィンランドにおける「市民の育成」を担う学校のあり様と、そこで育むことが目指されている資質・能力について、教育政策と教育課程基準の分析から明らかにすることにより、北欧市民社会の担い手を育む教育の在り方を考えることにアプローチすることにある。その結果、フィンランドの「総合制学校モデル」が、時代の挑戦を受けながらも、今なお引き継がれ、重視されていること、教育課程基準が、社会の多様性を前提としていること、平等や社会的公正、民主主義といった概念を変わらず重視しつつ、新たな潮流・課題を取り込んでいることが明らかになった。さらに、日本と比較した場合の特徴として、民主主義や参加といった概念が、「行動すること」や「影響を与えること」までを含むものであることを指摘した。
論文
  • ~フィンランドの取り組みと課題~
    石田 祥代, 是永 かな子, 本所 恵, 渡邊 あや, 松田 弥花
    2020 年 16 巻 p. 39-52
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/07/01
    ジャーナル オープンアクセス
    本稿は、フィンランドの義務教育から後期中等教育への移行とその支援について、インクルーシブ教育の観点から明らかにすることを目的とする。文献調査と聞き取り調査を実施した結果、①義務教育段階の特別な教育的支援として三段階支援のシステムがあること、②同様の支援システムが後期中等教育においても整備されつつあること、③義務教育修了後、特別な教育的ニーズのある生徒は、基礎学校10年生、高校、職業学校、ヴァルマ、テルマから進路選択を行っていること、④基礎学校における移行支援として、キャリアカウンセラーと特別支援教育教員による進路相談、進学先との調整、学校訪問同行などが行われていることが明らかになった。一方、今後の課題として、①高校・職業学校における進学後のフォローアップ体制の不備、②退学問題への対応の強化、③授業での教育内容調整や直接的支援の必要性、などが示唆された。
  • 尾崎 俊哉
    2020 年 16 巻 p. 53-66
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/07/01
    ジャーナル オープンアクセス
    デンマークは、EUでも小国の1つである。しかしOECDによると、直近5年の平均GDP成長率は年2%程度と、先進国としては顕著に経済が拡大している。その理由の1つが、世界的に高い競争力を持つ企業を多く輩出している点である。なぜかくも小さな経済から、これほど多くの世界的企業が輩出されているのか。その国際的な競争優位は、何らかの「デンマーク的な経営モデル」によってもたらされているのだろうか。  本稿は、企業経営の特徴を国の次元で考察する意義と理論を検討し、導かれた仮説をケーススタディの手法で検証する。そこから、デンマークの主要な多国籍企業が、小国でグローバル競争のなかに翻弄されていることを、労使が政策立案者と共有していることを示す。その上で、ガバナンス、労使関係、能力構築、企業間取引において、きわめてユニークな制度を持つこと、そのような制度的な条件を比較優位として取り込む経営努力を行っていることを明らかにしたい。
  • 柴山 由理子
    2020 年 16 巻 p. 67-80
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/07/01
    ジャーナル オープンアクセス
    国民年金機構Kelaは、1937年国民年金法の制定によって議会直属の機関として設立されたフィンランド社会政策の主要な担い手である。本稿では、フィンランド社会政策の特徴をKelaの歴史的発展経緯から考察する。同組織は設立当初から農民政党との結びつきが強く、政治的な組織であることが指摘できる。Kelaは農民政党の意向を反映しながら管轄業務を拡大し、一律給付方式の保障や現金給付の割合の高いサービスを実現してきた。一方、社会民主党の役割は限定的で、同党が志向した所得比例方式の保障は妥協の産物としてKelaによる社会保障の枠外に置かれた。フィンランド社会政策の対立軸は「農村」対「都市」であり、Kelaを中心とする政治的対立に注目することは同国の社会政策の特徴を捉える上で意義深い。本研究では、フィンランド社会政策研究に「Kelaの視点」を加える必要性を主張し、比較福祉国家論の「社会民主主義レジーム」に多様性がある可能性を示す。
  • Esben Petersen, 田渕 宗孝, 長谷川 紀子
    2020 年 16 巻 p. 81-90
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/07/01
    ジャーナル オープンアクセス
    欧州福祉国家研究の近年の文献では、教会とプロテスタンティズムは、近代的福祉国家の歴史的発展における二つの中心的変数とされている。つまり、近代的福祉国家の思想とキリスト教徒の間には関連性がある、とされるのである。本稿では、福祉国家モデルの発展における教会の重要性を議論の対象とし、そうした主張のアプローチをより詳細に考察する。本稿では、先行研究のアプローチを概観し、福祉国家の起源と発展、およびそれらが説明変数として宗教をいかに利用してきたかを分析する。これにより、多様な福祉国家レジームの発展を理解するうえで宗教に大きな役割を認めようとする近年の試みにつき、対象化の道を開く。また本稿は、諸アプローチに対する批判的議論に焦点を絞る。つまり、福祉国家、教会、宗教の間に関連があるとする主張に対し、それを支持する実証的な根拠はあるのだろうか、という議論である。
  • Chino Yabunaga
    2020 年 16 巻 p. 91-102
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/07/01
    ジャーナル オープンアクセス
    This comparative study examined the direction of welfare reforms across different levels of governments and investigated the welfare transition in Finland and Japan, based on the discussion by Sellers and Lidström (2007) and Häusermann (2011). Finland’s four cases revealed some variations in both the central–decentral direction and the retrenchment or protection type of welfare transition. With respect to the three Japanese cases, the reforms demonstrated a tendency in transferring municipality tasks to second-tier authorities and they indicate a retrenchment or protection type of welfare transition. The fundamental purpose and motivation of the reforms were to maintain the lives of people in the welfare state with an ever-changing environment and an ageing population during austerity. Therefore, the nature of the reform cases in the two countries can be categorised as a protection type rather than a retrenchment type, although these reforms implied a centralised nature, which is an evident retrenchment type of welfare transition rather than a decentralised one. These reforms displayed the potential for service innovation and welfare development through the use of innovative Information and Communications Technology (ICT) and Artificial Intelligence (AI) environments in a changing post-industrial society, especially in Finland.
研究ノート
  • -ノルウェー人の若年層と高年齢層の比較から-
    鈴木 京子
    2020 年 16 巻 p. 103-113
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/07/01
    ジャーナル オープンアクセス
    現代の日本では急速に高齢化が進んでいる中で、高齢期になっても自立した生活を送るには男女ともに若いころから自立した生活を送ることが重要であることが指摘されている。しかし現状では高齢者の自立はどのように達成されるのかを分析する段階には至っていない。そこで本研究ではindependent(自立している、独立していると訳せる)であると言われているノルウェーの人々を対象にインタビュー調査を行い、自立を獲得していくプロセスを若年層と高齢層に分けて修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチを用いて分析した。その結果、ノルウェーでは比較的若い時期に[自立](自分でできることをやること)と[自律](自分で決めること)がなされたうえで親から《独立》するという鍵概念がコア・カテゴリーとして浮上した。高齢者の場合にはその先にはキャリア人生があり、その後は子どもから自立した《独立》した老後の人生を送るという道筋が描けた。
  • -スウェーデン教会の福祉事業が生み出す繋がりに着目して-
    吉岡 洋子
    2020 年 16 巻 p. 115-122
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/07/01
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究は、スウェーデン教会が行う福祉事業、特に子ども支援について、そこで生み出される人々のつながりに注目して明らかにし、市民社会による子ども支援の特性について示唆を見出すことを目的とする。方法は、A教区に関する文献資料研究とディアコンへのインタビューであり、教区福祉事業の全体像と、子どもに関わる事業、子ども支援について整理分析した。福祉事業は、文化・余暇活動等の場での早期課題発見や、福祉的テーマごとの集いとして実施されていた。子ども関連事業の大半は文化・余暇活動であり、子ども支援としては、テーマごとの集い、余暇活動の補足、学習支援が実施されていた。結果から、スウェーデン教会の特性発揮のあり方や、子ども支援を通じて生まれる人々のつながりのゆるやかさや多面性を考察した。公的福祉制度の枠外で、行政には対応できない、精神的・社会的な側面で市民社会が子ども支援を行っていることが見出された。
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