北ヨーロッパ研究
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5 巻
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特集 格差是正の比較政治学:北欧諸国の対応
  • 連帯賃金政策とジェンダ一平等からの戦略
    斉藤 弥生
    2009 年 5 巻 p. 1-15
    発行日: 2009年
    公開日: 2018/10/01
    ジャーナル オープンアクセス
    介護労働に不安定雇用が多く、低賃金という状況を、スウェーデンでは、他業種との労働条件格差、女性職場と男性職場の格差の問題として捉え、解決しようとしている。本稿では、介護職員の労働条件を向上させるために、スウェーデンにみられる3 つの取り組みについて、整理分析を行った。まず第一に、「パートタイム失業」 という新たな概念を生み出し、強いられたパートタイム就労を顕在化させ、社会問題とした。第二に、「ジェンダーフリーポット」の合意である。これは、2007年労使協約に向けたLOによる要求事項の一つに盛り込まれたもので、月給2万クローナ未満の女性に対し、一律、月額205クローナの給与の上乗せをするというものである。この恩恵を受けたのは、まさに介護職員であった。第三に、介護分野における多様な働き方の開発と提案が労使により検討され、実施されている。このような近年の課題に対するアプローチが、中央労使交渉システム、連帯賃金政策などの伝統的なスウェーデンモデルのもとで行われている点は興味深い。 スウェーデンモデルが時代と共に変容していることは多くの先行研究で指摘されているが、 同モデルは介護職員の労働条件を向上させるための装置として、今なお重要な役割を果たしている。
  • 格差社会の進行の中で
    藪長 千乃
    2009 年 5 巻 p. 17-27
    発行日: 2009年
    公開日: 2018/10/01
    ジャーナル オープンアクセス
    1990年代以降のフィンランドでは、所得格差が拡大している。格差の拡大は、地域間でも進行している。こうした状況を生み出した背景として、自治体内部の構造変化、全国レベルでの政策や状況の変化、さらに国際環境からの圧力が考えられる。まず、包括補助金制度の導入と地方自治法の全面改正により、基礎自治体が大幅な運営と財政に関する裁量権を手に入れた。広域・ 全国レベルでは、基礎自治体以外の自治単位や圏域が設定されたほか、自治体及びサービス構造改革プロジェクトが開始され、基礎自治体の枠組みそのものの位置づけが変化している。また、選択的に地域に対して重点的に資源を投下するプログラムも導入されている。EU・EMU加盟、グローバリゼーションの進展を背景理由としてこうした一連の改革が推し進められたといえる。格差の拡大は、こうした構造の中で、国際競争に耐えうる基盤形成のための努力の反映といえよう。
  • ノルウェーの新しい福祉政治と政党デモクラシー
    小川 有美
    2009 年 5 巻 p. 29-37
    発行日: 2009年
    公開日: 2018/10/01
    ジャーナル オープンアクセス
    グローバル化に直面する北欧諸国の中で、EUに加盟せず、石油という資産を有するノルウェーでは、危機が顕在化しにくかったといわれる。しかし階級社会から 「平等」 へという戦後の目標の到達の後、若年層、難民、ロシア系女性などの「周縁的市民」の排除が注目されるようになった。そして2000年代になると、「反貧困」が政府・ 政党の重要政策に掲げられた。その政治的背景には、政党デモクラシーの不確実性が高まる中で、主な政党リーダー達が競ってこの問題を取り上げ、アジェンダ(政治議題) 化したことにある。その結果、ノルウェーでは遅れていた福祉政治の現代化とともに、ポスト「第三の道」とも言える左一右対立の刷新が進んでいる。
論文
  • 新右翼政党が問いかけた「社会的連帯」
    岩﨑 昌子
    2009 年 5 巻 p. 39-48
    発行日: 2009年
    公開日: 2018/10/01
    ジャーナル オープンアクセス
    ノルウェーの新右翼政党 「進歩党」 は、1980年代後半から、流入する移民の急増とともに台頭を始めた。従来のノルウェーの移民政策は、移民を「ノルウェー語を話せない」ハンディキャプトと見なし、ネイティブ・ノルウェー人との社会的平等を図るための特別の支援を行うというものであった。進歩党は、これをノルウェー人への逆差別であると批判する。この主張は、多文化化が進行する中で有権者から一定の支持を得るが、既存政党が従来の路線に結集する中で、進歩党は徐々に反移民票を失う。その結果、ノルウェーの移民政策は従来の路線を踏襲することとなった。これは、移民を福祉国家の「社会的連帯」の範疇に含めることに、ネイティブが同意したことを意味すると考えられるだろう。この「社会的連帯」 の再構築は、 進歩党が移民問題を政治アリーナに持ち込んだことによって、初めて確固たるものとなったのではないかと考えられる。
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