北ヨーロッパ研究
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8 巻
選択された号の論文の6件中1~6を表示しています
論文
  • 就学前保育・教育領域への影響を中心に
    大野 歩
    2012 年 8 巻 p. 13-22
    発行日: 2012年
    公開日: 2018/10/01
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究では、スウェーデンにおける2011年学校改革に関し、 就学前教育領域に課せられた内容を明らかにする。また、生涯学習制度の一部となったスウェーデンの就学前保育・教育の現状を学校改革の背景を交えながら検討する。さらには「学校化」問題について考察することを目的とする。研究の結果、今回の学校改革では、就学前学校が学校の一形態となるために新たな法律の制定やカリキュラムの改訂が行われたことが明らかになった。 国際的に高い評価を受けているスウェーデンの就学前保育・教育政策だが、今後、スウェーデンの就学前学校が、1- 5歳に対する非義務の「学校」教育を担う施設となるのか、生涯学習というヴィジョンを構成する礎石として特有の活動を提供する場になるのかを見定めることが次の課題であろう。
  • バウチャーシステムと家事労賃控除(RUT-avdrag)の導入の現状から
    斉藤 弥生
    2012 年 8 巻 p. 23-38
    発行日: 2012年
    公開日: 2018/10/01
    ジャーナル オープンアクセス
    本稿では、民営化と市場化に焦点をあてて、2000年以降のスウェーデンの高齢者介護におけるコミューンの介護システムの現状分析を行う。スウェーデンでは1990年代以降、EUの政策の影響を受けながら、介護サービスの民間委託が少しずつ進んできた。2006年9月に第一次ラインフェルト保守中道連立政権が発足してから、2008年には入札法、2009年にはバウチャーシステム法が施行され、国レベルでは介護サービスの民営化と市場化を加速させる政策が打ち出されてきた。また2007年に始まった家事労賃控除は家事サービス購入に対する税額控除で、申告をしない水面下の労働を正規労働に替え、新たな雇用創出を目的とした政策である。控除を利用して家事サービスを半額で購入できるようになり、高齢者介護にも影響が見られる。家事労賃控除を利用すれば、要介護認定を受けずにサービスを購入でき、また要介護認定の基準外となる付加サービスの購入にも適用されるので高齢者の利用も増えている。この政策は家事サービス企業の市場参入を後押ししている。これらの政策はコミューンの介護システムにどのような影響を与えているか。これが本稿のテーマである。バウチャーシステムの導入はコミューンの選択に任されており、特定助成金も配分されたが高齢者介護への同システム導入は今のところ、全国の23.4%に留まっている (2010 年)。 本稿では2000年代初頭に同システムを導入したストックホルムと、法律により導入に踏み切ったヴェクショーを取り上げ、それぞれのシステムを比較検討した。バウチャーシステムの運営方法はコミューンにより多様であり、要介護認定、事業者数、介護報酬、 コミューン直営サービスの役割等も異なる。ストックホルムでは利用者は100を超える事業者からの選択が求められ、コミューン直営事業所を選べない地区もでている。一方、ヴェクショーでは民間事業者を選択しない高齢者は自動的にコミューン直営サービスを利用するというルールを持ち、以前の居住区単位のホームヘルプ供給エリアも維持している。また家事労賃控除の影響も徐々に表れてきた。ストックホルムでは65歳以上高齢者のホームヘルプ(家事援助サービス) の利用率が3%で全国の平均(7. 3%) の半分以下であるが、65歳以上高齢者の4. 8%が家事労賃控除を利用している。ストックホルムでは家事援助利用者の半分以上が要介護認定を必要としない家事サービスの個人購入に移行したことが推測される。コミューンにより多様な介護システムが存在することは明らかになったものの、その要因分析はスウェーデン国内でも先行研究がない。 日本の介護保険制度のように全国一律の制度と異なり、分権的なシステムでは変数が多すぎることが要因分析を困難にしているものと思われる。EUや国レベルでは市場開放、自由競争の流れが強まる中で、コミューンの高齢者介護(特に家事援助) では、家事労賃控除を利用した個人購入化が進んでいくのか、要介護認定に基づく従来の介護サービスを維持していくのか、高齢者介護の根本理念にかかわる議論が始まっている。
  • 2000年~2010年における訴訟および労働協約
    羽根 由
    2012 年 8 巻 p. 39-51
    発行日: 2012年
    公開日: 2018/10/01
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    雇用保護法第25条の再雇用優先権規定によると、「業務不足」という理由で解雇された労働者は、解雇後9箇月以内であれば以前の使用者に優先的に再雇用される権利を有する。一方、1992年の労働者派遣業合法化以後、 スウェーデンの労働者派遣業は著しく拡大した。2000年代に入り、企業が業務不足を理由に自社の従業員を解雇し、 その後の労働力不足時に派遣労働者を受け入れるという事例が相次いだ。使用者が、再雇用優先権を有するかつての従業員を再雇用せず、 派遣労働者を受け入れることによって、かつての従業員の再雇用優先権を侵害しているのではないか一このことを巡って労働裁判も起こされるようになった。本稿は、 近年の派遣利用がスウェーデンの雇用保護規定の一つ「再雇用優先権」にどのように影響を与えてきたのかに注目し、それに関する主な法律、判例、事件、そして2010年の労働協約運動で新たに結ばれた協約について紹介・考察する。
  • ノルウェーにおける戦後育児政策の変遷
    古市 憲寿
    2012 年 8 巻 p. 53-62
    発行日: 2012年
    公開日: 2018/10/01
    ジャーナル オープンアクセス
    本論文は、ノルウェーにおける戦後育児政策を検討するものである。1960年代までノルウェーは「主婦の国」 と呼ばれており、労働力不足であったはずの戦後復興期にも女性が労働力として注目されることはなかった。しかし1970年代以降、パブリック・セクターの拡大に伴い、母親を含めた女性の労働市場への進出が本格化、「主婦」というカテゴリーは失効していく。そこで前景化したのが 「子ども」である。近年は現金による育児手当など、「主婦」ではなく「子ども」の価値を強調することによって、男女の性差を前提とした政策が実施されている。それは、国家フェミニズム成立時の「母親」と「国家」の同盟が、ノルウェーにおいては男女の差異を前提として成立したためだと考えられる。
  • 標準テストからナショナル・テストへの転換を中心に
    本所 恵
    2012 年 8 巻 p. 63-72
    発行日: 2012年
    公開日: 2018/10/01
    ジャーナル オープンアクセス
    スウェーデンの初等・中等教育では、多くの教師の支持のもとで「ナショナル・テスト」と呼ばれる国家による学力テストが行われている。本稿では、全国学力テストの歴史を辿ることで、その支持の背景を明らかにした。とくに、ナショナル・テストの前身である標準テストの誕生から、ナショナル・テストへの転換、そして現在の変容までを対象として、全国学力テストをめぐる議論を検討した。現場教師の支持の背景には、全国の同学年生徒を相対評価する標準テストに対する批判を乗り越え、現場教師の裁量を尊重してその声を取り入れつつナショナル・テストが導入されたという事実があった。相対評価に替わって採用された「目標・ 知識に準拠する評価」に連動して、教育目標と評価基準を具体化し、それらに照らして各学習者の能力を評価することを大きな特徴としていたナショナル・テストは、しかしながら現在、再びその性格を変容させつつある。
  • 関西と西ヨータランドの比較分析
    丸山 佐和子
    2012 年 8 巻 p. 73-82
    発行日: 2012年
    公開日: 2018/10/01
    ジャーナル オープンアクセス
    本論は関西地域と西ヨータランド地域において進展している広域自治体の統合について比較分析を行い, その違いを明らかにすることを目的とする。地域の経済・産業構造および統合の枠組みに注目し分析を行った結果, 以下の点が明らかになった。第一に, 両地域の産業構造には重厚長大型産業の不振による経済的な停滞を経験したという共通点がある。 これを背景に地域経済活性化の方策を模索していた両地域には, 広域自治体改革の議論を受け入れる素地が作られた。第二に, 両地域の統合にはいくつかの根本的な違いがある。広域自治体の事務が限定的である, ランスティングとレーンの行政区域が一致している, 自治体の規模が小さい, EUの存在といった点で西ヨータランドの統合は関西と異なっている。これらの相違は,先行する西ヨータランドに比べ関西における広域自治体の統合が様々な側面で困難な調整に直面していることを浮き彫りにした。
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