脳内刺激 (intracranial stimulation, ICS) が正の強化者となり, それによって学習が成立するにとは, OLDS&MILNER (12) によって発見されたが, 食餌や水などの末梢刺激とは異なる現象がみられた。すなわちICS強化では, 消去が急速であり (8), 部分強化 (16), 分散試行 (15), 反応遅延 (6) の事態においては, 実行が貧弱である。また飽和が存在しない (11) 。
これらの現象を説明するために, DEUTSCHら (4, 5) はdrive-decay説を提出した。すなわちDEUTSCHらは脳内に強化の伝導路と動因の伝導路を仮定し, 強化となるICSはこの両伝導路を興奮させると考えた。それ故, ICSを受ける時に行なった反応は強化伝導路のインプルスによって強化され, 一方動因伝導路のインプルスはその反応を再び行なうように動機づける, とした。このようにしてICS強化による学習の成立, 飽和の不在が説明される。一方ICSによって生じた動因は, 刺激停止後急速に消失すると考えられ, にれによって急速な消去, 部分強化, 分散試行, 反応遅延事態における貧弱な実行が説明された。
しかし手続きを少し変更するにとによって, 末梢刺激事態に劣らない消去抵抗 (7), 部分強化下での反応の維持がみられ (13), また分散試行 (14), 反応遅延 (18) 下においても十分な実行が得られた。にのような諸事実はdrive-decay説を根底からくつがえすものである。
そにで本実験では, 刺激終了後ICSによって生じた動因が, DEUTSCHらの主張するように急速に消失するのか否かを決定するために, 反応遅延及び分散・集中試行による獲得の実験が行なわれた。そして動因の消失してゆく過程を更に明瞭にするために, 肢への電撃が導入された。
本実験では, ICS強化事態と末梢強化事態でみられた種々の相違を, ICSによって生じた動因が刺激停止後急速に消失するということで説明するDEUTSCHらのdrive-decay説を検討する目的で, 集中試行と300秒の分散試行によるシャトル反応の獲得, 及び0, 30, 60,120,300秒の反応遅延の実験が行なわれた。そして後者では1日毎に上昇してゆく電撃が導入された。そしてまた反応遅延の与え方が反応強度にどのような効果を持つかが検討された。その結果, 集中・分散獲得に差はみられず, また各反応遅延において, かなり強い電撃が耐えられた。従ってDEUTSCHのdrive-decay説は否定された。ところで各反応遅延の潜時の間には逆U字型のカーブがみられたが, これは動因の消失以外の要因によるものと考えられる。なおホームケージで試行間を過した被験体は弱い電撃しか耐えられなかった。しかしこれらについては今後多くの研究が必要である。
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