中脳中心灰白質の刺激により, いわゆる逃走反応や怒り反応を含む種々の情動反応がおこることは, 多くの研究によって知られている (3, 4, 8, 10, 17, 18, 19, 30, 31) 。そして, 中脳中心灰白質におけるそのような情動反応の条件づけに関する研究 (28), 中脳中心灰白質の刺激による学習行動 (17, 18, 19, 25) および学習行動におよぼす中脳中心灰白質の破壊効果をみた研究 (6, 11, 15) 等がある。
さて, 視床下部刺激による逃走反応を動因としたスイッチ切り行動 (16) と行動観察上区別がつかない同じ行動が中脳中心灰白質の刺激により生ずることが報告されている (17, 18, 19) 。HUNSPERGERら (4, 9) は, 組織学的に逃走反応やその他種々の情動反応をおこす部位は視床下部から中脳へと連続しているという。しかし, NAKAO (17, 18) によると, それらの刺激による逃走反応を動因としたスイッチ切り行動という学習行動による “ふるい” にかけると, 逃走反応をおこす部位は組織学的に不連続であり, また彼は中脳中心灰白質刺激によるスイッチ切り行動は海馬あるいは扁桃核後放電の抑制効果を視床下部刺激によるスイッチ切り行動より大きく受けることを明らかにしている。脳電気活動の面から差異のあることを示している研究もみられる (7) 。また, 薬物投与の影響を中脳中心灰白質刺激によるスイッチ切り行動と視床下部刺激によるスイッチ切り行動についてみると, 前者がより大きな影響をうけることを見出している。
ところで, われわれはすでに視床下部刺激によるスイッチ切り行動の音あるいは光への条件づけについて研究したが, その結果は, 光に対して条件反応は全く生ぜず, 音に対してはかなりの条件反応が生ずるか, あるいは全く生じないかであった (13, 32) 。
この研究の目的は, 視床下部刺激によるスイッチ切り行動と行動上区別のつかない中脳中心灰白質刺激によるスイッチ切り行動における音への条件づけについてみることである。その結果は, 視床下部と中脳中心灰白質の神経機構の類似点や差異を明らかにすることに役立つであろう。
本研究の目的は中脳中心灰白質の刺激による逃走反応をもとにしたスイッチ切り行動が音に条件づけられるかどうかをみることである。
中脳刺激により逃走反応をおこすネコ7匹が用いられた。まず中脳刺激を中断するスイッチ切り行動の学習が十分なされ, その後条件づけがおこなわれた。条件刺激 (CS) はベル音 (5V, 100db), 無条件刺激 (UCS) は中脳刺激 (50cps, 1.0V~2.0V), そして条件反応 (CR) はスイッチ切り行動である。条件づけの前にCSへの慣れをおこない, 遅延条件づけがなされ, 続いて消去, 再条件づけ, さらに消去がおこなわれた。
結果は次の通りである。
1. 7匹のうち4匹は条件づけが形成され, さらに消去, 再条件づけ, 消去が可能であった。これらの刺激部位はperiaqueductal greymatterのmid-paramedianで, NAKAO et al.ら (19) のスイッチ切り行動が可能なものと一致した。
2. 2匹はほんの少し, あるいは多少CRを示すが, 300試行以内でCRは80%水準に達しなかった。また残りの1匹はCRを全く示さなかった。これらの刺激部位はoculomotorius核に近いところと, 中脳reticular formationに近いところであった。
中脳刺激による条件反応形成における特質について述べ, そして, 自己刺激による学習の特質との比較を試み, 脳内刺激 (intracranial stimulation) による学習と末梢 (餌, 電気, ショック等) 強化の学習のちがいを考察し, 最後に視床下部刺激によるスイッチ切り行動の条件づけとの差異を述べた.
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