ラットが不完全な回避訓練を受けた後, 種々の時間間隔を経て再び同じ回避訓練を受けると, 回避回数が時間の関数として, V字型の曲線を描くことが知られている (4, 5) 。KAMIN (6) は原学習後数時間で回避反応数が減少するのは, その時点で不安が少なくなったからだと言い, DENNEY ら (4) は逆に高い不安によって引き起こされる freezing等の反応が能動的な回避反応と拮抗するのだと考えた。BRUSHら (2) は, 恐怖条件づけを原学習として用いたときにもV字曲線が得られたことから, 説明概念として「Parasymp-athetic overreaction」を提唱している。ラットは恐怖条件づけ中にかなりの電撃を受け交感神経系が過度に働き, 訓練後はその反動として, 副交感神経系がoverreactし, その頂点が数時間後に現れると考えた。最近では, 電気ショックのみの試行を先行条件として用いても後の回避学習の成績にV字型の結果が得られたことから, KAMIN効果は, 先行の電撃適用によって引き起こされた (shock-induced) 反応であると考える研究者が現われている (1, 7, 8) 。
本実験は, 後続訓練として, 学習の比較的容易な一方向回避事態を用いたとき, (1) 先行経験としての恐怖条件づけと電撃のみの試行とが後続の回避学習にほぼ同じ効果 (KAMIN効果) をもたらすかどうかを検証すること, (2) 自律神経系の指標として, 心拍を合わせて記録することにより被験体の外部反応と内部反応との関係を調べ, KAMIN効果のより適切な説明を得ることを目的としてなされた。
KAMIN 効果を引き起こす原因は何かという疑問が初期の研究者から引き継がれている。現在では, 電撃によって引き起こされる反応であると考える説が主流となっている。しかし, KAMIN 効果の成立に, 電撃のみで十分であろうかという疑問もまだ残されている。本実験の目的の第一は, この疑問に答えることであり, 第二は, 回避反応という外部行動の結果と, 心拍を指標とした内部反応の把持の結果とを比較し, KAMIN効果により新たな説明を加える試みを行なうことである。先行経験として恐怖条件づけと電撃試行が用いられた。把持時間は0, 1, 3, 24時間の4条件であり, 回避訓練は一方向で行なわれた。結果は, 恐怖条件づけ群の回避反応数が時間の関数として典型的なV字曲縦を描き, KAMIN効果が認められたが, 電撃条件では, 恐怖条件づけ群の結果と比較して, 0時間での回避反応に促進効果が見られず, 尻上がりの変形したV字曲線が得られたにすぎなかった。完全な形のV字曲線を得るには, 先行訓練で, CS-UCS 関係を学習する必要があることが分った。CSや回避箱事態に対するHR変化からは, 1時間群に特異な反応は見られず, 本実験の結果を記憶説, 動因説で説明することができなかった。CSに対するHRの把持は, Incubation と考えられた。PINEL ら の主張のように, KAMIN効果は再び電撃を受けたことによって生じる現象であると思われるが, 効果の前半と, 中間部及び後半では, その生起要因が異なるように思える。すなわち, 前半は, 先行経験におけるCS-UCS 関係の学習による回避反応の促進効果, 中間部以降は単に電撃による効果である。さらにKAMIN効果をすすめるために, 中枢神経系や内分泌系の解明が大きな課題となっている。
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