法学分野におけるNPOの研究(非営利法研究)は,最近20年に着実に発展した。その重要な背景は,日本の社会・経済一般における非営利への関心の高まりと同時に,非営利に関する現実の法制度(非営利法)が,1990年代後半以降,劇的と言って良い転換を遂げたことにある。非営利法の立法過程の研究のほか,非営利法の内容についても,「結社の自由」との関係,法人制度とガバナンス,税制優遇等について,重要な基礎理論の発展が見られた。他方,実際の非営利法の内容についても,また,非営利研究についても,なお多くの課題も残されている。本稿では,現在の到達点と課題の両面から,法学分野における非営利法研究の20年を振り返る。
本稿では,NPOを取り巻く様々なトピックスについて経済学からアプローチした研究を提示している.まず,NPOの台頭を説明する代表的な経済理論である政府の失敗理論および契約(市場)の失敗理論について紹介し,これらの理論の頑健性を実証した研究について議論を展開している.また,ソーシャル・キャピタルに関するマクロ経済理論モデル,およびそれから展開される計量モデル,そしてフィランソロピーのミクロ経済理論モデル,およびそれから展開される計量モデルについて紹介している.更にCSRの研究に関するレビュー,そしてCSRに取り組むと財務パフォーマンスを向上させるかを実証的に明らかにしようとする先行研究について議論を展開している.本稿で取り上げたトピックスに関する研究は,未だ継続中であり,現在でも研究に取り組めば新しい発見が期待できる.最後にこれから経済学からのアプローチが増加すると予想されるソーシャル・インパクトやソーシャル・インパクト・ボンドといった研究トピックスについても触れている.
日本NPO学会は創設から20年を迎えた.この20年間の大会発表タイトルと学会誌ノンプロフィットレビュー掲載論文の抄録から,研究内容の傾向を分析した.分析方法としては計量テキスト分析(テキストマイニング)を利用した.その結果,日本NPO学会の大会で発表された研究は非常にバランスよく多様な内容を含んでいることがわかった.一方で,協働やボランティアといったテーマについては減少傾向にあり,社会的企業やソーシャルキャピタル,社会的インパクトといったテーマについては上昇傾向にあることがわかった.学会誌ノンプロフィットレビューの分析からは,投稿論文が法人の財務的な内容を分析するものに偏りがある可能性が示唆された.今後,日本のNPO研究をさらに向上させていくためにも,こうした研究史の分析を定期的に行う必要があると考えられる.
人々の関心をいかに惹きつけ,寄付やボランティアをはじめとする自発的な行動へと促すか.すべてのNPOに共通するこの課題に対し,多くの団体は,マーケティングのノウハウを用いて戦略的な情報発信を行っている.本研究は,効果的・効率的な情報発信のヒントを探るべく,NPOの広告を目にした人が,提示された情報のどの要素に着目し,活動や団体への印象を形成しているのかを検証するものである.大学生895名を対象に,ある有名NPOが実際に用いたことのある,特徴の異なるオンライン広告を複数提示し,「最も心に響くもの」を選んだ上で,選択の理由を自己分析し,自由回答形式で記述してもらった.これをデータとした計量テキスト分析から,写真の登場人物が誰であるか,その登場人物がカメラ目線であるかどうか,具体的な数字が提示されているかどうか,またその数字が問題を表現しているかどうかが,広告の構成要素として重視されていることが明らかとなった.
本研究は,これまでのコ・プロダクション研究に残された課題を出発点とし,この概念が象徴する協働の意味と原理を理論の側面から考察している.結果として,第1に,利用者の生産的意義を積極的に捉え,それを協働の対象設定に包括したのは,コ・プロダクション概念構成上の最大の特徴であると言える.それは「協働」という行動を,利用者の自発的・非自発的関与を伴う個別のサービスからサービスシステム全体を対象とした,多様な次元に存在する一種の「属性」であることがわかった.第2に,社会サービスにおける協働の実践・実務に対して,コ・プロダクションは協働を「規範的価値」として主張するものではなく,また,生産的効率性の向上を一方的に追求するものでもない.この概念は,社会サービスの固有な普遍的・潜在的な属性として,従来の契約関係,ネットワーク,パートナーシップなどを統括したものであると考えられる.
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