ノンプロフィット・レビュー
Print ISSN : 1346-4116
21 巻, 1+2 号
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特集 地域の持続的発展とソーシャルセクター
  • ─社会起業によるコミュニティデザインの可能性─
    新川 達郎
    原稿種別: 特集
    2022 年 21 巻 1+2 号 p. 1-14
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル フリー

    本論文は,地域の持続可能な発展を担うソーシャルセクターの現状と課題を明らかにしようとするものである.日本の都市や農村は,様々な社会問題に直面しているが,それらの問題をソーシャルセクターを中心としたソーシャルビジネスによって解決しようとしている.こうしたソーシャルセクターのソーシャルビジネス活動は,持続可能な地域への変革という意味でのソーシャルイノベーションを伴わなければ目的を達成することは難しい.そのため本稿においては,第1に,これまでの地域づくりが持続可能な地域の発展とどのように接合されていくのかを検討する.第2には,持続可能な地域づくりの担い手としてソーシャルセクターを措定し,近隣社会に貢献できるその組織と機能を解明する.第3には,ソーシャルビジネスに焦点を当てて,その可能性を探ることとする.第4には,ソーシャルイノベーションに着目して,地域においてどのように変革を生み出しているのかを分析する.最後に,持続可能な発展のためのコミュニティデザインを考える.そこでは,ソーシャルセクターがソーシャルイノベーション型のソーシャルビジネスを生み出すことが出来る条件としてのエコシステムの要素と構造を検討し,それらを実装できるコミュニティデザインの可能性を考察し,まとめとしている.

  • ─支援から自治へ─
    津富 宏
    原稿種別: 特集
    2022 年 21 巻 1+2 号 p. 15-23
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル フリー

    NPO法人青少年就労支援ネットワーク静岡は,静岡方式と呼ばれる就労支援に取り組んできた.この取り組みは,働きたいけれども働くのが困難な人たちに対する個別支援から始まったが,次第に地域に相互扶助の関係性をつくりだすという方向へと舵を切った.私たちは,孤立化させられた「とるに足らない者たち」同士として関係性を紡ぎ直し,支援者―被支援者の関係を超えた相互変容を通じて,新たな価値観をつくりだし,「とるに足らない者たち」が放逐された空間を自治し始める.この自治の場がじわじわと拡張しながら,ミュニシパリズムへと歩みを進めている.

  • ─目標・指標による持続可能な地域づくり─
    長谷川 雅子
    原稿種別: 特集
    2022 年 21 巻 1+2 号 p. 25-33
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル フリー

    本稿では,担い手の減少や課題の顕在化が進む地域において,その持続可能性を高めるためのコミュニティの一つの形として,必要な時に支えあい助け合うことのできる緩やかに繋がる参加型コミュニティを提示し,その醸成のためには,地域の方向性の共有と地域情報のわかりやすい提供が必要であることを論じている.そして,その実践の試みとして,黒部や静岡での目標や指標を活用した地域づくりを紹介し,地域情報の共有や地域の方向性への共感による主体性の形成を通じて,地域コミュニティの醸成が促進されていく可能性を示唆した.また,海外の動向として,北米の事例を紹介し,指標や目標が市民参加に果たす役割について論じ,多様な活用方法による市民参加のステップアップの可能性を提示した.

    コロナ禍の影響を受けて,地域の問題やその将来像にも変化が生じている可能性がある中で,地域情報の共有や方向性への共感を踏まえた,住民主体の地域づくりが求められている.

  • ─日本の文献を中心としたレビュー─
    中尾 公一
    原稿種別: 特集
    2022 年 21 巻 1+2 号 p. 35-46
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル フリー

    日本の条件不利地域におけるコミュニティビジネスに関しては,主として実務家などの活動事例を議題とする公刊本が刊行される一方,研究動向が明らかになっていない.本論は日本の条件不利地域のCBに関する研究動向を明らかにすることを目的とする.条件不利地域に関する184本の研究論文とコミュニティビジネスに関する159本の論文の内容分析を行った結果,重要法律の施行時期などに研究関心が高まることが明らかになった.また条件不利地域関連の論文では,農業・人口動態・社会経済に関連する語群が,コミュニティビジネスに関しては地域・行動主体と活動・発展性に関する語群がそれぞれ抽出された.その上で条件不利地域でのCB関連で抽出された頻出語を元に,農業,高齢者・生活基盤,観光等の事例を分類して紹介した.

  • ―橋渡し型SCとしてのNPOなどに着目して―
    川島 典子
    原稿種別: 特集
    2022 年 21 巻 1+2 号 p. 47-56
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,橋渡し型ソーシャル・キャピタル(以下,SC)の「NPO」などを地域の持続的発展を支えるソーシャルセクターとしてとらえ,介護保険法改正や社会福祉法改正との関連や近年の国の政策動向である「地域共生社会」と「包括的支援」をSCに着目して論じた上で,持続可能な地域社会について社会福祉の視座から論考することにある.

    まず,地域共生社会と包括的支援をめぐる政策動向について踏襲した.次に,地域共生社会下の包括的支援における介護予防と子育て支援において有効なSCを「NPO」などのつながりに代表される橋渡し型SCと「町内会自治会」などの地縁に代表される結合型SCとに着目して,量的調査によって実証的に検証した結果について述べている.次に,多くの中山間地域をかかえる島根県で,持続可能な地域経営に成功している2つの事例を橋渡し型SCとしてのIターン者や「NPO」の活動,および結合型SCの地縁などの結合SCに着目して論じた.

    また,新しい展開として,人口減少が著しく人的資源や社会資源が乏しくて地域のボランティアさえ高齢化している中山間地域で,行政業務や地域のボランティアの役割の一部をAIに代行してもらう際のAIパーセプション(AIの受けいれやすさ)をSCの視座から分析した結果についても述べている.最後に,コロナ禍においても持続可能な地域を支えるソーシャルセクターとして橋渡し型SCの「NPO」をとらえ,SCの地域差に着目した考察を加えた.

論文
  • ─地域中小企業・コーディネーター・学生の3者の視点からの調査分析─
    今永 典秀, 鳥本 真生
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 21 巻 1+2 号 p. 57-70
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/01
    [早期公開] 公開日: 2022/03/09
    ジャーナル フリー

    本研究では,中小企業への長期実践型インターンシップにおけるコーディネーターの役割を明示することを目的とする.コーディネーターが伴走支援する地域の中小企業へ学内外でインターンシップなどを経験した大学3年生が参加した長期実践型インターンシップにおいて,インターンシップ中の学生の日誌,3者MTG記録,振り返りシートによる資料分析と,関係者へのインタビュー調査を総合的に分析し,コーディネーターの役割を調査分析した.調査の結果,コーディネーターの果たす役割として,3者MTGや日報などによってプロジェクトの修正が可能となることが把握できた.緊急度が高く重要な事業に学生が取り組むことで,中小企業の事業成果の実現に寄与することが明らかになった.

  • ―対照言語学の視点から―
    田辺 大
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 21 巻 1+2 号 p. 71-80
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/01
    [早期公開] 公開日: 2022/03/10
    ジャーナル フリー

    本論文は,entrepreneurshipの日本語訳,さらにはsocial entrepreneurshipの日本語訳が日本では長年未整理のまま推移し,伴って,日本の起業文化にも影響が及んでいる課題を紹介している.本研究はsocial entrepreneurshipや関連する概念の日本語訳の検討を通じて整理を行い,ひいては日本の起業文化の進化への貢献を目的とする.研究方法の妥当性では,日本語訳の検証の確度を高めるため,対照言語学の視点を用いる.対照言語学は逆翻訳という手法を提供しており,日本語訳が正しかったのかを英語等に訳し直すことで,いわば翻訳の検算が可能になる.entrepreneurshipが「起業家精神」と日本語訳された課題として,起業は一連の過程(process)や仕組みでなく,「起業家は自己責任で孤独にがんばれ」と一個人の精神論に,つい誤解される向きが昭和以来の日本社会では支配的になってしまった.entrepreneurshipを「起業家性」,social entrepreneurshipを「社会起業家性」という日本語訳にする事を,その手法とともに本論文は提案し,日本の起業文化が精神論から脱却する貢献を目指している.

  • ―日本におけるヘイトスピーチ解消法の事例分析―
    寺下 和宏
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 21 巻 1+2 号 p. 81-93
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/01
    ジャーナル フリー

    本稿は,ヘイトスピーチ解消法の事例分析から,市民社会組織のブーメラン戦略がいかなる政治的帰結をもたらすのかを明らかにした.これまでの研究では,国内での政治アクセスが難しい市民社会組織は,他国や国際機関を通じて,圧力をかけるブーメラン・パターンによって政治的帰結を生じさせていると論じてきた.他方で,ブーメラン・パターンによる国際的圧力は限定的なものであるという反論もあった.しかし,いずれの議論もモデルの妥当性には疑問符がつき,実証性に乏しい.そこで本稿では,合理的選択論に基づき仮説を構築した上で,日本におけるヘイトスピーチの政治過程を検討した.その結果,イシュー・セイリアンスと,選挙サイクルの組み合わせによって,与党がとりうる行動が変わり,その結果生じる帰結も異なったことで,差別規制には不完全な法律が制定されたことを明らかにした.これにより,市民社会組織のブーメラン戦略によってもたらされた国際的圧力は,国内アクターによって利用される可能性を示した.

研究ノート
  • 岩田 憲治
    原稿種別: 研究ノート
    2022 年 21 巻 1+2 号 p. 95-107
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/01
    ジャーナル フリー

    本稿は,まちづくりNPO法人の経済規模を表す指標に,市区町村別・住民1人当り経常支出額を用いて,人口増減率との関係を検討した.19都道府県の885市区町村の中の,まちづくりNPO法人が所在する515市区町村を検討対象とした.資料は,主として内閣府NPO法人ポータルサイトから,筆者がダウンロードした2013年度事業報告書等に基づく.明らかになったことは次のとおりである.市区町村別・住民1人当り経常支出額は,人口増減率に関し右肩下がり傾向である.すなわち,人口減少地域における市区町村の1人当り経常支出額は,増加地域の値より多い傾向がある.人口増減率は出生率と死亡率,社会増減率に分けられるため,モデルを出生率と死亡率,社会増減率に分けて回帰分析をした結果である.

  • ―スコーピング・レビューを通して―
    平尾 昌也
    原稿種別: 研究ノート
    2022 年 21 巻 1+2 号 p. 109-123
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/01
    ジャーナル フリー

    近年,人々の働き方や暮らし方は大きく変容し,地域社会での人のつながりや支え合いが希薄化しおり,新しい地域社会づくりが求められている.これからの地域社会づくりを検討する上で“働く”と“暮らす”とが隣接すること重要であり,本研究はソーシャル・ファームに着目する.まず,ヨーロッパに起源を持つソーシャル・ファームの定義や概要を整理する.次に,日本の研究誌上でソーシャル・ファームに関する文献のスコーピング・レビューを通して日本においてソーシャル・ファーム概念受容について,(1)障害者等の雇用を目的とした社会的企業の一つである.(2)雇用対象は,精神・知的障害者に焦点化されている.(3)多様性を認め,お互いが共に働く仲間として対等な関係である.(4)雇用を生み出すだけでなく,地域社会の課題に取り組み地域とのつながりを意識的に生み出す.の4点を明らかにした.特に(4)で示された内容は,日本のソーシャル・ファーム実践で強調されており,概念受容の特徴として示唆された.

実践報告
  • ─神戸ソーシャルキャンパスと神戸ソーシャルブリッジの事例から─
    小嶋 新, 大福 聡平, 唐津 周平
    原稿種別: 実践報告
    2022 年 21 巻 1+2 号 p. 125-133
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/01
    ジャーナル フリー

    本稿は,NPO法人しゃらくが運営した「神戸ソーシャルキャンパス」及び「神戸ソーシャルブリッジ」の2つの事例をボランティアコーディネーションの観点から考察した.この2つの事業にてボランティアコーディネーションを行う際には,「独自の目的」と「期限の設定」という特徴がある.その結果,従来のボランティアコーディネーションとは一部異なった要素(ボランティアに期待される役割の明確化,ボランティアの参加のしやすさ,長期的な伴走支援,成果への焦点化)に重点を置いていることを明らかにした.本稿ではこれらのコーディネート手法によって組成されたボランティア活動を「市民参加プロジェクト」と呼び,その活動に参加する動機などを現代の社会環境を踏まえて考察した.以上の考察を通じて,市民参加プロジェクトは中間支援組織にとって,ボランティアプログラムの開発やステークホルダーとの関係構築など新たな機会を創出する可能性を有していることが分かった.

  • ―仙台夜まわりグループの事例を通して―
    新田 貴之
    原稿種別: 実践報告
    2022 年 21 巻 1+2 号 p. 135-143
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/01
    ジャーナル フリー

    コロナ禍においてホームレス支援は,いかにして可能か.本稿は,ホームレス支援NPO仙台夜まわりグループが行ったホームレス支援活動を事例として,感染症拡大を避けなければならないという,これまで経験したことのない状況にあって,仙台夜まわりグループが,どのような決定を行ったのか,その決定に基づいてどのようにホームレス支援活動を行ったのかについて検討し,コロナ禍によって顕となったNPOの脆弱性と課題について考察した.その結果,万が一,ホームレスがコロナ感染症に罹患したとしても,また,「NPOスタッフ」やボランティアがコロナに感染したとしても,自己責任とされてしまい,感染症拡大において最もケアしなければならない社会的弱者に対する,そのケアの基盤は脆弱であることが明らかになった.

  • ―横浜市戸塚区こまちぷらすの取組み―
    瀬上 倫弘, 米田 佐知子
    原稿種別: 実践報告
    2022 年 21 巻 1+2 号 p. 145-150
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/01
    ジャーナル フリー

    本報告は,地域の多様な社会関係資本が集まる認定NPO法人こまちぷらすの特徴的要素を詳らかにし,同様な活動を行う団体にヒントを提示することができないかと考え,コミュニティカフェ論と共感論の2つの視座からアプローチした.事業の中心であるこまちカフェは,対話と居場所の場として,スタッフと利用者,また利用者相互のやりとりが生まれる可能性を持つ.「対話」を意識していることが「偶発性」と「相互作用」を生む素地として特徴的であり,また心理的安全性を保障した上で「自己開示」と「他者理解」が繰り返し行われ,同時に何かしらの痛みを持つ参加者にとっては「回復」の要素も有し,自身の当事者性を客観的に見つめる機会にもなっている.また,戸塚区という限定された〈地域〉と,モビリティの制限から地域との関係性が強い〈子ども〉という要素が,共感媒介要素である「共通性」や「接触性」,「過程」をより強め,相乗効果により地域の人たちを巻き込むことに成功している.そして,スケールアウトとは異なる循環性としての展開が図られている.

博士学位論文要旨
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