ケアリングという人間の行為は, 人類始まって以来現在まで, 人と人の間に常に存在していた. しかし, ケアリングという現象は, 非常に密接な人間と人間の関係の中で起こり, 且つ主観的な表現現象であるため, その効果を測定することが難しい. そのため, これまであまり深く追及されてこなかった.
過去30年来, 医学の領域は, 急速な科学・技術の進歩に大きな影響を受けた. 医療機器の発達, 倹査方法の進歩など医学がもつ方法論は, 人間を生命あるものとしてではなく, むしろ単なる物体として, 機械の部品の集合体として扱う傾向を強めた. このような傾向の中で, 看護学はようやく医学とは異なる自己の独自性に目醒め, ますます人体の機械論や還元論の方向へ発展していく医学に逆らって, 生命をもつ人間そのものの独自性や人間性を求める傾向を強化しはじめた. 従来看護学が言葉にしていた「ケアリング」について探求しはじめたのである.
M. Mayaloffは,「ケアリング」の対象には, 人間ばかりでなく, 生物, 環境, 理念, 美術などがある.「ケアリング」とは, それらに対する人間の関与の仕方であり, 対象となるものが発展成長していくように関与することであると述べている. ところで,「ヒューマンケアリング」という用語は,「ケアリング」の対象を人間に限定していうものである. 医師, 心理学者, 法律家, ナースなど多くの専門家は, 人間を対象に「ケアリング」する役割をもっている. では, 看護専門家は, 他の専門家とはどのように異なる「ヒューマンケアリング」を行うのであろうか. 看護専門家の独自な役割は何か. そして, 看護専門家は, どのようにしてその役割を果たしていくのであろうか.
医師は, 医学の知識をもとにして, 心理学者は心理学の知識をもとにして, 法律家は法律の知識をもとにして, それぞれの役割を果たしている. 同様に, 看護専門家は, 看護学の知識をもとにして「ヒューマンケアリング」するわけである. M. E. Rogersは, 彼女の著書「Theoretical Basis of Nursing」にあるものが看護の知識でありそれをもとにして「ヒューマンケアリング」することであると述べている.
看護が負う「ヒューマンケアリング」とは何か. そのもとになる看護学の知識とは何か. その原則となる哲学的な側面を日本人である著者が追及し考察を加える.
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