日本看護科学会誌
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19 巻, 3 号
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  • 三橋 邦江, 森 恵美, 前原 澄子
    1999 年 19 巻 3 号 p. 1-10
    発行日: 1999/11/30
    公開日: 2012/10/29
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は, 働く母親のストレス状況への適応に関連する要因を明らかにすることである. 本研究では, 仕事と育児の両立への適応状況を, 疲労, 役割葛藤, 役割満足, 育児不安の4つの指標を用いて測定した. 乳幼児をもち就業している働く母親218名を対象に質問紙調査を行い, 以下の結果を得た.
    (1) 環境属性要因: 労働時間と役割葛藤得点の間には, 正の相関関係 (r=.27, P<.01) が認められた.
    (2) 認識と対処の要因: 就業意欲の高い群は, そうでない群に比べて, 有意に役割葛藤得点, 育児不安得点が低く, 役割満足得点が高かった (p<.01). また, ソーシャルサポート得点は, 精神的疲労得点, 育児不安得点との間に有意な負の相関 (r=-. 22,r=-.21;p<.01) が認められた. さらに, 消極的問題中心対処得点は, 身体的疲労得点 (r=.25,p<.01), 育児不安得点 (r=.26,P<.05) との間に正の相関関係が認められ,役割満足得点 (r=-.24,P<.01) との間に負の相関関係が認められた.
    働く母親の適応状況には, 環境属性要因の他に, 認識と対処が関連していた. 働く母親の適応を促進する援助には, 就業意欲やソーシャルサポート, 対処など, 認識と対処要因を考慮する必要がある.
  • 岡本 幸江
    1999 年 19 巻 3 号 p. 11-18
    発行日: 1999/11/30
    公開日: 2012/10/29
    ジャーナル フリー
    この研究の目的は, 小手術を受ける幼児後期の子どもが何をどのように表現しているかを明らかにし, それはどのような意味を持つのか分析することである. 研究方法はレイニンガ一の民族看護学の研究方法を用いた. 9名の子どもを中心となる情報提供者とした. 14名の看護者と小手術を受ける子どもの母親4名の計18名を一般情報提供者とした. 分析結果, 5つのテーマが抽出された.
    テーマ1: 子どもは,あらかじめ説明された手術の経過について, 子どもなりに理解していることには,前向きに関わろうと頑張っている.
    テーマ2: 子どもは, 手術の前後で聞いていなかったことに直面すると, 途中で説明も加えられないため, 受け入れるのが難しく, 納得できずに苛立ちを感じている.
    テーマ3: 看護者や母親は, 麻酔から覚醒し部屋に戻った時点で手術は「終わった」と思うが, 子どもには点滴や痛みがあるため, なお頑張りつづけなくてはならず,手術は「終わっていない」.
    テーマ4:手術前後において, 看護者や母親は子どもの言動を理解できず戸惑っているため, 子どもは一貫した支えを得られない.
    テーマ5: 入院時, 子どもは自分のベッドであることを説明されると, 子どもにとってベッドは拠り所になる.
  • 武田 利明, 永野 みどり
    1999 年 19 巻 3 号 p. 19-27
    発行日: 1999/11/30
    公開日: 2012/10/29
    ジャーナル フリー
    抗がん剤である塩酸ブレオマイシン (BLM) の褥瘡発生に及ぼす影響について, 実験動物を用い病理学的手法により検索した. 本研究では, 10匹のウサギをBLM投与群と非投与群 (対照群) の2群に分け実験を行った. すなわち, BLMを2.5mg/kgの量で週1回, 5週間筋肉内投与したウサギをBLM投与群とし, BLMの溶媒である生理食塩液を同様に投与したウサギを対照群とした. これらの各群の動物に作製した褥瘡について, 肉眼的観察と組織学的検査を実施し, 褥瘡発生に及ぼすBLMの影響について検討した. 実験的褥瘡は, ウサギの腰背部皮膚を除毛した後, 大腿骨第三転子部上の組織に138kPa(1.4kg/cm2)の圧力で4時間加圧することにより作製した. 病巣の肉眼的観察は, 作製後5日目まで毎日実施し, 組織学的検査は, 5日目の褥瘡および肺について光学顕微鏡を用いて実施した. その結果, 肉眼的観察では, BLM投与群において, 作製後1日目に強い発赤と浮腫形成が観察され, 褥瘡治癒遅延も認められた. 組織学的検査では, 全ての動物に肺病変は観察されなかった. 褥瘡の組織所見では, BLM投与群において, 多発性血栓形成や表皮再生不良が認められた.
  • 村岡 宏子
    1999 年 19 巻 3 号 p. 28-37
    発行日: 1999/11/30
    公開日: 2012/10/29
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は, 筋萎縮性側索硬化症患者の病いを意味づけるプロセスを明らかにすることである. Franklの提唱する理論を基盤に, ALS患者の病いの意味づけを, 意味への意志という視点から捉える. 質的帰納的手法としてグラウンデッド・セオリー法を用いた. 対象者は, 在宅療養中のA聡患者6名であった. データの収集は, 参加観察と半構成的面接を用い, 継続的比較分析を行った.
    分析の結果, ALS患者の病いを意味づけるプロセスには,〈戦略的補完行為〉〈鏡像行為〉〈新しい生への超越行為〉の3つの位相カテゴリーが見出された.それぞれの位相は4つのサブカテゴリーを含んでいた. 各位相間には, 一定の時間的順次性が認められ, 病いを意味づけるプロセスは発展的変化を示した. 最初患者は, 病いの状況が補われれば病気前と変わらず完全であることを自他に示そうとするが, やがて病いを自己の現実として直視するようになり, そして, 病いに積極的な意味を与え, 新しい生き方を切り拓くようになる. つまりALS患者は,生きる意味に向かって3位相の価値転換をしていた.
    以上より, ALS患者にとって極限状況とも思える進行体験は, 主体的努力によって乗り越えられることが明確になった. 看護ケアの提供において, ALS患者の病いを意味づける能力を高めることの重要性が示唆された.
  • 野口 眞弓
    1999 年 19 巻 3 号 p. 38-46
    発行日: 1999/11/30
    公開日: 2012/10/29
    ジャーナル フリー
    母乳哺育に関するケアの受け手の評価は, ケアの質改善の方向性を示すものである. そこで, 母乳ケア過程を看護者の視点から記述した帰納的研究の結果にもとづきケアの受け手の認識を問う質問紙を作成し, それを用いて母乳ケア過程に対するケアの受け手の認識あるいは評価を明らかにすることを本研究の目的とした.
    病院および助産所で出産した褥婦を対象とし, 入院中の母乳哺育に関するケア終了時 (時点1) および出産後1か月 (時点2) に郵送法で縦断的質問紙調査を行った. 質問紙は, 時点1では542名に, 時点2では384名に配布し, 有効回答数および回収率は時点1で418 (77.1%), 時点2で336 (87.5%) であった. 因子分析の結果, 受け手により認識された母乳ケア過程には, 第1因子「気楽にして優しい後押し」(寄与率20.6%), 第2因子「当たり前の心配り」(12.2%), 第3因子「手を添えた直接援助」(8.2%) から構成されていた. また, 因子負荷量が大きい項目の大部分が「母親の気持ちの支持」というカテゴリーに属しており, ケアの受け手の評価を左右するものとしては気持ちにかかわるケアが重要であることが示された. そこで, ケアの受け手の評価を高めるようにケアの質を改善するためには, 助産婦による信頼された技術提供とともに, 気持ちにかかわるケアを重視する必要があると考えられる.
  • 菊池 昭江
    1999 年 19 巻 3 号 p. 47-54
    発行日: 1999/11/30
    公開日: 2012/10/29
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は, 実習指導の経験を持つ看護婦の学生指導役割に対する意識を明らかにし, 看護専門職としての自律性との関連性を検討することである. 臨床で働く看護婦283名 (准看護婦を除く) を対象に調査を実施した. 自律性の測定には, 菊池・原田 (1996) の看護専門職における自律性測定尺度を用いた. その結果, 以下のことが明らかになった.
    (1) 本研究における看護専門職としての自律性は,“抽象的判断能力”“具体的判断能力”“認知能力”“実践能力”“自立的判断能力”の5つの因子から成り立っていた.
    (2) 実習指導経験者の学生指導役割意識は, 職務経験年数の多さと関連性がみられ, 経験年数5年未満と5~9年, 10年以上との間で有意差が示された.
    (3)“認知能力”は, 実習指導経験者の方が未経験者よりも有意に高い傾向を示した (P<.05). 実習指導者としての“認知能力”“実践能力”の形成には, 3~5年の実習指導経験が必要であることが示唆された.
    (4) 実習指導経験者の“抽象的判断能力”及び“実践能力”は, 学生指導役割意識との問で有意な正の相関を示した(γ=504と.559, いずれもP<.001).
  • 山本 直美
    1999 年 19 巻 3 号 p. 55-63
    発行日: 1999/11/30
    公開日: 2012/10/29
    ジャーナル フリー
    本研究は成人期の術前患者の認知的評価尺度開発への試みとして初期段階での尺度の信頼性と妥当性を検討することを目的とした.
    はじめに,尺度原案はLazarusら (1984/1991) の理論を概念枠組みとし, また面接を通じて得たデータを基に3下位尺度70項目で構成された.
    次に尺度の信頼性と妥当性を内容妥当性, 表面妥当性, 構成概念妥当性, 内的整合性の視点から検討した. 内容妥当性は外科系実践看護婦6名と成人看護学領域の研究者21名の計27名を被検者に, 表面妥当性はがん疾患で術前1週間以内の患者17名を被検者に検討した. この時点で4下位尺度55項目となった. 構成概念妥当性と内的整合性 (信頼性) は同条件の患者70名を被検者に検討した. 因子分析 (主因子法・バリマックス回転) の結果7因子を抽出し, 最終的には手術との出会いにおける (1) 抑うつ的見積もり,(2) 消極的対処選択への見積もり,(3) 好機的見積もり,(4)防衛的見積もり,(5) 挑戦的見積もり,(6) 回避的見積もり,(7) 楽観的対処選択への見積もり, の7下位尺度47項目で構成された. また内的整合性は全体でCronbach's α 係数0.83, 下位尺度ごとでCronbach's α 係数0.62~0.86の値を示し, 尺度開発への試みの段階としてはある程度の信頼性と妥当性を得ることができた.
  • 大嶺 ふじ子, 浜本 いそえ, 小渡 清江, 宮城 万里子, 砂川 洋子, 杉下 知子
    1999 年 19 巻 3 号 p. 64-73
    発行日: 1999/11/30
    公開日: 2012/10/29
    ジャーナル フリー
    正しい性知識を伝授することと性をより肯定的に捉えられるような動機付けを目的として, 大学生8人がピァ・カウンセラーとなり, 高校生42人に対しロールプレイ等を取り入れたピァ・エデュケーションを3回にわたり実施した. ピァ・エデュケーションの具体的な方法と展開内容および留意点を検討し, その実施前後に高校生の性に関する知識及び意識についての変化と男女差を明らかにするための自記式質問紙調査を行った.
    ピァ・エデュケーション実施後の感想では,「性についてよく考えられた」,「もっと性のことを知りたい」,「カウンセラーの人たちは話しやすくて, 質問をしやすかったので安心できた」,「3回だけではなくもっと計画してほしい」など否定的な感想は無く好評であった.
    今回の性知識・性意識の調査結果からも, この時期の特徴が反映されており, 性意識は活発化してきているといえるが, 性知識は不十分であった. 特に, 性知識の面では,男女ともに, 避妊法では「コンドーム」, STDでは,「エイズ」と知識に偏りが大きかった. 性意識の面では, 性の責任性において, 男子は実施後に高い得点を示し, 変化がみられた. また,「望まない妊娠を避けるには」において, 男女とも実施後に「男女が性について本音で話し合える」と答えたものが倍増し, 変化がみられた.
    このことより, ピァ・エデュケーションは, 生徒が性をより建設的, 肯定的に考えることに役立つ教育方法として, 効果があることが示唆された.
  • 中村 伸枝, 兼松 百合子, 武田 淳子, 丸 光恵, 松岡 真里, 内田 雅代, 二宮 啓子, 今野 美紀, 谷 洋江
    1999 年 19 巻 3 号 p. 74-82
    発行日: 1999/11/30
    公開日: 2012/10/29
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は, 1) 親のライフスタイルを, 日常生活習慣, 健康責任, 自己実現, ストレスとストレス管理, 子育てに関する態度に焦点をあて, それらの関連を調べること, 2) 患児の日常生活習慣および療養行動と親のライフスタイルとの関連を調べることである. 対象は, 外来受診中の6~18歳の小児糖尿病患者46名と, 付き添いで来院した親 (母親42名, 父親4名) であった. 患児には日常生活習慣と療養行動に関する2種類の質問紙調査を行い, その親には日常生活習慣, 健康責任, 自己実現, 日常のいらだち事, ストレス管理, 子育てに関するpositiveな態度と, negativeな態度, および疾患関連ストレスの8カテゴリーから成るライフスタイルについての質問紙調査を行った.
    その結果, 1) 親の健康責任と自己実現, ストレス管理, および, 子育てpositiveと自己実現, ストレス管理には相関がみられた. 2) 親が「朝すっきり起きられる」ことは, 親のライフスタイルのカテゴリーの多くと相関が見られた. 3) 患児の日常生活習慣は, 親の日常生活習慣の「就寝時間」「歯磨き」のみと相関がみられた. 4) 患児の療養行動が適切なことは, 親の自己実現が高いこと, 疾患関連ストレスが少ないこと, 子育てがnegativeでないこと,「朝すっきり起きられる」「就寝時間」「外出後の手洗い」と相関がみられた.
    結果より, (1) 親が自分の健康に関心を向け, 子育てを楽しんだり, 子どものよい面に目を向けられるように働きかけること, (2) ストレスが高い親, 特に患児の療養行動が不適切な親に対し, 親のストレスを緩和し, 子どもに支持的に関われるような看護援助を行うこと, (3) 親の就寝時間や清潔行動など実際の行動を適切にすることで, 患児がモデルとして取り込めるようにする看護援助が大切であると考えられた.
  • -ソケイヘルニアに焦点をあてて-
    小野 智美
    1999 年 19 巻 3 号 p. 83-90
    発行日: 1999/11/30
    公開日: 2012/10/29
    ジャーナル フリー
    研究目的は, 子どもがソケイヘルニア根治術で日帰り手術を受ける母親の手術前の対処行動とその影響要因, 及び対処行動が母親の手術中と手術後の適応に及ぼす影響を明らかにすることである. 概念枠組みはLazarusのストレスコーピン理論を参考に作成した. 54名の母親に手術前, 手術中, 手術後に質問紙調査を行った. 母親の手術前の対処行動は『子どもの心理的準備の促進』『家族の外的資源と子どもの生活環境の調整』『外来での医療情報と環境の確保』『直視・努力的感情調整』『楽観・回避的感情調整』が抽出された. 母親の手術前の対処行動に影響する要因は「ソーシャルサポート」「病児年齢」「支援者数」「手術前の状態不安」「特性不安」であった.『子どもの心理的準備の促進』『直視・努力的感情調整』『外来での医療情報と環境の確保』が「手術後の母役割達成感」に正の影響力をもち,『子どもの心理的準備の促進』『直視・努力的感情調整』が「手術中の状態不安」にそれぞれ負と正の影響力をもつ対処行動であった. 母親の『子どもの心理的準備の促進』と『外来での医療情報と環境の確保』への看護援助の必要性が示唆された.
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