日本看護科学会誌
Online ISSN : 2185-8888
Print ISSN : 0287-5330
ISSN-L : 0287-5330
29 巻, 4 号
選択された号の論文の11件中1~11を表示しています
原著
  • 安東 由佳子, 片岡 健, 小林 敏生, 岡村 仁, 北岡 和代
    原稿種別: 原著
    2009 年 29 巻 4 号 p. 4_3-4_12
    発行日: 2009/12/21
    公開日: 2011/08/30
    ジャーナル フリー
    目的:神経難病患者をケアする看護師の職場環境改善への示唆を得るために,バーンアウト因果モデルを作成し検証することである.
    方法:神経難病専門病棟に勤務する看護師385名を対象として郵送調査を実施し,共分散構造分析でバーンアウト因果モデルの検討を行った.
    結果および結論:有効回答数は248部であった.分析の結果,バーンアウトに影響を及ぼす仕事ストレッサーは,「仕事の量的負荷」と「上司との軋轢」であった.神経難病看護経験3年未満で「言語的暴力」が「シニシズム」に直接的影響を,また3年未満で「関わりの難しさ」,3年以上で「ケア見通しの不明瞭さ」がバーンアウトに間接的影響を及ぼしていた.バーンアウト後は,離職・配置転換意思が強まるが,3年未満は「同僚との軋轢」,3年以上は「仕事の量的負荷」と「言語的暴力」が離職・配置転換意思に直接的影響を及ぼしていた.3年未満の場合,職場内サポートの弱さは,離職・配置転換意思に直接的に影響していたため,経験の少ない看護師にとってサポートはより重要であると考えられた.以上より,職場環境改善には,職場全体の対策に加えて,難病看護経験年数に応じた対策が必要であることが示唆された.
  • ─障害児もいる家族として社会に踏み出す
    濵田 裕子
    原稿種別: 原著
    2009 年 29 巻 4 号 p. 4_13-4_22
    発行日: 2009/12/21
    公開日: 2011/08/30
    ジャーナル フリー
    本研究は,障害のある子どもをもつ家族が,子どもを社会につなぐプロセスを明らかにすることを目的とし,Grounded Theory Approachに基づく継続的比較分析法を用いて行った.対象者は,障害のある子どもの親33名(15組の両親と3名の母親)で,子どもは学童期の身体障害のある子どもであった.
    本研究で見出されたカテゴリーは,《わが子の感解》,《障害をとりまく社会への現実志向》,《“うちの家族”の形成(再形成)》,《障害のある子どもと社会をつなぐ方略》の4カテゴリーであり,コアカテゴリーは[障害児いる家族として社会に踏み出すプロセス]であった.親は障害のある子どもを育てるなかで,徐々に《わが子の感解》をし,《障害をとりまく社会への現実志向》をしながら,一方で《“うちの家族”の形成》を行っていた.そしてこれらのプロセスの中で徐々に,親は子どもと社会の関係を捉え,《障害のある子どもと社会をつなぐ方略》を用いるようになった.
  • 山本 唱子, 中塚 晶子, 吉村 裕之
    原稿種別: 原著
    2009 年 29 巻 4 号 p. 4_23-4_31
    発行日: 2009/12/21
    公開日: 2011/08/30
    ジャーナル フリー
    既存の疲労測定尺度は,身体面と精神面の疲労因子から構成されているが,認知面および対人面にも疲労は表出される.本研究は,このような視点から,まず,疲労の程度を包括的に評価する4因子の多次元測定尺度を作成し,統計学的に検証した上で,疲労感に相補的な自己効力感との関連を検討することを目的とした.対象は,40~59歳の既婚有職者395人であり,検証的因子分析の結果,適合度指標RMSEA=0.067が得られ,構成概念妥当性は確保されていた.内的整合性も,尺度全体のCronbachのα係数値が0.945と良好であった.疲労感と自己効力感を構成する因子間の関連を正準相関分析した結果,有意な強い正準相関変数(λ=0.801)が得られ,失敗に対する不安と精神面,認知面,対人面における疲労得点との間に強い負の相関がみられた.自己効力感は,疲労感を軽減する方策を構築する際に重要と考える.
  • ─心の支えである他者と喜び・楽しみ,それらと前向きに生きる力Hopeとの関連から
    平野 優子
    原稿種別: 原著
    2009 年 29 巻 4 号 p. 4_32-4_40
    発行日: 2009/12/21
    公開日: 2011/08/30
    ジャーナル フリー
    目的:在宅で侵襲的人工呼吸療法を行う筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者が困難に対応するために必須の対処資源である心の支えになる他者と喜び・楽しみの内容を把握し,これらと属性と病気・療養に関する特性との関連を解明するとともに,前向きに生きる力を表すHopeとの関連から意味づけを行うこと.
    方法:面接調査の結果をもとに作成した質問紙を用いた無記名の郵送配票調査を実施し,121ケースを分析対象とした.HopeレベルはHerth Hope Index尺度を用いた.
    結果:患者の9割が心の支えになる他者と何らかの喜び・楽しみを有していた.心の支えである他者が家族だけではなく医療・介護職者と友人・知人と支援者にまで及んでいたのは13%であり,喜び・楽しみが「身近で些細な癒されるもの・愛でるもの」だけではなく「人との関わり」と「ALS関連の情報収集」と「積極的な行動や活動」に及んでいたのは22%であった.これらを多領域にわたってもつ人ほどHopeは高かった.意思伝達装置のパソコンを利用する人で,心の支えになる他者や喜び・楽しみを多領域にわたって有していた.
    結論:本研究では,これまで重要と言われてきた心の支えになる他者や楽しみといった対処資源が,身近なものを基盤として徐々に外に広がるという構造をもつこと,外部に広がるほどHopeが高いことが新たに明らかとなり,生活の質が高まる可能性が示唆された.患者への支援は,Hopeを維持し向上するという観点からも,これらの対処資源の維持・創出を目指すことが重要であり,社会とのつながりや意思伝達装置の利用が効果的である.
  • ─前向きに生きる力Hopeとの関連から
    平野 優子
    原稿種別: 原著
    2009 年 29 巻 4 号 p. 4_41-4_50
    発行日: 2009/12/21
    公開日: 2011/08/30
    ジャーナル フリー
    目的:在宅侵襲的人工呼吸療法を行う筋萎縮性側索硬化症患者が現在抱える困難と要望の内容を把握し,前向きに生きる力Hopeとの関連からこれらの意味づけを行うこと.
    方法:面接調査の結果をもとに作成した質問紙を用いた無記名配票調査を実施し,121ケースを分析対象とした.HopeレベルはHerth Hope Index尺度を用いた.
    結果:現在抱える困難は幅広く,精神的・霊的苦悩,身体的苦痛および社会的困難に関するものであった.8割以上の患者が抱えかつ低いHopeと関連をもつ具体的困難は,意思表出困難,家族の介護負担や周囲の人への重荷意識などの精神的・霊的苦悩に関する内容が多くを占め,身体的苦痛に関する内容は同一体勢による倦怠感であった.すべての患者から何らかの要望が表出され,8割以上の患者が,自宅での生活の継続,治療法の確立,家族の介護負担の軽減といった,高いHopeとは関連しない生活の基盤づくりを要望した.
    結論:患者支援は,多くの患者が抱える困難と要望への支援に加えて,Hopeを維持・回復するという観点からも,Hopeとの関連をもつ困難の軽減・除去および要望の実現を目指すことが重要かつ効果的であること示唆された.
  • 深谷 基裕
    原稿種別: 原著
    2009 年 29 巻 4 号 p. 4_51-4_59
    発行日: 2009/12/21
    公開日: 2011/08/30
    ジャーナル フリー
    本研究は,気管支喘息をもつ学童が喘息発作による主な症状である「息苦しさ」をどのように体験しているのかを明らかにすることを目的に,民族看護学の研究方法を用いて行った.主要情報提供者である気管支喘息をもつ学童11名への参加観察と面接,一般情報提供者として主要情報提供者の保護者,病棟看護師,救急外来看護師,医師,保育士等の計39名への面接により得られたデータを分析した結果,5つのテーマと1つの大テーマが抽出された.
    学童にとって,息苦しさはいきなり外からやって来ると感じられ,息苦しさが「ひどく」なると胸からする「ヒューヒュー」という音が「魂が抜ける音」にも聞こえてくるものであった.そして息苦しさの恐怖の中,学童はひとりで何とかしようともがきながら早く大人に気づいてほしいと待ち続けていることが明らかになった.
    以上のことから,看護師は生きることを脅かされる学童の発作体験にも耳を傾けていくことが必要である.また学童の息苦しさの体験は,母親が側にいることで緩和される傾向があったため,看護師がこのことを保護者に伝え,保護者が意識して実践することで,学童の息苦しさの感覚は早期に緩和されるのではないかと示唆された.
研究報告
  • 藤本 佳子
    原稿種別: 研究報告
    2009 年 29 巻 4 号 p. 4_60-4_68
    発行日: 2009/12/21
    公開日: 2011/08/30
    ジャーナル フリー
    目的:本研究では,看護師のストレス状況や内的特性について分析を行い,看護師が臨床心理士に求める援助について明らかにすることを目的とした.
    方法:本研究では既存のStampsらの「看護師の満足度尺度」,菊池・原田の「看護師の自律性測定尺度,島津らの「職場ストレッサー尺度・ストレス反応尺度」と意識調査の質問項目の混合の質問紙を使用し調査を行った.
    結果:調査結果より,ストレス過多予備軍の傾向として,「過敏」との関連が示された.
    また,臨床心理士に求める援助としては,「患者の心理的援助」(62.4%)が最も多く,次に「看護師・患者間のコンサルテーション」(14.6%),3番目に「医療従事者の心理的援助」(13.2%)が多かった.
    結論:今後,看護職のストレスに対するスクリーニング調査を適宜行う必要がある.また,自分自身の心理的援助を望む看護師に対して,カウンセリングを行うなど臨床心理士の活用が必要と考えられる.看護師の支援を行うことによって,看護職のストレス緩和や患者への質の高い看護が提供できると考えられる.
  • 角本 京子, 落合 亮太, 田中 真琴, 数間 恵子
    原稿種別: 研究報告
    2009 年 29 巻 4 号 p. 4_69-4_78
    発行日: 2009/12/21
    公開日: 2011/08/30
    ジャーナル フリー
    重症心身障害児(者)看護の質向上に資するため,重症心身障害児施設で働く看護師が経験を基盤に親への関わりにおける認識と実践を変化させていくプロセスを記述することを目的に,重症心身障害児施設で働く20名の看護師に半構造化面接を行い,グラウンデッド・セオリー・アプローチの手法を用いて分析を行った.その結果,子のケアをしっかりすることで親も満足すると考え〈子へのケアの充実〉を行う段階,できる限り親の要望を表出させ,子のケアに生かす〈親の要望の反映〉の段階,看護師と親がお互い納得できるケアを模索する〈共通認識の模索〉の段階,施設の限られた資源の中でスタッフ間のケアの統一と子一人ひとりを尊重しようとする意識をもつことを目指す〈平等性の追求〉の段階の4段階のプロセスが抽出された.《親には安心して子を預けてもらいたい》という思いがこのプロセスを推し進める原動力となっていた.
  • 古島 智恵, 井上 範江, 児玉 有子, 分島 るり子
    原稿種別: 研究報告
    2009 年 29 巻 4 号 p. 4_79-4_87
    発行日: 2009/12/21
    公開日: 2011/08/30
    ジャーナル フリー
    目的:本研究は,足浴が不眠を訴える入院患者の睡眠へ及ぼす効果を明らかにすることを目的とした.
    方法:不眠を訴える入院患者10名(55.4±8.6歳)を対象とし,足浴を行う場合(足浴日)と足浴を行わない場合(コントロール日)の比較を,心拍数,LF/HF,HF成分および主観的睡眠感を用いて行った.また,足浴は,臨床での実践同様にベッドサイドで患者への声かけ等の関わりをもちながら就寝前に実施した.
    結果:心拍数とLF/HFのデータにおいて,コントロール日と足浴日の時間経過は,二元配置分散分析によって交互作用が認められた.心拍数については,コントロール日は入眠後に低下し,その変化はゆるやかであったのに対し,足浴日は消灯後から速やかに低下し,その変化は著しかった.LF/HFについては,コントロール日は睡眠中に低下せず高いままであったのに対し,足浴日は入眠後に有意に低下し睡眠中も低い値で経過した.さらに,主観的睡眠感は,足浴日のほうがコントロール日より有意に高かった.
    結論:不眠を訴える入院患者に対して,臨床での実践同様にベッドサイドで患者への声かけ等の関わりをもちながら就寝前に足浴を実施することは,不眠の改善をもたらすことが心拍数,LF/HF,主観的睡眠感によって示された.
  • ─同居と別居の差異
    香川 里美, 越田 美穂子, 大西 美智恵
    原稿種別: 研究報告
    2009 年 29 巻 4 号 p. 4_88-4_97
    発行日: 2009/12/21
    公開日: 2011/08/30
    ジャーナル フリー
    目的:長期入院統合失調症患者の家族が,退院を受け入れる心理プロセスを明らかにすることを目的とした.
    方法:研究協力者10名を対象に半構成的面接を行い,修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチを用いて分析した.
    結果:家族が退院を受け入れる心理プロセスから,29の概念と6つのカテゴリーを見出した.受け入れるプロセスは,患者との同居の有無によって差異があった.別居の家族は,家族自身が振り回されないことが退院の決め手となったが,現在は患者の病状改善に対する喜びを感じていた.一方同居の家族は,家族自身の家庭内が落ち着いたことが決め手となったが,現在は病状悪化の不安があり,患者との保てない距離感や付きまとう家族共倒れの心配を抱いていた.
    結論:同居の家族は,別居の家族に比べ,より多くの援助を必要としていることが明らかとなった.看護師は,家族の思いを受容し,患者や家族のQOLの向上のために継続的な支援が必要であることが示唆された.
  • ─女性うつ病患者のサポートグループにおける体験から
    原田 由香, 影山 セツ子
    原稿種別: 研究報告
    2009 年 29 巻 4 号 p. 4_98-4_108
    発行日: 2009/12/21
    公開日: 2011/08/30
    ジャーナル フリー
    本研究は,復職を目指す女性うつ病患者がサポートグループでどのような影響を受けたことにより,復職に取り組めたのかを明らかにすることを目的とした.うつ病と診断されグループに参加する女性協力者5名を対象に,半構成的面接を行い質的帰納的に分析した.
    その結果,【うつ病を取り巻く環境】【サポートグループで得られた知識】【カタルシスの場としてのサポートグループ】【支えとなったサポートグループという場】【共感し合えた仲間の存在】【回復と悪化をともにした仲間の存在】【サポートグループでの仲間やスタッフとの出会い】【抵抗を感じながらも受容したうつ病】【認識および行動の変化】【ライフスタイルにおける変化】【回復への期待】【葛藤を伴いながらも取り組んだ復職】の合計12カテゴリーが抽出された.これらより女性うつ病患者の復職には専門職者を含むグループという場による全面的な後ろ盾と,多様な病状経過を辿りながらも復職を目指す仲間の存在が大きく影響することが示唆された.
feedback
Top