日本看護科学会誌
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30 巻, 3 号
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巻頭言
原著
  • ─自然経過観察を選択した人々の生活体験─
    藤島 麻美, 井上 智子
    原稿種別: 原著
    2010 年 30 巻 3 号 p. 3_3-3_12
    発行日: 2010/09/21
    公開日: 2011/08/15
    ジャーナル フリー
    目的:本研究は未破裂脳動脈瘤に対し自然経過観察を選択した人々の生活体験を明らかにし看護支援への示唆を得ることを目的とした.
    方法:現象学的アプローチを用いて,未破裂脳動脈瘤を1年以上経過観察している人々を対象に非構造化面接調査を実施した.データ分析にはGiorgiの分析方法を用いた.
    結果:17名の対象者から得られた質的データ分析の結果,21の本質的要素が抽出された.それらはさらに(1)診断・療養体験(2)対処・生活再構築(3)瘤と共に生きる,の3側面に分けられた.対象者は『拭い去れない不安感』を抱えながらも『少しずつ生活範囲を拡大する』『破裂のリスクを最小限にする』などのさまざまな対処を経て,最終的に『時と共に積み重なる自信と確証』を得ていた.また瘤と共に生きる側面は,『瘤を自分なりに捉え直す』『肯定的側面に目を向ける』『瘤との適度な距離を知り保つ』の3局面をたどっていた.
    結論:予防行動と不安のバランス保持,捉え直しと肯定的側面への気付き,瘤との適度な距離の理解などの看護支援を併せたフォローアップを行うことが必要であることが示唆された.
  • 中神 克之, 明石 惠子
    原稿種別: 原著
    2010 年 30 巻 3 号 p. 3_13-3_22
    発行日: 2010/09/21
    公開日: 2011/08/15
    ジャーナル フリー
    目的:消化器がん患者がヘルス・リテラシーを発揮している現象として,自覚症状出現時からがんの発見に至るまでの医療・健康情報の入手や活用のプロセスをとらえ,その構造を明らかにする.
    方法:研究協力者10名に対して,術前に参加観察と半構成的面接を行い,グラウンデッド・セオリー・アプローチで分析した.
    結果:《自己診察》という中心概念が抽出された.症状を自覚した患者は,今までの経験・知識,新たな情報によって病因を予測し,病院の受診あるいは経過観察を経て,がんの発見に至った.一方,自覚症状のない患者は,検診や定期受診によってがんの発見に至った.
    結論:消化器がん患者は,自覚症状という身体からの情報提供に,今までの経験・知識と新たに収集した情報などを参考にして病気の予測をする《自己診察》を行っていた.そして病因の予測と受診行動の決定の後,がんの診断に至っていた.今までの経験・知識を使用する能力は,情報を蓄積し活用するという新しいヘルス・リテラシーの能力の1つであると考えられた.
  • 村上 好恵
    原稿種別: 原著
    2010 年 30 巻 3 号 p. 3_23-3_31
    発行日: 2010/09/21
    公開日: 2011/08/15
    ジャーナル フリー
    目的:遺伝性非ポリポーシス大腸がん(HNPCC)に関連する遺伝子検査の結果開示1ヵ月後,12ヵ月後における,発端者と未発症家系員の精神的苦痛および罪責感について明らかにすることを目的とした.
    方法:A病院の遺伝相談外来で遺伝子検査を受けたHNPCCに関連するがんを発症している発端者,家系内でHNPCCに関連する遺伝子変異が同定されている未発症家系員を対象に,精神医学的構造化診断面接法を用いて遺伝子検査の結果開示後の精神的苦痛を評価した.また,半構造化面接法により結果開示後の罪責感を調査した.
    結果:HNPCCの遺伝子検査を受けた52名中47名にベースライン調査を実施し,1ヵ月後は42名(89%),12ヵ月後は30名(64%)が完遂した.この30名を対象に解析を行った.結果開示1ヵ月後,12ヵ月後に,重篤な精神的衝撃はみられなかった.しかし,精神的な脆弱性をもつ対象者において12ヵ月後に精神的苦痛を生じやすい可能性が示唆された.また,結果開示後の罪責感は,遺伝子検査の結果にかかわらず,発端者と未発症家系員の両者にみられた.
    結論:対象者の精神的な脆弱性の有無を早期にアセスメントし,家系全体を対象とした長期的な視点で支援する体制を整えていくことが必要である.
研究報告
  • 千葉 理恵, 宮本 有紀, 船越 明子
    原稿種別: 研究報告
    2010 年 30 巻 3 号 p. 3_32-3_40
    発行日: 2010/09/21
    公開日: 2011/08/15
    ジャーナル フリー
    目的:わが国で地域生活または入院している精神疾患をもつ人の,疾患の経験によるベネフィット・ファインディングの特性を,質的に明らかにすること.
    方法:2008年6~9月に,精神疾患をもつ20歳以上の者を対象として,ベネフィット・ファインディングに関する質的項目を含む,調査票を用いた横断調査を行った.調査の同意を得られた193名のうち,有効回答者107名の回答を,ベレルソンの内容分析の手法により分析した.
    結果:分析の結果,『人間関係の深まり・人間関係での気づき』『内面の成長・人生の価値観の変化』『健康関連の行動変容・自己管理』『精神の障害に関する関心や理解の深まり』『社会の中で新たな役割を見出すこと』『宗教を信じること』および『その他』の7カテゴリーが抽出された.
    結論:精神疾患をもつ人のベネフィット・ファインディングには多彩な内容があり,さまざまな慢性身体疾患をもつ人のベネフィット・ファインディングと共通点をもつことが明らかになった.
  • 野村 雅子, 太田 勝正, 井口 弘子, 新實 夕香理
    原稿種別: 研究報告
    2010 年 30 巻 3 号 p. 3_41-3_50
    発行日: 2010/09/21
    公開日: 2011/08/15
    ジャーナル フリー
    わが国の看護行為がICNP®によりどのように記述できるかを検証し,記述の際の問題点を明らかにするとともに,ICNP®導入に向けた課題について検討した.
    研究方法は,看護行為用語分類(日本看護科学学会編)に収録されている用語のうち,「観察・モニタリング」「基本的生活行動の援助」「身体機能への直接的働きかけ」の3領域94語のICNP®表現構成ガイドラインに基づく記述と結果の検証である.
    結果として,ICNP®により約70%の看護行為用語の内容をほぼ的確に表現でき,ICNP®による記述の実用性が示唆される一方で,ICNP®では抽象的な表現しかできなかったものが約20%,看護行為用語の一部の内容しか表現できなかったものが約10%あり,ICNP®用語の不足が示された.さらに,清拭など看護として重要な行為用語が端的に記述できないなど,用語の追加の必要性や軸の定義とその使い方などの検討課題が明らかとなった.
  • ―臨床経験年数別の分析―
    能見 清子, 水野 正之, 小澤 三枝子
    原稿種別: 研究報告
    2010 年 30 巻 3 号 p. 3_51-3_60
    発行日: 2010/09/21
    公開日: 2011/08/15
    ジャーナル フリー
    目的:本研究の目的は,看護職員の離職意図や意欲の向上を予測する情緒的組織コミットメントの関連因子を臨床経験年数別に明らかにすることである.
    方法:関東圏にある政策医療を担う3施設に勤める管理職に就いていない看護職員1,302名に質問紙調査を実施した.調査項目は,情緒的組織コミットメント尺度,上司サポート尺度・同僚サポート尺度,研究者が設定した21項目,個人属性とした.
    結果:回収された調査票は514部(回収率39.5%)で,有効回答510部を分析対象とした.重回帰分析の結果,情緒的組織コミットメントと有意な正の関連があったのは臨床経験1年未満では「組織公正知覚」「仕事充実感」であった.臨床経験1年以上5年未満においては「病院への評価」「能力開発のチャンス」「仕事量・給与評価」で有意な正の関連がみられた.臨床経験5年以上では「病院への評価」「上司サポート」「配偶者の有無」「年齢」で有意な正の関連があった.
    結論:看護職員の情緒的組織コミットメントの関連因子は,臨床経験年数によって異なり,臨床経験年数に合わせた支援の必要性が示唆された.
  • ─新人・中堅・ベテラン看護師の実践の比較─
    炭谷 正太郎, 渡邉 順子
    原稿種別: 研究報告
    2010 年 30 巻 3 号 p. 3_61-3_69
    発行日: 2010/09/21
    公開日: 2011/08/15
    ジャーナル フリー
    目的:新人,中堅,ベテラン看護師の留置針による血管確保技術の特徴を明らかにする.
    方法:新人20名,中堅25名,ベテラン45名を対象とし,血管確保技術をビデオ録画を用いて観察した.手技時間,血管確保成功率,失敗要因などを3群により比較した.
    結果:留置針刺入部位の選定時間は新人59.4秒,ベテラン44.1秒,留置針刺入時間は新人109.4秒,ベテラン66.6秒であり新人が有意に長かった.1回の穿刺による成功率は新人35.0%,中堅44.0%,ベテラン75.6%,2回以内の成功率は新人65.0%,中堅68.0%,ベテラン93.4%であった.失敗要因は,新人は「刺入時に血液の逆流なし」,中堅は「内針抜去時に血液の逆流なし」が最多であった.
    結論:新人はベテランより「留置針刺入部位の選定」および「留置針刺入」の手技時間が長い.1回の穿刺による成功率は新人35.0%,中堅44.0%,ベテラン75.6%であった.新人は正しく留置針を血管内に刺入することが困難であり,中堅は外針を留置する巧緻性に習熟していない.
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