本研究では, 一般大気環境で用いられている低濃度の臭気測定法を高齢者施設における低濃度臭気測定法として用い, 臭気感覚評価の視点から検討を行った. 測定を行った現地と採取した試料を持ち帰った実験室で臭気感覚評価を実施し, 評価値を比較, 検討した. その結果, 次のことが明らかとなった.
本調査対象の高齢者施設の居室における臭気は, 新築特有の「建材臭・塗料臭」と, 施設特有の「し尿臭」の2グループに大別された. 建材臭・塗料臭に関しては, 「実験室」の評価の方が「現地」の評価よりも強度などが若干高くなる傾向がみられたが, 「現地」と「実験室」の評価傾向は類似していた. し尿臭については, 「現地」と「実験室」の臭気質に対する評価傾向は類似しているが, 臭気強度, 不快性について, 「現地」の評価の方が「実験室」の評価より高くなった.
「現地」と「実験室」の評価値が異なった要因として, 既往の研究で, 建材臭・塗料臭は吸着管による回収率が特に高いが, し尿臭は回収率が若干低いとされていること, し尿臭については, 一時的に強い臭気が発生し, 臭気に変動があること, におい袋法では, 評価に袋固有の臭気が影響する可能性があること, 施設の居室において入室して評価する場合には, 空間の状況が把握できるため, 評価値に視覚的情報が影響する可能性があることが挙げられた.
抄録全体を表示