“におい”は, 快適性や嗜好性が人間との係わりにおいて絶対不可分のものである. このにおい特性は二面性を持っている. 一方は, “臭”で人間にとって不快で, 嫌悪感を覚えさせ, 臭気から逃避したりそれを除去したりすることが望まれる領域である. 他方, “香”は, 人間にとって快適で, 好ましく, 生活の中に積極的に取り入れて快楽を味わう領域である.
当協会では, 今まで“におい環境”について臭の領域に重点を置き活動をしてきたが, におい環境全般を網羅すべく香の領域にも活動範囲を広げようとしている. その決意を明らかにするために協会名を臭気対策研究協会からにおい・かおり環境協会に改名したところである. においは, 除去するもので無臭が最高のにおい環境であると信じていた協会員の方も多いと思う. しかしにおいをつける (賦香) とか, におい (香り) を創造するとかいう香りの領域についても, 同じにおい領域の話なので, 今後は関心を持っていただきたい. 本特集をご一読すれば, “眼からうろこ”で新しい世界が広がるやもしれない.
香りの領域の話は, 間口が広くかつ奥行きが深い. 香料関連で過去に3名のノーベル賞を受賞した研究者を輩出しているほどである. 今回の特集では, 「香りの創作やその利用の歴史」, 「香りの創作をするための材料である香料素材」, そして「どのようにして香りを創作するのか」について, 香料業界で活躍された著名な先生方に, 入門編として分かりやすく解説をしていただいた.
(1) 本間延実氏 (元曽田香料) : 生活の中での香りの利用は, 人類の生誕と時を同じくする. 古代エジプト時代には, 既に人為的に新しい香りを創作していたことが史実に残っている. 人と香りとの深い関わりあいを, 歴史を通して知り, “香りの創造”の意義を見出す.
(2) 堀内哲嗣郎 (本特集主査・元小川香料) : 我々の生活に役立つように生産されるにおい物質を香料という. 香料は, 使用目的に応じて食品用香料 (フレーバー) と香粧品用香料 (フレグランス) に大別される. それぞれの使用目的に適合するように, 調香師 (フレーバリスト, パフューマー) が香料の配合割合 (処方) を創作する. 配合された香料を調合香料といい, それに用いられる香料を香料素材という. 千差万別の香りを自由に創作することができる, 香の魔術師といわれる調香師が用いる香料素材とは何かを知る.
(3) 蟹沢恒好氏 (元高砂香料) : フレーバーといわれる食品に用いる味を考慮した香りの創造は, 我々が食生活の中で経験する香りが手本となり, それを逸脱することは困難である. その理由は, 食品に対して人間は保守的で, 多くの場合学習により嗜好が形成される. このような特徴を有する香りの創造方法とはどのようなものか.
(4) 宍戸義明氏 (現クエスト・インターナショナル・ジャパン) : 食品以外の用途に用いられるフレグランスは, 香水に代表される芸術性の高い香りで, 新規性, 独創性が求められる. 視覚における絵画, 聴覚における音楽, そして嗅覚における香水は, その芸術性を同等に論じられる. 芸術性を追及した香りとはどのようなもので, どのようにその香は創造されるのであろうか. 現在香の創作活動の第一線で活躍されているシニアパフューマーが語る.
各先生は, 研究に長らく従事されて研究発表や執筆も多く, 読者の中にはすでにご存知の方もいるかもしれない. 今回当協会の実情をお話していろいろ要望を申し上げたところ快くお引き受けいただき, ややもすると専門的で難解になりがちな内容の話を興味深くかつ分かりやすく執筆していただいた. この紙面を借りて厚く御礼申し上げる.
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