におい・かおり環境学会誌
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37 巻, 6 号
NOVEMBER
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特集(化学感覚受容のしくみ)
  • 坂井 信之
    2006 年 37 巻 6 号 p. 397
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/09/06
    ジャーナル フリー
    においやかおりが漂ってくると,我々はそのにおいの元を目で探してしまう.そこでにおいの元が何であるか理解できたときには安心するし,においの元を探し出せないときには,しばらく不安な気持ちになってしまう.このように,人では,においやかおりは単独で機能するのではなく,絶えず他の感覚と同時に使用されることによって外界の認知に役立っている.
    これまで,本学会誌はにおいやかおりの受容機構に関する総説特集や研究論文を多く掲載してきた.しかしながら上述したような事例から,においはそれ単独で感じられるだけではなく,味覚や三叉神経覚などと統合され,風味や化学環境の知覚を形成していると考えられる.そこで本特集では,においやかおりと関連が深い他の感覚の受容機構とそれらと嗅覚との相互作用に関する総説論文を掲載し,読者の方々がにおい・かおりの受容機構をより広く深く理解する助けとしたい.
    最初に味覚の受容機構について長年にわたって生理学の観点から味覚を研究されてきた小川氏(熊本機能病院神経内科・熊本大学名誉教授)と脳磁場計測の手法により現在精力的に味覚の脳機構について研究を進められている小早川氏((独)産業技術総合研究所)にまとめていただいた.口腔内での味覚の末梢性受容機構から,味覚情報の脳内情報伝達系,サルやヒトの大脳での味覚情報処理など,最低限知っておくべき知識から最新の知見までを盛り沢山に紹介していただいており,大変読み応えのある総説になっている.
    次に三叉神経系の化学感覚の受容機構を駒井氏(東北大学)を中心として井上氏(日本たばこ産業(株)),長田氏(北海道医療大学)らにまとめていただいた.しばしば味覚や嗅覚と混同される炭酸の刺激感,カプサイシンによる辛味,メントールの刺激感などについて,末梢の受容機構を中心に解説していただいた.
    続いて,化学感覚ではないが,食物を摂取するときには必ず生じている口腔内の物理的感覚(温度やテクスチャーなど)の受容機構ならびに,それらと口腔内の化学感覚との関係について硲氏(朝日大学)にまとめていただいた.歯痛のときにしか生じないと思われている歯の「感覚」が,実は通常の食事時にも生じており,それが食物の固さの感覚や異物の検出に重要な役割を果たしていることは,ここで初めて目にされる読者の方も多いかもしれない.
    これまでの三論文が比較的単純な感覚の話であったのに対して,あとの二論文は,単一の感覚というよりも,複数の感覚が統合された結果生じる,より複雑な知覚の仕組みについてまとめている.いずれの論文も,におい(嗅覚)を中心にまとめられているため,読者の方の興味を引き,また実際の業務などへの応用も期待できるのではないだろうか.庄司氏((株)資生堂)の論文は嗅覚が他の感覚・知覚(視覚や体性感覚など)に及ぼす影響を,反対に,坂井の論文は他の感覚(視覚や味覚など)が嗅覚の質の識別や強度評定,快不快判断などに及ぼす影響について紹介している.
    このように,一言でにおいと言ってもそれが必ずしも嗅覚の単一の感覚からなるというわけではない.我々が「においがする」と思っているときには,ここに述べたような他の感覚や知覚によって修飾され(歪められ)た結果生じたにおい体験(嗅覚知覚)を感じていることが多い.これらのことに加えて,においに対する嗅ぐ人の経験や知識などの要因も絡んでくるため,結果として,においの感じ方には個人差が大きくなるのである.今回の特集を機に,多くの読者がにおいの奥深さについて認識を深めていただければ幸いである.
  • 小川 尚, 小早川 逹
    2006 年 37 巻 6 号 p. 398-407
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/09/06
    ジャーナル フリー
    嗅覚の受容器官の鼻と味覚の受容器官の口がお互いに近い場所にあることもあって,嗅覚と味覚は神経系でも親密な関係があるように思われているが,両感覚の情報は連合野まで統合されることはない.本論文では,先ず味覚の一般的な性質について述べるとともに,さらに霊長類の味覚について,末梢から大脳皮質連合に至る経路に沿って味覚情報がどのように分析統合されるかについて述べた.さらに,非侵襲的脳イメージングにより明らかにされたヒトの大脳皮質第一次味覚野とその他の味覚関連領野の働きについて概説した.
  • 駒井 三千夫, 井上 貴詞, 長田 和実
    2006 年 37 巻 6 号 p. 408-416
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/09/06
    ジャーナル フリー
    三叉神経は,顔面の主要な感覚神経である.本稿では,この神経を介した刺激性物質の感覚受容について述べる.三叉神経受容といえばトウガラシなどの辛味成分のカプサイシン,冷線維刺激性のメントール,炭酸飲料の炭酸ガスなどがイメージされるが,ここでは3人の筆者がそれぞれ得意とする「三叉神経による溶存炭酸ガスの受容・伝達機構」(見出2 : 駒井),「香辛料・ハーブ類などに含まれる刺激物質の受容に関わるTRP(transient receptor potential)チャネル」(見出3 : 井上),「化学感覚と体性感覚の相互作用」(見出4 : 長田)について順に概説した.すなわち,(1)炭酸飲料中の炭酸ガスがどのようなしくみで受容されてシュワシュワ・チクチク感を感じるのかを解説し,(2)食品にさまざまな風味を付与する香辛料,ハーブ類の外因性化学物質による体性感覚発現への関与が示唆される受容機構のうち,最近解明されてきたTRPスーパーファミリーに属する4種の受容体を活性化する物質群を紹介し,(3)最後に,三叉神経刺激物質と味覚・嗅覚への影響が我々の生活で最も関心がもたれているので,味覚・嗅覚の神経伝達と三叉神経刺激の関連性について解説した.
  • 硲 哲崇
    2006 年 37 巻 6 号 p. 417-423
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/09/06
    ジャーナル フリー
    摂食行動は,化学感覚である嗅覚・味覚の他に,食物の温度や硬さ,さらにはテクスチャーといった物理的な刺激を受容する体性感覚が存在しなければ円滑に行われることができない.本論文では,摂食行動に関与する口腔体性感覚の役割を概説し,さらにこれら体性感覚と化学感覚に優先性をもたせて動物が摂食行動を調節している様子について,筆者らの研究知見も踏まえて概説する.
  • 庄司 健
    2006 年 37 巻 6 号 p. 424-430
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/09/06
    ジャーナル フリー
    香りの情報が同時に取り込んだ他の感覚の判断に与える影響についてまとめた.
    香りの違いによりモノの重さや温冷の判断,日常使用されている化粧クリームの使用感や肌実感にも違いがみられることが,実験により明らかになってきた.香りの質的な特徴が,こうした香りの働きを生み出すことに影響していると考えられた.本研究で検討した感覚の判断を変化させる香りの働きを活用することで,より豊かで満足感の高い生活に役立てることが出来るのではないかと考えている.
  • 坂井 信之
    2006 年 37 巻 6 号 p. 431-436
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/09/06
    ジャーナル フリー
    本稿では,まず,においを溶かした溶液の色やにおい源をイメージさせる写真などの視覚情報が,嗅覚情報処理にどのような影響を与えるかということを調べた研究を紹介した.さらに,これらの影響について,視覚と嗅覚の連合学習,視覚による事物の認知と嗅覚に対するトップダウン処理,視覚による認知の誘導とそれと一致するにおいの側面の強調という3つの考え方から解釈した.最後に,視覚以外の感覚がにおいの知覚や認知に与える影響を調べた研究を紹介し,人間のにおい認知が非常に複雑に行われている過程を理解することによって,におい世界の個人差の理解へつながる可能性を示した.
研究論文
  • 板倉 朋世, 光田 恵, 稲垣 卓造
    2006 年 37 巻 6 号 p. 437-448
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/09/06
    ジャーナル フリー
    本研究は,病院内の不快なにおいを明らかにし,有効な臭気対策を立てるための基礎データを得ることを目的とした.2施設の看護職員254名および1施設の看護職以外の病院職員135名に対する意識調査と高齢者施設に関する既往研究結果との比較考察を行い,次のような結果が得られた.
    看護職員の79.1%,その他の職員の44.4%が病院内のにおいを気にしていた.においの気になる場所は病室,病棟,汚物室,トイレが主であり,気になるにおいの種類は排泄物臭が一番多く,その他に体臭,薬品臭,食べ物臭,タバコ臭,腐敗臭などがあった.特に古い建物では排泄物臭以外のにおいを感じる割合が増え,においの染み付きや複合臭が不快なにおいの要因と考えられた.一時的に強いにおいを発生し不快なにおいの代表である便臭の拡散を制御することと常時気になるにおいとして感じる尿臭と複合臭の制御が快適な病院環境の提供に重要であると示唆された.また,臭気の問題があるとされる病室,便所,汚物室,病棟において,高齢者施設より病院の方が臭気強度,不快度ともに強く不快な結果を示し,高齢者施設以上に臭気対策の必要性が示唆された.
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